解説記事・声明等

出⼊国管理及び難⺠認定法の⼀部を改正する法律案に対する意⾒

2023年3月13日
認定NPO法人 難民支援協会

(PDF版)

<要旨>2023年3月7日、政府は入管法改正案を閣議決定した。2021年の通常国会に提出され、その後廃案となった法案から、実質的な修正は行われていない。日本の難民認定制度には様々な課題があり、難民として認定されるべき人が認定されず、複数回申請を行わざるを得ない実態がある。当会は、日本に逃れた難民の送還を可能とし、命や安心を脅かす法案に強く反対する。日本に逃れた難民を国際基準に則って保護するための包括的で公平な庇護制度の確立こそが、最優先で行われるべきである。

 2023年3月7日、政府は「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(以下「本法案」とする)を閣議決定した。本法案は、2021年の通常国会に提出され、その後廃案となった法案(以下「2021年法案」とする)を再提出するものである。
 2021年法案に対して、当会を含む国内外からの多くの批判が寄せられた。しかし、法案の再提出にあたって実質的な修正が行われることはなく、本法案が「日本に逃れた難民の保護や処遇の悪化につながる内容」であることには変わりがない。当会は、日本に逃れた難民の送還を可能とし、命や安心を脅かす法案に強く反対する。以下、25年近くにわたり日本で難民支援を行ってきた立場から、①難民申請者の送還、②補完的保護、③仮滞在制度、④収容・仮放免・監理措置の4点について、意見を述べる。

1.難民申請者の送還:難民保護の理念に反する形で、送還停止効に一定の例外を設けることは許されない。

 本法案では、一部の難民申請者について、難民申請中の送還を可能にする規定(送還停止効の例外規定)を設けている(第61条の2の9第4項)。難民や難民申請者を送還することは、国際法上の原則(ノン・ルフールマン原則。難民条約第33条)によって禁止されており、このような規定を設けることは、迫害を受けるおそれがある出身国に難民が送還される可能性を高めるものとして許されない。

(1)3回目以降の難民申請者を送還することの課題

 法案では、まず、3回以上にわたり難民申請を行っている者について、「難民の認定又は補完的保護対象者の認定を行うべき相当の理由がある資料を提出した者」を除いて、送還の対象とするとしている(第61条の2の9第4項第1号)。また、2021年法案からの変更点として、3回目以降の難民申請者に対して「相当の理由がある資料が適切に提出されるよう…教示」するとの附則が追加された(附則第15条第4項)。現行の難民認定制度には様々な課題があり、難民として認定されるべき人が2回目までの難民申請において確実に保護される状況にあるとはいえない。このような中で、3回目以降の難民申請者の送還を可能とすることは、難民保護の理念に明確に反する行為であり、許されない。

 日本の難民認定制度は、判断の独立性や専門性、手続きの透明性が十分に確保されていないなど、難民保護の目的を果たすことが困難な仕組みとなっている。難民認定制度が導入された1982年から2021年までの約40年間で、日本において約8万8,000人が難民申請を行い、そのうち難民として認められたのは915人にとどまる1。例えば、ミャンマー出身者について、クーデターが発生した2021年における難民認定数は32人で、559人が不認定とされている。

 2021年法案が廃案となった時点からこれまでの間に、難民認定状況の改善に資する施策はほぼ実施されてこなかった。例えば、「難民認定制度に関する専門部会」による2014年の提言を受けて政府が実施するとした「難民該当性に関する規範的要素の明確化」は、現時点においても策定されていない。また、2020年に第7次出入国管理政策懇談会が「難民認定業務の専門性・独立性をより高める」観点から求めた「組織の在り方」に関する検討2も、現時点までに進められていない。国際社会からも、引き続き課題や改善点が提示されており、昨年11月には、国連の自由権規約委員会が「難民認定率の低さ」への懸念を示した上で、「国際基準に沿った包括的な庇護法を早急に採択すること」との勧告を出している3

