解説記事・声明等

2023年の難民認定者数等に対する意見

2024年4月1日
特定非営利活動法人難民支援協会
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 2024年3月26日、出入国在留管理庁より、2023年の難民認定者数等が発表されました。難民認定数は303人と過去最多となり、難民申請数は、新型コロナウイルスによる入国制限の解除を受けて、13,823人と大幅に増加しました。過去最多の認定数と、その国籍の多様化は一定の評価ができますが、難民として認定するべき人を認定するための制度改善が引き続き行われる必要があります。昨年の出入国在留管理及び難民認定法(以下、入管法)の改正案の審議において、これまでの難民認定制度の様々な課題が指摘されました。国会審議を踏まえた改善策がこれから講じられようとする中で、難民申請者の送還を可能にする改正法の施行が6月上旬に予定されていることを強く懸念します。以下、2023年の難民認定状況のうち、注目すべき点や改善点を述べます。

※出入国在留管理庁発表資料「令和5年における難民認定者数等について

1.2023年の難民認定状況のうち注目すべき点

(1)難民認定数は増加したが、認定状況の改善とはいえない

 難民として認定された303人のうち、237人はアフガニスタン出身者でした。この傾向は2022年に続くもので、その他の国籍の変遷を見ると、認定状況が大幅に改善しているとはいえません。難民として認定するべき人を認定するための制度改善が引き続き行われる必要があります。一方で、難民認定者の国籍の多様化も、2023年の特徴として挙げられます。トルコ、ガンビア、ナイジェリア、バングラデシュなど、近年ほとんど認定が無かった国籍が認定されており、保護状況の改善に向けた動きとして期待します。

出典:入管庁データより。いずれかの年の難民認定数において上位3か国に入っている国を凡例として提示。
その他の国籍の合算を「その他」として提示。

(2)ミャンマー出身者、難民としての保護はわずか

 ミャンマー出身者の認定は27人に留まり、認定状況の改善は見られませんでした。一次審査では923人、審査請求では688人が不認定の判断を受けています。2021年2月の軍事クーデター後、政治的意見を理由に難民申請を行う者が増えていることが想定されます。こうした申請について、日本政府は「政治的意見を理由として迫害を受けるおそれがあるというためには、通常、申請者が政治的意見を有していることを迫害主体によって認知され…ている必要があ1」ると独自の基準を設けています。難民該当性の判断は、将来における迫害の危険性を考慮して行われるものです。政治的意見を理由とする難民申請に限って、現時点における迫害主体からの認知を要件することは、適切ではありません。難民として認定するべき人の認定を阻害する要件であり、見直しが必要です。

 本国情勢に基づく人道配慮による在留許可により、920人が在留を認められつつも、1,371人のミャンマー出身者が審査請求を行っている実態は、人道配慮による在留許可の地位の不安定さや、権利の不十分さを如実に示しています。2021年5月以降の「緊急避難措置」による在留資格の付与は、長期的な在留を前提としておらず、在留資格「定住者」への変更が困難であるなど、日本での安定した暮らしが保障されているとはいえません。ミャンマー出身者の難民認定状況の改善とともに、長期の滞在を前提とした在留資格の付与や変更が認められるべきです。

(3)難民申請者の増加に対応した審査や支援体制の拡充が必要

 新型コロナウイルスによる入国制限の解除を受けて、難民申請数は13,823人に増加しました。当会でも、2022年秋以降、新規入国者からの相談を多く受けています。申請数の増加は、各国で見られる傾向であり2、日本も例外ではありません。申請数の増加を踏まえた、審査体制の拡充が必要です3

 申請者の国籍は87か国にわたり、統計が確認できる限り、過去最多となりました。上位25か国に入らない「その他」の国からの申請は632人に上ります。統計に示されない国も含めて、当会では様々な国籍の方からの相談に対応しています。出身国の多様化を受けて、申請者がこれまで少なかった国や、従来は見られなかった迫害事由による申請への対応が必要です。2023年の入管法改正により、出身国情報の収集に関する条文が新たに設けられました4。「最新かつ関連性及び信頼性のある出身国情報5」を用いた審査の実現に向けて、現行では5人に留まる専従職員6の増員や、審査に用いた情報の積極的な公開、認定や不認定理由の拡充といった取り組みを求めます。

