2026年3月10日に閣議決定された「入管法改正案」には、在留資格の手数料の引き上げに関する規定が盛り込まれています。難民申請者は、在留期間の更新頻度が高く、手数料引き上げの影響を特に受けやすい状況にあります。難民申請者に過度な負担を課す形での引き上げに反対します。
難民申請者の多くは「特定活動」と呼ばれる在留資格を有しますが、その期間は2~6か月と比較的短期で、期限がくる度に、更新許可申請を行う必要があります。今回の法案を通じて、政府はその際に支払う「手数料」の金額を、現行の一律6,000円から引き上げることを目指しています。
一方で、難民申請者の中には、生活に著しく困窮し、手数料の支払いも困難な状態にある方もいます。当会では、そのような方に手数料代を含む支援を行ってきました。現在の金額においても、支払いが困難な難民申請者がいる中で、手数料の引き上げが難民申請者の法的地位の安定に悪影響を与えることは明らかです。難民申請中の庇護国への滞在は、難民認定手続の基本的要件の1つであり、資力の有無によってその安定が損なわれるようなことがあってはなりません。
ぜひ、下記の意見書をご覧いただき、今後の国会審議にご注目ください。
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出入国管理及び難民認定法及び出入国管理及び難民認定法第二条第五号ロの旅券を所持する外国人の上陸申請の特例に関する法律の一部を改正する法律案に対する意見
2026年3月13日
特定非営利活動法人難民支援協会
2026年3月10日、政府は「出入国管理及び難民認定法及び出入国管理及び難民認定法第二条第五号ロの旅券を所持する外国人の上陸申請の特例に関する法律の一部を改正する法律案」(以下「本法案」とする)を閣議決定した。当会は、在留資格の変更及び更新に係る手数料の引き上げについて、強く懸念する。難民申請者は、在留期間の更新頻度が高く、手数料引き上げの影響を特に受けやすい。1999年の設立以来、難民申請者に対する支援を行ってきた立場から、難民申請者に過度な負担を課す形での引き上げに反対し、以下意見を述べる。
1.法案の概要
本法案は、在留資格の変更の許可及び在留期間の更新の許可を受ける場合の手数料について、その上限額を現行の1万円から10万円に変更するとしている(第67条第1項)。実際の手数料の額は、在留期間に応じて政令で定めるとしているが、現行の一律6,000円からの引き上げが想定される。また「経済的困難その他特別の理由」による手数料の減額又は免除についても、政令で定めるとしている(第67条第3項)。
難民申請者のうち94%(2024年の場合1)は、短期滞在等の在留資格を有した状態で難民申請を行っている。その多くは、案件振分けを経て在留資格「特定活動(難民認定等申請者用)」を得て、難民申請の結果を待つこととなる。2025年6月時点で、10,040人が当該在留資格を有していた2。在留外国人全体に占める割合は少ない(0.3%)ものの、以下の背景から、手数料の引き上げは難民申請者に過度な負担を求めるものであり、強く懸念する。
2.難民申請者の在留資格の変遷
在留資格更新の頻度の高さや回数の多さが故に、難民申請者は手数料の引き上げの影響を特に受けやすい立場にある。在留資格を有している場合、多くのケースでは難民申請と同時に在留資格の変更申請を行う。付与される在留資格「特定活動」の期間は、通常2か月である。その後の在留資格については、案件振分けの結果に応じた期間が付与される3。A案件(難民等の可能性が高いとされる案件)とされた場合は、6か月の在留資格が付与され、難民申請の結果が出るまで更新を続ける。難民申請から最初の1年で、在留資格の変更又は申請を少なくとも2回行い、計1万2,000円を手数料として支払うこととなる。
一方で、難民申請者の大半(2024年は81.5%4)を占めるD案件に振り分けられた場合は、案件振分け後、3か月の在留資格しか付与されない。基本的には、その後2回の更新を経て、初めて6か月の在留資格が付与される。すなわち、難民申請から最初の8か月間で、在留資格の変更又は更新を4回行い、計2万4,000円を手数料として支払うこととなる。一家4人で申請を行う場合は、その額は9万6,000円に達する。その後はA案件と同様、難民認定の結果が出るまで、6か月ごとに手数料を支払い、在留資格を更新する。
現状、難民認定審査には平均約2年10か月(2024年の場合5)を要しており、当会が把握する限りでも、5年や10年近く待たされる場合も珍しくない。重要なのは、難民申請者に付与される在留資格の期間は、こうした実際の審査期間ではなく、案件振分け等の政策的な判断で定められてきた点である6。こうした在留資格のあり方が、難民申請者の生活や法的地位を不安定化する要素となっている。申請者は、すでに在留手続において高額な手数料を負担しており、その引き上げは、申請者の生活を更に追い込むこととなりかねない。
3.難民申請者の生活困窮
このような在留資格のあり方は、経済的に困窮する難民申請者の生活に大きな負担を与えてきた。周囲の助けで何とか手数料を支払っている場合も珍しくなく、例えば当会にも下記のような状況の方からの相談が寄せられている。