 他国と比べて難民の定義が狭く解釈されている日本の難民認定手続きにおいて、国際基準を踏まえれば「相当の理由がある」とみなすべき資料が提出されていても、難民不認定とされることは珍しくない。また、難民申請者の主張を裏付ける証拠がなくても、供述の信憑性によって事実の立証を行うことが、難民認定手続きにおける国際基準である4。そのような中で「資料」の提出を送還停止の要件とすることは、認定手続きに関するの本来のあり方を正しく理解していないことの表れといえる。

 複数回申請者の存在は、ここまで縷々述べてきた難民認定制度の課題に起因するものであり、決して「送還忌避」と見なすべき存在ではない。送還停止効の例外規定を設けるのではなく、日本に逃れた難民を国際基準に則って保護する制度の確立こそが、何よりも優先して行われるべきである。

(2)一定の犯罪歴がある者等の送還に関する国際基準を踏まえない規定

 さらに、法案では、一定の犯罪歴がある難民申請者等について、難民申請回数にかかわらず送還の対象とするとしている(第61条の2の9第4項第2号)。難民条約でもノン・ルフールマン原則の例外が規定されているものの、その対象はきわめて限定された場面に限られており、本法案の内容は、対象においても、手続き面においても、国際基準を満たさないものである。また、難民申請者の一部に犯罪歴があることを強調することは、難民申請者への偏見を助長するものとして、強く懸念する。

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、2021年法案に対する見解において、一定の犯罪歴がある難民申請者等の送還を可能にする規定の「削除」を推奨している5。難民条約上、犯罪歴の有無は難民該当性の判断に影響を与える要素ではない。よって、特に、初回申請者に対して、難民該当性に関する判断を一度も行わず、不服申し立ての機会も与えないままに犯罪歴を理由に国際保護の必要性を一律に否定することは、難民条約の規定に反する。

 2021年12月に入管庁が公表した資料「現行入管法の問題点」は、難民申請のごく限られた側面を切り取った恣意的な内容で、難民申請者を含む外国人に対する差別や偏見を助長しうるものだった6。行政によるこのような情報発信が、共生社会の実現を阻害する要因となることは、想像に難くない。この法案を機に、難民申請者に対する誤った印象がさらに広がることを強く懸念する。

(3)難民申請者への迫害のおそれを高める旅券発給申請命令

 法案では、退去強制令書が発付された者に対して、旅券の発給の申請等を命じる制度を新たに設けている(第52条第12項)。出身国政府からの迫害をおそれる難民申請者に大使館へのアクセスを命じることは、申請者をさらなる危険にさらす行為であり、このような命令を設けるべきではない。実際、難民関連の訴訟等において、国側は難民該当性を否定する根拠として出身国の大使館へのアクセスを挙げてきた7。そのような事情を把握しておきながら、難民申請者を旅券申請命令の対象とすることは、矛盾する対応といわざるをえない。

2.補完的保護:難民条約上の難民には該当しないものの、国際的な保護を必要とする者を保護するという目的を果たす定義に修正するべき。

 本法案では、現行の人道配慮による在留特別許可に関する規定を削除して、補完的保護制度を新たに導入している。しかし、法案における「補完的保護」の対象は狭く、国際基準を満たさないものである。各国の定義を踏まえた補完的保護対象の見直しと、人道配慮による在留許可の維持が望ましい。

(1)各国で確立された定義を踏まえない、日本独自の「補完的保護」の定義

 法案では、補完的保護を「難民以外の者であって、難民条約の適用を受ける難民の要件のうち迫害を受けるおそれがある理由が難民条約第1条A(2)に規定する理由であること以外の要件を満たすもの」(第2条3号の2)と定義している。難民には該当しないが国際保護を必要とする者を保護するという補完的保護の本来の目的を果たせない内容であり、見直しが必要である。

 補完的保護とは、「難民条約上の難民には該当しないが、国際保護を必要とする者を保護し、かつ、そのような者に国内法上の地位を付与する法的枠組み」として、既に多くの国で導入されている8。具体的には、日本も批准する国際人権法(拷問等禁止条約や自由権規約)が保護対象とする人や、無差別暴力を受ける危険がある人を保護対象とするものであり、本法案のように、難民条約上の難民と紐づけた定義とすることは、一般的ではない。