 難民申請者のうち「難民…である可能性が高いと思われる」とされた案件(A案件)が増加したことも、2023年の特徴です。今後の難民認定数の増加につながるべき傾向として、注目しています。A案件に振り分けられた場合、6か月間の在留資格が付与され、住民登録を行い、就労許可を得た上で、日本での生活を始めることができます。政府は、A案件について「迅速に庇護する観点7」から、可能な限り早期に手続を進めるとしています。当会が把握している限り、2023年のA案件の増加が迅速な認定につながっているとは言い難い状況ですが、今後の難民認定数の増加につながる動向として、期待します。

 また、2023年には、難民申請者の増加により、公的支援である「保護費」の予算が今まで以上に不足する状況となりました。入国直後の難民申請者の多くが、保護費の受給までに半年以上の待機を強いられ、ホームレス状態を経験しています。2023年度補正予算の成立により、状況は一時的に改善していますが、2024年度以降、再び予算の不足が懸念されます。申請数の増加に応じた、保護費予算や支援体制の拡充がはかられる必要があります。

(4)審査期間の長期傾向と国籍による対応の違い

 難民申請を行ってから審査請求の結果が出るまでの平均期間は約3年でした。一昨年の約3年11か月よりは短くなっているものの、依然として長期傾向にあり、申請者の生活に重大な影響を与えています。一部の国籍のみならず、あらゆる国や地域の出身者について、迅速な保護を実現するための取り組みが必要です。

 政府は一次審査の標準処理期間を6か月としていますが8、審査が長期化することで、難民申請やインタビューから結果が出るまでに情勢が変化し、時期を得た認定判断を行うことが困難となることが懸念されます。当会が把握しているだけでも、一次審査のみで5年以上待たされるケースは珍しくありません。その間、本人たちは、日本での保護を望み、その前提で生活を築いていきます。審査に時間を要する正当な理由もないままに9、数年以上にわたって待された上で、十分な理由を示されることなく不認定の判断を受け取る、という現実に多くの難民申請者が直面しています。

 2022年以降のアフガニスタン出身者に対する対応を通じて、迅速な難民認定を集団的に行うことが可能であることが明らかとなりました。ウクライナ出身者についても、2023年12月以降、数か月以内の迅速な補完的保護の認定が行われています。あらゆる国や地域の出身者について、適正手続を確保した上で10、迅速な認定判断が行われることを望みます。

(5)仮滞在許可の積極的な活用により、在留資格をもたない難民申請者の処遇改善を

 仮滞在の許可数は148人で、2005年の制度開始以来、過去最多となりました。許可率は16%に留まることから、在留資格をもたない「難民認定申請中の者…の法的地位の安定化を早期に図る11」との制度趣旨の実現に向けて、より積極的な制度の活用を求めます。

 外国人の収容は「最後の手段としてのみ利用12」することが国際的に合意されており、仮滞在許可は、難民申請者の収容を回避する仕組みとして重要です。仮滞在が認められず、収容が開始もしくは継続した場合、心身に与える影響はもちろんのこと、難民認定手続に必要な証拠の収集や情報へのアクセスが極度に制約され、十分な手続を行うことが困難となります。収容を一時的に解く仮放免が認められた場合でも、権利が著しく制約され、心身の安定にはつながりません。また、改正入管法における監理措置については、監理人の成り手が見つからず13、収容から解かれることがより困難になることが想定されます。仮滞在の不許可事由の見直しや、運用の改善14を通じて、より多くの難民申請者の法的地位の安定が図られることが必要です。

2.難民認定制度の改善に向けて

 2023年の通常国会での改正入管法に関する審議は、難民認定制度の様々な課題を提起する機会となりました。改正法の施行が6月上旬に迫る中、早急な制度の改善が求められます。今後行われるべき改善点について、以下に述べます。

(1)2023年改正入管法に関する国会審議を踏まえた対応を

 国会での修正を経て成立した改正入管法には、難民認定制度の運用の改善に向けた新たな条文が設けられています。参議院では、制度の具体的な改善点を含む附帯決議15が採択されました。改正法の成立から半年以上が経過しましたが、十分な対応がとられているとはいえません。今後の取り組みに期待します。

 国会審議を踏まえた具体的な取り組みとして、例えば、難民審査におけるインタビューでの適切な配慮や、透明性・公平性の確保が挙げられます(改正後の入管法第61条の2の17第4項、附帯決議第2項)。現行制度では、一次審査のインタビューへの弁護士や支援者などの同席は原則認められておらず、審査の適正性が確保されているとはいえません。弁護士などの同席により、円滑かつ申請者に寄り添った審査の実現が期待されます。

