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法務省による2019年の難民認定者数等の発表をうけて

本日、法務省より2019年の難民認定数は44名と発表されました。

※法務省報道発表資料「令和元年における難民認定者数等について」

難民の審査は、人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で迫害のおそれがあり国へ帰れないと訴える人の滞在の可否を決めるもので、人の命に関わります。しかし、日本でこれを担っている出入国在留管理庁(以下、入管庁)の審査には多くの問題があり、送還に深刻な危険を伴う人にも滞在を認めない判断が下され、結果としてこのような少ない難民認定数に留まっています

審査では、難民が危険に直面する国へ送り返されることがないよう、本人の供述や出身国の情勢などから迫害のおそれを適切に評価することが求められますが、入管庁の評価には、次のような傾向が多く見られます。

迫害のおそれを裏付ける「客観的な証拠」が過度に重視され、提出できないと難民認定は難しくなります。例えば、政権批判をしたことで逮捕・拷問された場合、逮捕状等が証拠になりますが、適切な手続きを経て逮捕する国ばかりではないことや、証拠を持ち出すことが極めて危険であることを考慮すれば、証拠を提出できない可能性は十分に考えられます。

また、証拠を提出しても「証拠価値がない」とされる場合もあり、その判断基準は明らかにされていません。例えば、女性の権利を守る活動をやめるよう命じられ、従わなかったため、警察から性的暴行を受けて逃げ出したエチオピア出身の女性は、証拠として、女性協会の会員証、出頭要請書、指名手配書を提出しましたが、証拠価値がないとされ、難民不認定となりました。この入管庁の判断の是非を争う裁判では、それらの証拠が本物と評価され、難民不認定処分は取り消されました。この勝訴によって女性は難民認定され、送還を免れましたが、このように弁護士を立てて数年におよぶ裁判を闘える人はごく一握りです。多くの人は収容・送還の危険に怯える暮らしを続けることになります。

本人の供述の評価にも問題があります。例えば、目の前で家族が暴行・殺害されたケースでは、体のどこがどのように傷ついていたか詳細な説明を求められ、数時間に及ぶ数回の面接で若干でも異なる描写をすれば、一貫性なしと評価されるなど、心の傷が供述の内容に影響しうることへの理解に欠けています。

難民の審査にあたって、難民の置かれた特殊な状況による困難を鑑みて、証拠による裏づけはあまりに厳格に求めてはならないことや、精神状態を考慮する必要性は、いずれも国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が各国に向けて発行している『難民認定基準ハンドブック』で注意喚起されているポイントです。

このほかにも、供述が録音されず、入管庁職員が作成した調書が正確か確認することが困難である点や、一次審査の面接に代理人の同席が認められない点など、手続きの公正さに問題があります。これらの課題を残して難民を適切に保護することはできません。難民認定数がわずか44名という結果は、本来速やかに難民として滞在を許可されるべき人も不認定としていることを意味します 。

法務省の「第5次出入国管理基本計画(2015年)」には、この制度によって保護する対象を明確にし、透明性を向上させることで、難民の適正かつ迅速な庇護を推進すると書かれていますが、未だに前述の通りの水準です。命に関わる重大な審査の問題点が認識されながら、改善されない状況が長年続いています。難民支援協会を含め、弁護士や研究者もこれらの問題を指摘し続けていますが、大きな改善は見られていません。

さらに、法務省は現在「収容・送還に関する専門部会」において、在留資格を持たない人の送還を円滑に進めるため、送還に抵抗する人(送還忌避者)に罰則をもうけたり、難民申請中の人も送還できるようになる法改正を検討しています。
保護すべき難民を確実に保護できていない現状を省みることなく、このような法改正が行われれば、難民を迫害の待ち受ける国へ送り返してしまう危険性がこれまで以上に高まります。

入管庁が適切な難民認定に向けた取り組みを進めるよう、いま以上に働きかけ、難民保護を目的とする制度を根幹から揺るがす法改正を防ぐには、多くの方に関心を持っていただくことが重要な後押しになります。今春にも報告がまとめられる予定の「収容・送還に関する専門部会」の動向を含め、引き続き、注視いただければ幸いです。

日本にも、内戦が9年続くシリアのみならず、40万人以上が避難を余儀なくされているカメルーンの最も危険な地域や、コンゴ民主共和国の極めて深刻な状況が続く地域など多くの国から、保護を求めてたどりつく人がいます。難民支援協会は、入管庁への働きかけをはじめ、そうした人たちを守るための様々な活動を今後もあきらめずに続けていきます。

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