 難民条約が定める難民の定義は、下記の図の通り、大きく4つの要素で構成される。本法案の定義によると、①~③の要素は補完的保護においても適用されることとなるが、これら(特に②③)はまさにこれまで日本の難民認定審査において狭く解釈されてきた要素であり、補完的保護対象者の認定にあたっても障害となることが懸念される。

 また、④の要素について、本来、難民条約が定める5つの理由は、迫害を受けるおそれと「関連づける」ことができれば十分とされている。難民認定の実務上、条約上の迫害理由が難民認定・不認定の判断の決定的な要素となることは少なく、④の要素を省くのみでは、保護対象の広がりは期待できない。

(図:難民・人道配慮による在留許可・補完的保護の定義の現行制度と法案との比較)
[現行制度]難民=①国籍国の外にいる + ②迫害を受ける恐れがあるという十分に理由のある恐怖を有する + ③国籍国の保護を受けることができない・望まない + ④迫害の理由:人種・宗教・国籍・特定の社会的集団の構成員・政治的意見 / 人道配慮による在留許可=本国情勢(紛争等)または本邦事情(婚姻等) ↔︎ [法案] 難民=① + ② + ③ + ④迫害の理由:人種・宗教・国籍・特定の社会的集団の構成員・政治的意見, 補完的保護=① + ② + ③ + ④迫害の理由:その他, ※ 人道配慮による在留許可 → なし | 補完的保護の国際的な定義(①窓意的な生命の剥奪、②拷問、非人道的もしくは品位を傷つける取扱い又は刑罰、③無差別暴力による生命、身体の安全又は自由への重大な脅威)が含まれない?
(図:難民支援協会作成)

(2)紛争難民への難民条約の適用が前提とされていないことの課題

 政府は、本法案における補完的保護の例として、ウクライナから逃れた人への適用を挙げる。しかし、紛争から逃れた者であっても難民条約は適用されるのであり9、実際に、各国の難民認定実務において、紛争から逃れた人が難民として保護されてきた。そもそも、ウクライナ出身者の多くが難民該当性に関する個別審査を経ることなく受け入れられている中で、補完的保護がなければウクライナ出身者が保護されないという主張は成り立たないはずである。紛争から逃れた人の難民該当性の否定にもつながる主張であり、適切ではない。

 例えばシリア出身者について、UNHCRは難民としての保護の必要性を明確に示している10。しかし、日本においては、2011〜2020年までの間の難民認定数は22人に留まり、不認定とされた者の多く(74人)が、人道配慮による在留許可の対象とされている。各国の認定状況11を踏まえると、難民認定に対して補完的保護や人道配慮による在留許可が大きく上回るのは日本独自の傾向と言え、紛争から逃れた人に、難民としての保護を十分に提供できていないことが懸念される。

 紛争難民の保護を目的に置くとしても、国際基準に則った難民認定制度の確立がまずは重要である。そのうえで、各国の定義を踏まえた内容の補完的保護制度を創設することが、国際保護を必要とする人の保護にあたって不可欠である。

(3)人道配慮による在留特別許可の削除による保護対象の縮小

 本法案では、難民には該当しないものの、人道的な観点から在留を認める制度として運用されてきた在留特別許可に関する規定(現行法第61条の2の2第2項)が削除されている。在留特別許可の申請手続きが創設されるものの(第50条)、その対象は退去強制令書発付前に限定されている。現行制度以上に保護対象が縮小することがないよう、人道配慮による在留許可が維持されるべきである。

 現行の「人道配慮による在留許可」は、難民とは認定されなかったものの、紛争退避等の「本国情勢」や、日本での結婚や扶養等の「本邦事情」を有する者に在留を認める仕組みとして運用されている。特に後者については、本法案における「補完的保護」の対象とならないことが想定される。

