解説記事・声明等

入管庁「ゼロプラン」の実施状況に対するコメント

2025年10月10日
認定NPO法人 難民支援協会

2025年10月10日、出入国在留管理庁(入管庁)より「「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」実施状況」(以下「本資料」とする)が発表されました。2025年は8月末までに203人が護送官付きで国費送還され1、そのうち42人が難民申請中であったとされています。

日本に逃れた難民を支援する立場から、難民申請者の送還が実施されている現状を強く懸念し、以下コメントします。最優先で行われるべきは、難民の送還ではなく難民認定制度の改善です。なお「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」の課題については、本年6月の当会意見書も参照ください。

1.送還停止効の例外規定の適用に対する懸念

2024年6月施行の改正入管法により、3回目以降の難民申請者等の送還を可能にする、送還停止効の例外規定が導入されました。2025年8月までに61人に適用され2、国籍別にみるとトルコが26人、スリランカが16人、ナイジェリアが4人と続きます。送還停止効の導入により、日本に逃れ、長年にわたって庇護を求めてきた難民申請者の安全が根本から脅かされている現状を強く懸念します。

「ゼロプラン」の発表以降、例えば庇護希望者の送還に関する以下の事例が報道されています。

  • 難民申請中のクルド人家族の送還。送還先の空港到着直後に父親は警察に逮捕された(信濃毎日新聞東京新聞
  • 難民申請中のクルド人家族の収容及び送還。人生の大半(10年以上)を日本で過ごした中高生の子どもを含む(山陰中央新報東京新聞
  • 庇護を求めて来日し、四半世紀にわたり日本で暮らしていたクルド人男性の送還(東京新聞

送還停止効の例外規定によりこれまでに送還された方たちについて、迫害のおそれが無かったと言い切ることはできません。2024年の難民認定者数は190人に留まりますが、その中には送還停止効の例外規定の対象となる3回目の難民申請者が複数含まれています3。日本の難民認定制度にはさまざまな課題があり、難民として認定するべき人を十分に認定することができていません。国際社会からの懸念4や、昨今、難民認定制度の改善に向けた議論が行われていることを踏まえても5、過去の難民不認定を理由に送還の対象とすることは適切ではありません。

送還停止効の例外による難民申請者の送還状況をしめしたグラフ。2024年6月10日~12月末日は計19人。内訳:トルコ4人、スリランカ7人、ナイジェリア1人、パキスタン1人、バングラデシュ1人、その他5人。2025年8月時点は計42人。内訳:トルコ22人、スリランカ9人、ナイジェリア3人、フィリピン3人、パキスタン2人、バングラデシュ1人、その他2人。
出典:入管庁発表資料、質問主意書への政府回答

特に被送還者の多くを占めるトルコ出身者(2025年の護送官付き送還は41人。うち22人に送還停止効の例外を適用)について、日本政府が十分な庇護を行ってこなかった実態があります6。難民であるという主張が認められないまま人生の半分以上を日本で過ごしてきた人たちが、今回の送還停止効の例外規定の対象となっています。また、親子が引き離されたり、子どもの権利が侵害される事態が発生しています。

2.手続保障に対する懸念

送還停止効の例外によって送還された人の数が、2024年の19人から2025年の42人と増加傾向にある点も懸念します。仮に送還停止効の例外規定を適用する場合であっても、適正手続を確保し慎重かつ抑制的な運用とするべきです。難民申請者らを主な対象とする「護送官付き国費送還」の数を「3年後に倍増」させるとの「ゼロプラン」に基づく、目標ありきの送還を強く懸念します。

適正手続保障の観点から、送還の事前通知が適切に行われていない点を懸念します。改正入管法の施行以降、入管庁は被退去強制令書発付者に「送還に関するお知らせ」と題する文書を配布しています。しかし、同文書には送還の具体的な期日は書かれていません。実際に、事前の通告が無いままに、突然の収容や送還が行われた事例が報道されています。

上記文書には「退去強制処分に不服がある場合には、訴訟を提起することが可能です。訴訟の提起に当たって、弁護士に協力を依頼することも可能です」との記載がありますが、難民申請者の大半は弁護士にアクセスできていないのが実態です。送還予定時期が事前に通知されず、出訴期間中の送還も可能とされる中、裁判による効果的な救済を受ける権利は実質的に保障されていません。

送還の停止につながる資料提出の機会が十分に保障されていない点も問題です。本資料では、3回目以降の難民申請者のうち1人について「難民の認定…を行うべき相当の理由がある資料を提出したため、送還計画を中止した」とされています。2024年と合わせても、同様の事例は2件に留まります。入管庁は「相当の理由がある資料」を難民申請時に提出するように求めており、証拠提出の機会が著しく制限されています。2回目の難民申請が不認定となり、3回目の難民申請に向けた資料を準備している間に送還が行われる可能性もあります。「相当の理由がある資料」に関する判断の時期や基準も明らかにされておらず、難民該当性を訴える機会が無いままに、送還停止効の例外が適用される懸念が拭えません。

以上

  1. これまでの護送官付き国費送還の数は以下の通り:2018年216人、2019年203人、2020年76人、2021年15人、2022年96人、2023年119人、2024年249人。出入国在留管理庁「入管白書」「令和6年における入管法違反事件について」より。[]
  2. 2024年の送還停止効の実施状況は以下に基づく。出入国在留管理庁「令和5年改正入管法の運用状況について」https://www.moj.go.jp/isa/content/001434961.pdf、2025年6月13日付け石橋通宏議員質問主意書への政府回答[内閣参質217第191号](2025年6月24日)[]
  3. 全国難民弁護団連絡会議「3度目の難民不認定処分案件の勝訴2件」http://www.jlnr.jp/refugeenews/#2024-01[]
  4. 「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(第204回国会提出)に関するUNHCRの見解」https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/2021/04/20210409-UNHCR-Comments-on-ICRRA-Bill-Japanese.pdf、Mandates of the Special Rapporteur on the human rights of migrants; the Working Group on Arbitrary Detention and the Special Rapporteur on freedom of religion or belief https://spcommreports.ohchr.org/TMResultsBase/DownLoadPublicCommunicationFile?gId=27995、自由権規約委員会「第7回日本定期報告書審査にかかる総括所見」http://www.jlnr.jp/jlnr/?p=7801[]
  5. 2023年の入管法改正により、第61条の2の17第4項(面接における適切な配慮)、第61条の2の18第1項(国際情勢に関する情報の収集、難民調査官の育成)、同第2項(難民調査官の知識及び技能の習得)が新設された。また、参議院法務委員会で採択された「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(2023年6月8日)には、難民保護に向けて改善すべき点が具体的に挙げられている。[]
  6. 詳しくは、難民支援協会「在日クルド人をめぐる「問題」を考える」https://www.refugee.or.jp/report/activity/2025/09/post-18762/ を参照。[]