 改正法や附帯決議には、難民認定等に関与する者への研修の実施や、体制の拡充に関する規定も設けられています(改正後の入管法第61条の2の18第2項、附帯決議第7項)。特に難民審査参与員については、「外部の有識者16」とされているところ、難民審査に関する専門性や実務経験を有する者はほぼ皆無であり、研修の実施は必須です。また、附帯決議が求める口頭意見陳述(インタビュー)の活用(附帯決議第3項)についても、2023年の時点では、状況の改善は見られません17

 「難民該当性判断の手引」の定期的な見直し(附帯決議第8項)も、国際基準に則った難民条約の解釈を行う上で、必須の取り組みです。さらに、事実認定のあり方(附帯決議第8項)についても、各国における実践や、先進的な国内外判例を基に、早急な改善が求められます。

(2)送還停止効の例外規定の導入に対して強く懸念

 これらの改善策がまさにこれから講じられようとする中で、3回目以降の難民申請者等の送還を可能とする改正入管法の施行が6月上旬に予定されていることを、強く懸念します。難民の送還禁止(ノン・ルフールマン)は、難民条約の核であり18、条約締約国として、日本政府が必ず守らなければならない原則です。難民として認定するべき人が認定されない制度が運用されてきた中で、過去の不認定処分を理由に送還停止効に例外を設けることは、ノン・ルフールマン原則の違反につながります。制度の改善に取り組む一方で、これまでに不認定とされたことを理由に送還を可能とすることは、公平性の観点からも問題があります。

 今年の1月には、名古屋高裁において、ロヒンギャの男性の3回目の難民不認定処分を取り消し、難民認定を命じる判決が出ています19。3回目以降の難民申請者が認定を得た事例はこれに留まりません。申請回数に基づいて難民申請者の送還を可能とすることの危険性は明らかです。

(3)より抜本的な制度改善に向けて

 難民認定制度の改善のためには、難民保護を目的とした法律や、入国管理行政からの独立性及び難民保護に関する専門性を担保した組織の創設など、より抜本的な対応が必要です。改善を求める声は国内外から寄せられており20、表が示す通り、各国の難民認定機関と比べても、日本において審査の独立性の観点が不足していることが分かります。 2023年12月から4年間、日本はグローバル難民フォーラムの議長国を務めています。「難民支援の責任と負担を国際社会で広く分担すること21」が求められる中で、難民受け入れ国としての日本の役割が期待されています。日本に逃れた難民を保護することができる法制度の実現を求めます。

各国における難民認定機関

一次審査不服申し立て難民認定数
(一次審査/2023年)
組織名所管省庁からの
独立性に関する記述
組織名一次審査と異なる組織
日本法務省・
出入国在留管理庁
×法務省・
出入国在留管理庁
×289人
英国英国ビザ・移民局×第一層審判所
移民・庇護部
57,324人
米国アメリカ合衆国
市民権・移民局
×移民不服申立局
または移民審査局
×36,615人*
カナダ移民難民委員会
難民保護部

(独立行政裁判所、独立した判断)
移民難民委員会
難民異議申立部
×37,222人
スウェーデン移民庁
(政府及び議会からの独立性)
移民裁判所2,552人
ドイツ連邦移民・難民局×行政裁判所113,675人
フランスフランス難民及び
無国籍者保護局

(組織の独立性を法律に明記)
国家庇護権裁判所41,652人
ベルギー難民・無国籍者弁務官
(組織の独立性を法律に明記)
外国人法訴訟協議会11,436人

*2022年度(2021/10/1~2022/9/30)の統計
出典: ・ベルギー、フランス、ドイツ、スウェーデン:EUAA “Latest Asylum Trends 2023” https://euaa.europa.eu/sites/default/files/publications/2024-02/EUAA_Latest_Asylum_Trends.pdf
・カナダ: IRB “Claims by Country of Alleged Persecution – 2023” https://www.irb-cisr.gc.ca/en/statistics/protection/Pages/RPDStat2023.aspx
・イギリス:Home Office “How many people do we grant protection to?” https://www.gov.uk/government/statistics/immigration-system-statistics-year-ending-december-2023/how-many-people-do-we-grant-protection-to
・アメリカ:Office of Homeland Security Statistics “2022 Yearbook of Immigration Statistics” https://www.dhs.gov/sites/default/files/2024-02/2023_0818_plcy_yearbook_immigration_statistics_fy2022.pdf