 例えば、複数回の難民申請を行いながら日本で長年暮らしてきた人や、難民や補完的保護の定義には当てはまらないが国に帰ることが難しい事情を抱える人、さらに、子どもの最善の利益の観点から在留を認めるべき人などについて、退去強制令書発付前であれば、新たに創設される在留特別許可申請が想定されるものの、手続きの複雑化が懸念される。また、退去強制令書が発付されている場合は、在留特別許可の申請を行うことができず、日本での在留を求める機会が奪われることとなる。難民や補完的保護の定義に当てはまらない場合であっても、人道的な観点から在留を認める仕組みが維持されるべきである。

3.仮滞在制度:要件を緩和し、難民申請者の収容を防ぐ仕組みとして、より積極的に活用されるべき。

 本法案では、仮滞在制度について、在留資格の取得(第61条の2の5)や、就労許可(第61条の2の7第2項)に関する規定を新たに設けている。仮滞在制度のより積極的な活用により、難民申請者が、収容や仮放免でもなく、後述する監理措置でもなく、安定した法的地位を持って申請期間を過ごすための仕組みとなることが望ましい。そのためには、本法案における修正に加えて、不許可事由の一部見直しや削除が行われるべきである。

 仮滞在制度は、在留資格を持たない難民申請者の法的地位の安定を目的に、2005年に導入された。在留資格を持たない者が難民申請を行った場合、仮滞在の許否判断が行われ、入管法が定める不許可事由に該当しない場合は仮滞在が認められ、退去強制手続きが停止され、その者が収容されることはない。

 日本の難民申請者の処遇について、国連は繰り返し人権基準を満たしていないとの勧告を行ってきた12。特に在留資格を持たない難民申請者については、就労が認められず、収容や仮放免といった、権利が非常に制約された状況に置かれることがほとんどである。難民条約上、難民の非正規の手段による入国や滞在は予定されており(難民条約第31条)、難民申請者の処遇の改善にあたって、仮滞在制度が本来果たすべき役割は大きい。

 しかし、仮滞在不許可事由が幅広く設定されており、許可数が低迷しているのが実態である。2021年は625人に対して仮滞在の許否判断が行われ、29人に仮滞在が認められた。制度開始からの16年間を合計しても、許可数は1,000人強にとどまる。

 不許可事由のうち、「上陸日等から6月経過後の申請であることが明らかであるとき(現行法第61条の2の4第1項6号)」や「退去強制令書の発付を受けているとき(同第8号)」について、これらの事由に当てはまる場合であっても、難民認定や人道配慮による在留許可が認められてきた実態を踏まえ、不許可事由からの削除が望ましい。また、「逃亡するおそれがあると疑うに足りる相当の理由があるとき(同第9号)」との要件についても、要件の見直しや、判断基準の明確化、本人への根拠の提示といった改善がはかられるべきである13

4.収容・仮放免・監理措置:難民申請者を原則として収容することなく、安定した法的地位を付与するべき。

 収容について、本法案では抜本的な改善は行われておらず、長期収容を防ぐ効果は期待できない。新設される監理措置は対象者の自由や権利を過度に制限しており、特に難民申請者への支援との両立は困難である。収容を最後の手段とするための制度改善をはかったうえで、仮放免の対象者を制限するのではなく、生活保障の仕組みを整えた上での積極的な活用が望まれる。また、難民申請者を収容や送還の対象としないための仕組みの構築・活用が求められる。

(1)国際法違反の収容制度が温存されることの課題

 法案では、収容期間の上限や要件は定められておらず、収容に関する判断を司法が行う仕組みも導入されていない。2021年法案からの変更点として、3か月ごとの収容から監理措置への切り替えに関する規定が設けられているものの(第52条の8第3項)、監理措置の円滑な運用が保障されていない中で、長期収容の防止につながるとは言い難い。上限期間の設定や要件の明確化、司法審査の導入など、収容に関する国際基準を踏まえた抜本的な改善を求める。