本国での政治活動を理由に逃れてきたAさん。日本への渡航費用で、それまで溜めてきたお金をほとんど使ってしまった。入国から数日間はホテルに滞在していたが、お金がもたず野宿状態に。支援団体に相談に訪れた時点で、所持金は1,000円を切っていた。食事も十分にとっていないが、今の在留資格の期間内に急いで難民申請を行う必要がある。地方入管に行く交通費を捻出すると、所持金はいよいよ底をつく。支援団体の援助でなんとか手数料を支払い、難民申請と在留資格の変更を行うことができた。公的支援(保護費)を申請したが、審査に数か月がかかると聞いている。その間、知人や支援団体から最低限の食料を得てなんとか暮らしている。住居を借りるお金は今も無いので、野宿をしたり、知人宅に時たま泊めてもらったりしている。長引く野宿で体調不良を感じる中、次の在留資格の更新のタイミングが迫ってきた。
難民申請者の就労について、政府は、難民申請から原則8か月間は認めない運用(D案件の場合)をとっている。一方で、難民申請者に対する公的支援である「保護費」は、申請者のごく一部(710人)にしか支給されておらず、申請から支給決定までに平均約44日を要している7。この間、所持金が尽きて野宿を強いられる場合も珍しくなく、支援団体が把握するだけでも、30名以上の難民申請者が野宿状態にある月もあった8。
支援者や団体の助けを得て手数料を支払う場合も珍しくなく、当会においても、1月当たり平均約20人に対して、数万円から多い月で20万円を超える額の手数料代の支援を行ってきた。また、保護費を受給している場合は、月当たり11万2,000円の支援金から、生活費や住居費、光熱費や医療費(あとから実費で支給される)に加えて、手数料代を捻出することとなる。手数料の支払いのために支援者等から金銭支援を受けた場合、その分の金額が保護費から差し引かれることとなる(収入認定)。生活費や住居に充てるお金を切り詰めて、手数料を捻出している実態である。
4.難民申請中の法的地位の安定の重要性
現在の金額においても、支払いが困難な難民申請者がいる中で、手数料の引き上げが難民申請者の法的地位の安定に悪影響を与えることは明らかである。難民申請中の庇護国への滞在は、難民認定手続の基本的要件の1つであり9、資力の有無によってその安定が損なわれるようなことがあってはならない。また、難民の地位の認定は宣言的性格を有するものであり10、難民申請を行ったその時点から、申請者の庇護国社会の一員としての生活は始まっている。難民申請者に対する法的地位の付与は、それを具現化するものであり、国際保護の理念に沿った重要な取組であると考える。
仮に手数料の額が引き上げられた場合、一部の申請者が手数料を支払えず、本人も意図しない形で非正規滞在となってしまう事態も懸念される。政府自身が非正規滞在を減らすことを政策目標に掲げる中で、出身国に帰ることができない難民申請者が非正規滞在となる要因を増やすことは、矛盾した対応と言わざるを得ない。
5.まとめ
以上の理由から、在留資格の変更及び更新に係る手数料の引き上げを強く懸念する。仮に引き上げを行う場合であっても、難民申請者に過度な負担が課されることがないように配慮するとともに、難民申請者が「経済的困難その他特別の理由」による手数料の減額又は免除の対象者となる旨を政令で定めるべきである。なお、本法案における電子渡航認証制度(JESTA)の導入にあたっては、認証の有無やその内容が、空港等で庇護を希望した者に不利な結果をもたらすことがないように、必要な配慮を求めたい。
以上
- 出入国在留管理庁「令和6年における難民認定者数等について」https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/07_00054.html。[↩]
- e-Stat「国籍・地域別 在留目的別 在留外国人(特定活動・日本人の配偶者等・定住者)」https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?stat_infid=000040379762。[↩]
- 出入国在留管理庁「入国・在留審査要領」第12編第26節第2の3。[↩]
- 前掲注1。[↩]
- 前掲注1。 [↩]
- 2018年1月の「難民認定制度の運用の更なる見直し」前は、難民申請者(初回申請者の場合)に付与される在留資格の期間は一律6か月とされていた。法務省入国管理局「難民認定制度の運用の更なる見直し後の状況について」https://www.moj.go.jp/isa/content/930003743.pdf。[↩]
- 2024年度の場合。2025年6月13日付け石橋通宏議員質問主意書への政府回答[内閣参質217第191号]。[↩]
- つくろい東京ファンド、難民支援協会、反貧困ネットワーク「保護費予算の増額に関する申入書」https://www.refugee.or.jp/wp-content/uploads/2024/11/9370665c7093a97383c24eef2d61424d-1.pdf。[↩]
- 「申請者は上記第(ⅲ)節に言及する権限ある当局によりその申請(=難民の地位の申請/当会注)が審査されている間はその国に滞在することを認められねばならない。ただし、その申請が明らかに濫用であると当局が認定できるときはこの限りではない。また、より上級の行政機関又は裁判所への不服申立係属中もその国における滞在が認められなければならない」UNHCR執行委員会結論第7号(e)(vii);UNHCR「難民認定基準ハンドブック」第192段落(vii)。[↩]
- 「人は、難民条約の定義に含まれている基準を満たすやいなや同条約上の難民となる。これはその難民の地位が公式に認定されることに必ず先行しているものである。それ故、難民の地位の認定がその者を難民にするのではなく、認定は難民である旨を宣言するものである。認定の故に難民となるのではなく、難民であるが故に難民と認定されるのである」UNHCR「難民認定基準ハンドブック」第28段落。[↩]