以上

  1. 出入国在留管理庁「難民該当性判断の手引」(2023年3月24日)https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/07_00036.html 及び 全国難民弁護団連絡会議「出入国在留管理庁による「難民該当性判断の手引き」の問題点を指摘し引き続き政府入管法案への反対を呼び掛ける声明」(2023年3月24日)http://www.jlnr.jp/jlnr/?p=8299 参照。[]
  2. EU諸国における難民申請数は、2020年以降増加を続け、2023年は前年比18%増の約114万人。全世界的には、2023年上半期において、約160万人が新たに難民申請を行った。上半期の統計としては、過去最多。最も多くの申請が行われたのはアメリカ(約54万人)で、ドイツ(約15万人)、スペイン(約9万人)、メキシコ(約7万人)、フランス(約6万人)と続く。EUAA “EU received over 1.1 million asylum applications in 2023” (2024/2/28) https://euaa.europa.eu/news-events/eu-received-over-1-million-asylum-applications-2023, UNHCR “MID-YEAR TRENDS 2023” (2023/10/25) https://www.unhcr.org/sites/default/files/2023-10/Mid-year-trends-2023.pdf[]
  3. 参議院法務委員会「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(2023年6月8日)第7項「難民の認定等を迅速かつ適切に行うに当たって必要な予算の確保及び人的体制の拡充を図る…こと」https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/211/f065_060801_1.pdf[]
  4. 改正後の入管法第61条の2の18第1項「法務大臣は、難民の認定及び補完的保護対象者の認定を専門的知識に基づき適正に行うため、国際情勢に関する情報の収集を行うとともに、難民調査官の育成に努めるものとする」。[]
  5. 前掲注3附帯決議第10項「最新かつ関連性及び信頼性のある出身国情報の収集を行う体制を整え、とりわけ専門的な調査及び分析に必要な予算及び人員を十分に確保すること。日本における難民認定申請者の主な出身国や申立て内容に関する出身国情報を取りまとめて、業務に支障のない範囲内で公表するとともに、難民不認定処分を受けた者が的確に不認定の理由を把握できるよう、その者に対する情報開示の在り方について検討すること」。[]
  6. 2023年4月時点で「入管庁本庁内に出身国情報の収集等に専従する職員」として配置されている者の数。第211回国会参議院法務委員会第14号(2023年5月16日)西山政府参考人による発言。[]
  7. 出入国在留管理庁「難民認定事務取扱要領」(2023年3月31日)[]
  8. 出入国在留管理庁「難民認定審査の標準処理期間に係る目標の達成状況について」(2011年4月15日)https://www.moj.go.jp/isa/refugee/resources/nyuukokukanri03_00082.html[]
  9. 行政手続法第9条第1項の情報の提供(行政庁は、申請者の求めに応じ、当該申請に係る審査の進行状況及び当該申請に対する処分の時期の見通しを示すよう努めなければならない)は、難民の認定に関する処分には適用されない。[]
  10. 例えば、難民認定事務取扱要領において「迅速に手続を進める」対象とされている収容案件については、証拠収集の困難さや、必要な情報へのアクセスに時間を要することが容易に想像される。収容されている事実のみをもって、迅速手続の対象とすることは適切ではない。[]
  11. 第159回国会参議院本会議第13号(2004年4月7日)野際法務大臣による発言。[]
  12. 「安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト」目標13。[]
  13. なんみんフォーラム「ご報告:監理措置に関する意見聴取結果(2023年版)」(2023年4月13日)http://frj.or.jp/news/news-category/form-frj/5408/[]
  14. 例えば「本邦に上陸した日から6か月を経過した後に難民認定申請をしたこと」との不許可事由について、「期間を経過したことにやむを得ない事情がある場合には、六か月以内に申請をしたときと同様に取り扱う」とされている。第211回国会参議院法務委員会第17号(2023年5月25日)西山政府参考人による発言。[]
  15. 前掲注3。[]
  16. 第211回国会参議院法務委員会第8号(2023年4月18日)西山政府参考人による発言など。[]
  17. 2023年に審査請求に対して「理由あり」もしくは「理由なし」とされた者のうち32%は、本人の意思に反して口頭意見陳述が実施されなかった。[]
  18. 「難民に関するグローバル・コンパクト」第5段落。[]
  19. 名古屋高判2024年1月25日。[]
  20. 第7次出入国管理政策懇談会「報告書「今後の出入国在留管理行政の在り方」」(2020年12月)「行政の公正性や適正性を維持する観点から、難民認定業務の専門性・独立性をより高めるために、その組織の在り方について検討することを求めたい」https://www.moj.go.jp/isa/content/001334958.pdf。自由権規約委員会「第7回日本定期報告書審査にかかる総括所見」第33段落「国際基準に沿った包括的な庇護法を早急に採択すること」http://www.jlnr.jp/jlnr/?p=7801 など。[]
  21. 外務省「難民問題」https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/nanmin/main1.html[]