 2018年に日本も含む164か国の賛同によって採択された国際合意14において、入管収容は「最後の手段としてのみ使用」するものとされている。収容はあくまで例外的な措置であり、法令で明確に定められた正当な目的に基づいて行われる場合のみ正当化されることが、国際基準として掲げられている15。収容の目的を明記することなく監理措置の判断における考慮事項を非網羅的に記載するのみの本法案は、このような国際基準を踏まえたものとはいえない。

 そもそも、難民申請の平均処理期間が4年を超える中で16、難民申請を行っている者や、訴訟係属中の者に対して、送還の見込みが立たないことが明らかでありながら、退去強制令書を発付することが可能な制度こそが、見直されるべきである。難民申請者を送還の対象とせず、収容を行うこともなく、その延長線上にある監理措置や仮放免の対象ともせずに、安定した立場で手続きを行う仕組みの構築が行われなければならない。

(2)仮放免の活用及び対象者への生活保障の必要性

 本法案では、仮放免の対象を「健康上、人道上その他これらに準ずる理由によりその収容を一時的に解除することを相当と認めるとき」(第54条第2項)に限定しており、厳格化に伴う収容期間の長期化が懸念される。収容の目的を明確にした上で、それに該当しない場合や、一定の収容期間を超えた場合に収容から解くことが、法律で明確に定められるべきである。また、本法案では仮放免の生活支援に関する規定は何ら設けられていないが、仮放免者の生活困窮の実態を踏まえ、仮放免者への生活保障の仕組みが整えられるべきである。

 現行法において、仮放免の対象者は明記されていない。入管局長の指示や通達によって仮放免の運用方針が変更され、収容期間の長期化に影響を与えてきた。例えば、2020年以前の長期化の背景として、「収容に耐え難い傷病者でない限り、原則…収容を継続」するとした2018年2月の入管局長指示の影響が挙げられる17

 監理措置に付されない場合、「健康上、人道上」の理由に当てはまらない限りは仮放免が認められず、収容が継続することは、被収容者の命にかかわる重大な問題である。また、仮放免者に対する生活保障の仕組みがなく、就労することも認められず、健康保険への加入することもできない中で、収容中に発生した「健康上の理由」を抱えたままの仮放免者が置かれる状況は、まさに非人道的と言わざるをえない。

(3)難民保護の理念に反する監理措置の実態

 本法案では、長期収容の解消に向けた措置の一つとして「監理措置」が新たに創設されている(第44条の2、第52条の2)。退去強制令書が発付された者などについて、条件を付して監理⼈による監理の下に収容から解く制度とされており、対象者に必要以上の制限を課し、現行の仮放免以上に、対象者の自由や権利を侵害するものとして、強く懸念する。各国における「収容代替措置」の取り組みを踏まえ、対象者の自由や権利保障を目的とした制度に改められるべきである。

 国境を越えて移動する個⼈の収容を防ぐ取り組みは、国際的には「収容代替措置」と呼ばれ、対象者の自由権を守った上で⽀援を⾏うことを重視する考えに基づき運用されている。一方、収容の対象とされるべきではない人が対象に含まれる点や18、行き過ぎた逃亡防止措置を含む点、さらにケースワークの視点を踏まえていないという点で、本法案における監理措置が収容代替措置に当たるとは言えない。監理措置措置の特に重大な課題として、以下の3点が挙げられる。

① 監理措置対象者に対する生活支援の仕組みの欠如

 本法案では、監理措置対象者への⽣活⽀援について、監理人が「条件の遵守の確保に資する」⽬的で「住居の維持に係る⽀援、必要な情報の提供、助言その他の援助を⾏うように努めるもの」とされている(第44条の3第3項、第52条の3第3項)。また、2021年法案からの変更点として、入管庁長官から監理人に対して「必要な情報の提供、助言その他の援助を行うものとする」との規定が追加されている(第44条の3第8項)。

