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第7次出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」報告書 「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する意見(概要)

2020年6月19日、第7次出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会(以下「本専門部会」とする)」による報告書「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言(以下「本提言」とする)」が公表された。2016年以降、収容期間が長期化しており(※1)、2019年には収容を一時的に解く仮放免を求め収容施設内で大規模なハンガーストライキが発生。その結果、6月にナイジェリア人男性が飢餓によって死亡した。収容期間の長期化の背景に「送還忌避者」の増加があるとした政府は、2019年10月に「収容・送還に関する専門部会」を設置。その検討結果が本提言である。

本提言の内容は、在留特別許可の活用や仮放免制度の改善など一部評価できる点があるものの、その大部分において難民保護の観点が十分に反映されておらず、難民申請者の命や権利を脅かすものであると考える。

特に【提言】1(4)「庇護を要するものを適切に保護しつつ、送還の回避を目的とする難民認定申請に対処するための運用又は法整備上の措置」に関連して、以下の2点を強く求める。

1. 難民保護の理念に反する形で、送還停止効に一定の例外を設けることは許されない

本提言では「送還の回避を目的とする難民認定申請に対処するための運用上または法整備上の措置」として「送還停止効に一定の例外を設ける」とし、その対象として「従前の難民不認定処分の基礎とされた判断に影響を及ぼすような事情のない再度の難民認定申請者」を例示している。

しかし、後述するように、日本の難民認定制度には多くの課題があり、本来難民と認められるべき人が、認められない状況である。「従前の難民不認定処分」の判断に問題があるなか、「従前の難民不認定処分の基礎とされた判断に影響を及ぼすような事情のない再度の難民認定申請者」を「送還停止効に一定の例外を設ける」対象とすることは、迫害を受ける蓋然性の高い難民の送還につながるおそれがあり、許されない。

難民および難民申請者を送還することは、国際法上の原則(ノン・ルフールマン原則)によって禁止されている(※2)。今回の提言は難民保護の理念の根幹をなす同原則に反するものであり、すべての難民申請者について、送還停止効の適用を求める。

2. 最優先すべきは、送還の促進ではなく、難民認定制度の改善である

日本の難民認定制度には、国連などから何度も改善を求められるほど多くの課題があり(※3)、送還を促進するための施策が提言された今、何よりも優先して、その解決がなされなければならない。

本提言において「平成26年12月第6次出入国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会における『難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)』の提言を踏まえた施策」を実施するとしたことは評価するが、先の専門部会による検討結果を約6年間にわたって放置していた法務省の責任は重く、本提言を実施する前に、早急に「検討結果(報告)」における提言を実現すべきである。

特に「難民該当性に係る認定基準」の明確化や「難民条約上の難民とは認められないものの国際的に保護の必要がある者に対して在留許可を付与するための新たな枠組みの創設」に強く賛同する。後者については、EUの補完的保護(「重大な危害を被る現実の危険」を有する者に対する保護)を参考に、その基準および対象者の権利が法律上明確に示されることが望ましい。

「検討結果(報告)」における提言がすべて実施されることに加えて(※4)、行政手続法の除外条項の撤廃や、空港における庇護アクセスの改善、難民認定申請者の権利や法的地位の改善や明文化といった、これまで指摘されてきた数々の課題も同様に対処されるべきである。

また、難民認定制度の抜本的な改善にあたっては、難民保護を目的とする法律の制定およびその目的に適った手続や認定機関の創設が肝要である。そうすることで、日本に逃れてきた難民が、間違っても送還におびえることなく、政府によって速やかに認定され、権利が保護され、人として当たり前の生活を送ることができる社会が実現され、難民条約締結国としての責任が果たされると考える。

そもそも本専門部会の議論において、「送還忌避者」が増加していることを示すデータは、一切示されてこなかった。また、本提言の内容が、ヒアリングにおいて当会が述べた意見(p.19-20)や、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)からの指摘(p.18)を踏まえたものになっていないこと、さらに【提言】1(3)「退去強制令書が発付されたものの本邦から退去しない行為に対する罰則の創設」や【提言】2(1)「収容期間の上限、収容についての司法による審査」に対する一部委員の反対意見の扱い方を見るに、当事者や支援者の意見に十分に耳を傾けることなく、罰則の創設や収容期間の上限を設けないといった結論が導かれたことが懸念される。

以上

PDFファイル「第7次出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」報告書「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する意見」
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※1 被収容者のうち6か月以上にわたって収容されている者の割合は、2016年11月は19%(215人)だったのに対し、2019年6月には50%(577人)に上っている(出典:移住連所長交渉、福島みずほ「外国人収容施設における収容の長期化について(2019年6月末現在)」)。
※2  難民条約第33条第1項「締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のためにその生命又は事由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し又は送還してはならない。」その他、自由権規約や拷問等禁止条約によっても、ノン・ルフールマン原則が定められている。
※3 共同通信「日本の低難民認定率に懸念 国連弁務官、法整備も要請」(2019年8月30日)
※4  難民認定制度に関する専門部会における「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」では「保護対象の明確化による的確な庇護」「手続の明確化を通じた適正・迅速な難民認定」「認定判断の明確化を通じた透明性の向上」「難民認定実務に携わる者の専門性の向上」の4点が提言されている。第6次出入国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」(2014) 参照

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