 第一に、対象者への支援は、「条件の遵守の確保」ではなく、まさに支援を目的に行われるべきものである。また、監理措置対象者のうち就労が許可されない場合は、特に⽣活が困難になることが想定される。必要な⽀援を監理⼈等の民間努力のみに求めることは、対象者の生活を支えるにあたって、十分な対応とはいえない。仮放免者に対して行われた調査では、89%が生活状況がとても苦しい・苦しいと回答し、84%が経済的理由により医療機関を受診できないことがあると回答するなど、深刻な状況が報告されている19。入管庁長官から監理人に対する「その他の援助」の一環として、国の予算措置による生活支援の仕組みは欠かせない。

② 本人の意向を踏まえない監理人選定の仕組み

 監理⼈の選定(第44条の3第1項、第52条の3第1項)や取消し(第44条の3第6項、第52条の3第6項)にあたり、監理措置対象者の意思がどのように反映されうるかが規定されていない点も、課題である。対象者本⼈が望まない形で監理が⾏われる構造が生み出されることが懸念される。

 特に、空港で庇護を求めて収容施設に移送された難民申請者にとって、監理人となる者を探すことは容易ではない。出身国での迫害の経験を有する難民申請者にとって、収容施設の環境がトラウマを引き起こす要因となることは、想像に難くない。また、収容施設にいながら難民申請に必要な資料や情報を収集することはほぼ不可能であり、難民として認定されるべき人が認定されない大きな要因となっている。難民申請者にとって、早期の収容からの解放が望まれるところ、監理措置がその目的に資する制度とはいえない。

③ 難民申請者への支援と両立困難な監理人の役割

 監理人の義務として、監理措置対象者による条件の遵守状況等を主任審査官に届け出ることが含まれている(第44条の3第5項、第52条の3第5項)。2021年法案からの変更点として、この届出が「必要があるとき」に、主任審査官の求めに応じて行われることが明記された。

 難民申請者への支援や保護と、義務や罰則を市民に科す形で行われる「監理」の視点は両立しない。特に当局への届出義務が⼤きな弊害となることが懸念され、当会を含む多くの⽀援団体や弁護⼠にとって、監理人を務めることは困難である。実際、2021年に行われた調査では弁護士や外国人支援者の9割が監理人になれない・なりたくないと回答しており20監理人の成り手が見つからず、監理措置制度が機能しないことが想定される。主任審査官の求めに応じて届け出が行われるとしても、これらの懸念は解消されることはない。

5.結び:難民認定制度の改善に向けて

 ほかにも、監理措置や退去命令、仮放免や仮滞在に関する新たな罰則など、本法案は日本の難民保護状況の悪化につながる様々な課題を抱えている。本来行われるべきは、日本に逃れた難民を国際基準に則って保護するための包括的で公平な庇護制度の確立である。本法案の成立でもなく、現行制度の維持でもなく、難民保護に関する専門性を有し、入管行政から独立した組織による難民認定や、難民保護を目的とした法律の制定を含む、制度の抜本的な改善を求める。

以上

  1. 前者は一次審査における申請数。後者は一次審査と異議/審査請求手続きの合計。全国難民弁護団連絡会議「難民認定数等の推移」http://www.jlnr.jp/jlnr/?p=7689 より。[]
  2. 第7次出入国管理政策懇談会「報告書「今後の出入国在留管理行政の在り方」」https://www.moj.go.jp/isa/content/001334953.pdf[]
  3. 自由権規約委員会「第7回日本定期報告書審査にかかる総括所見」http://www.jlnr.jp/jlnr/?p=7801[]
  4. UNHCR「難民認定基準ハンドブック」https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/protect/HB_web.pdf、196段落「申請者は書類やその他の証拠によって自らの供述を裏付けることができないことも少なくなく、むしろ、その供述のすべてについて証拠を提出できる場合のほうが例外に属するであろう…このような場合において、申請者の供述が信憑性を有すると思われるときは、当該事実が存在しないとする十分な理由がない限り、申請者が供述する事実は存在するものとして扱われるべきである。(「疑わしきは申請者の利益に」(灰色の利益))」[]
  5. 「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(第204回国会提出)に関するUNHCRの見解」https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/2021/04/20210409-UNHCR-Comments-on-ICRRA-Bill-Japanese.pdf[]
  6. 難民支援協会、RAFIQ、名古屋難民支援室「難民申請者への偏見を助長しうる入管庁発表資料に対する意見」https://www.refugee.or.jp/report/refugee/2021/12/opinion211222/[]
  7. 東京地判2016年5月10日、東京地判2018年4月24日、東京地判2018年8月8日など。[]
  8. 難民支援協会「補完的保護とは何か?」https://www.refugee.or.jp/report/refugee/2023/01/complementary/[]
  9. UNHCR「国際的保護に関するガイドライン12:1951年難民の地位に関する条約第1条A(2)および/または1967年難民の地位に関する議定書および難民の地位に関する地域的文書における定義における武力紛争および暴力の発生する状況を背景とした難民申請」https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/2018/03/Guidelines-on-International-Protection-No.12_JP.pdf[]
  10. 「圧倒的多数のシリア人庇護希望者が国際難民保護を必要とし続けており、1951年条約第1条A(2)に掲げられた難民の定義の要件を満たしている」。UNHCR「シリア・アラブ共和国から避難する人々の国際保護の必要性について 更新VI」https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/2022/10/Syria-IP-Considerations_Update-VI_JP-translation.pdf より。[]
  11. 前掲注8内、シリア出身者の庇護状況参照。[]
  12. 「すべての難⺠認定申請者がとくに、⼗分な⽣活⽔準および医療についての権利を有するよう確保すること」(2001年 ⼈種差別撤廃委員会)。「すべての庇護申請者に対し…社会的⽀援⼜は雇⽤にアクセスする機会を確保すべきである」(2008年 ⾃由権規約委員会)。「すべての庇護希望者の権利、特に適当な⽣活⽔準や医療ケアに対する権利が確保されることを勧告する」(2010年 ⼈種差別撤廃委員会)。「難⺠認定申請者に対し、申請から6か⽉後の就労を認めることを勧告する」(2018年 ⼈種差別撤廃委員会)。「「仮放免」中の移住者に必要な⽀援を提供し、収⼊を得るための活動に従事する機会の創設を検討すること」(2021年 自由権規約委員会)。[]
  13. なお、仮放免とは異なり、仮滞在制度において保証金や保証人が求められることはなく、仮滞在期間は原則6か月と、仮放免よりも長く設定されている。しかしながら、「行方不明となった者の数」は、統計が明らかにされている2008〜2018年において、15人未満にとどまる(移住連 省庁交渉データより)。[]
  14. 「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト」https://japan.iom.int/sites/g/files/tmzbdl2136/files/documents/Global_Compact_for_Migration_Japanese_kariyaku_booklet.pdf、目的13「移民の収容については最後の手段としてのみ利用し、代替策の策定に向けて取り組む」。[]
  15. UNHCR「庇護希望者の拘禁及び拘禁の代替措置に関して適用される判断基準及び実施基準についてのガイドライン」https://www.refworld.org/cgi-bin/texis/vtx/rwmain/opendocpdf.pdf?reldoc=y&docid=51b9bc174[]
  16. 難民申請を行ってから審査請求の結果がでるまでの平均期間は約4年5か月(2021年)。[]
  17. 難民支援協会「仮放免に関する主な通達・指示」https://www.refugee.or.jp/jar/postfile/201911_ProvisionalRelease.pdf[]
  18. “Importantly, ATD must not be provided when there is no justification for detention in the first place.” International Detention Coalition “Immigration Detention and Alternative to Detention in the Asia-Pacific Region” https://idcoalition.org/wp-content/uploads/2022/05/Asia-Pacific-ATD-Report-2022.pdf より。[]
  19. 北関東医療相談会「【報告書】「生きていけない」外国人仮放免者の過酷な生活実態「仮放免者生活実態調査」報告」https://npo-amigos.org/post-1399/[]
  20. なんみんフォーラム「監理措置に関する意見聴取(報告)」http://frj.or.jp/news/wp-content/uploads/sites/2/2021/04/557a2510c39a94ebcfb8734a36c85a92.pdf[]