解説記事・声明等

UNHCRと出入国在留管理庁による協力覚書の交換を受けて

7月21日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と出入国在留管理庁(入管庁)の間で、難民認定制度に関する協力覚書(MOC)の交換が行われました*1。手続の透明性の向上と難民認定行政の適切な遂行がその趣旨とされており、国際基準に則った難民認定制度の実現に向けた動きとして、難民支援協会は、MOCの交換を歓迎します。

しかし、公表されている情報を見る限りUNHCRの意見が難民認定の判断や法制度にどう取り入れられるのかは確認されていません。また、両者による取り組みの効果を検証するための仕組みも定められていません。現在の難民認定制度には国際基準との間に乖離があるなか、MOCにより実効性のある施策が取られるか、わからない状況です。特に以下の4点について、検討や取り組みを期待します。

1. 入管庁が作成する「難民該当性に関する規範的要素の明確化」へのUNHCRの見解の反映について

MOCでは、難民認定判断の透明性向上*2を目的に入管庁が作成中の「難民該当性に関する規範的要素の明確化」について、「UNHCRが意見を提示」するとされていますが、UNHCRの意見がどのように反映されるかは定められていません。

UNHCRは難民条約の規定の適用を監督する責務をもち*3、難民の定義に関して、様々な見解を示しています。例えば、1979年に作成された「難民認定基準ハンドブック*4」は、難民条約における難民の定義や手続き要件について、包括的な解釈を行い、多くの国の難民認定手続きで活用されてきました。また、UNHCRの意見を参考に「難民該当性に関する規範的要素の明確化」を行う点は、国会審議でもすでに確認されています*5

UNHCRとの「意見交換*6」に留まらず、UNHCRの見解を踏まえた「難民該当性に関する規範的要素の明確化」を行うことが、MOCにおいて確認されるべきです。

2. 難民調査官の調査の在り方に関するケース・スタディの位置づけについて

入管庁の発表資料では、MOCに基づき「難民調査官の調査の在り方についてUNHCRとケース・スタディを実施」するとされています。「詳細については協議中」とのことですが、難民調査官が調査中の個別のケースについて、UNHCRがインタビューの実施方法や出身国情報の収集や分析に関する意見を述べるものとなることを求めます。また、UNHCRが示した意見を踏まえた難民認定の判断が行われることを期待します。

個別案件の判断にUNHCRの意見を取り入れる施策は、各国でも行われています。例えば、EUでは、加盟国は「手続きのあらゆる段階において、国際的保護のための個別の申請に関し、その見解を述べること*7」をUNHCRに対して認めるとされています。また、韓国でも、UNHCRや難民申請者の要請がある場合、「難民認定申請または異議申請に対する審査に関する意見提示*8」ができるように協力しなければならないとされています。日本が難民条約に加入する際の国会審議でも、難民認定に際してUNHCRの意見を参考にするとされていました*9。日本は難民条約締約国として「UNHCRが難民条約の規定の適用を監督する責務を遂行するうえで便宜を与えることを約束*10」しており、その実行を期待します。

3. 難民認定業務の専門性の確保について

MOCでは、「難民調査官等への研修についての協力」を引き続き行うとされています。しかし、UNHCRによる「難民調査官等への研修」はこれまでも長年にわたりって行われていますが*11、難民調査官による調査には依然多くの課題が見られ*12、十分な効果をあげているとはいえません。難民調査官の質を向上させるためには、研修だけでは不十分です。難民認定に必要な知識や経験、特性を備えた者を難民調査官として採用するなど、研修に留まらず、抜本的な改善が行われるべきです。また、UNHCRは従来より「難民を専門的に扱う部局の設立*13」を日本政府に求めてきました。政府の有識者会議でも、「難民認定業務の専門性・独立性をより高めるため*14」組織のあり方に関する検討が求められています。MOCを機に、難民認定業務の専門性を実質的に確保するための議論の発展を期待します。

4. 質の向上に資する施策の実効性について

MOCでは、UNHCRと入管庁が協力して行う施策が実際の難民認定にどのように反映されるかが確認されていません。UNHCRは日本の難民保護の問題や法制度についてこれまで様々な意見を示しています*15。例えば、2021年の通常国会に政府が提出した入管法改正案について、UNHCRは「非常に重大な懸念を生じさせる様々な側面がある*16」とし、一部の難民申請者の送還を可能にする規定の削除などを求めていました。しかし、政府はそれらの指摘に応じる姿勢を見せていません。

MOCでは、覚書に基づく施策の実施状況がどのように報告されるかも定められておらず、実効性を確認するための仕組みが欠けています。UNHCRが示した意見を踏まえた審査や法制度の改善を行うことを前提とした、協力関係の強化を期待します。そして、難民として認められるべき人が認められ、難民や難民申請者の権利が十分に保障される制度の実現につながるものとなることを望みます。

(以上)

  1. ただし、当コメント発表時点でMOCの本文は公表されていない。以下、MOCに関する記述は入管庁報道発表資料(http://www.moj.go.jp/isa/publications/press/07_00010.html)記載の「趣旨」、「本MOCの内容」、及び参考資料(http://www.moj.go.jp/isa/content/001353095.pdf)に基づく。[]
  2. 第6次出入国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」http://www.moj.go.jp/content/001130133.pdf[]
  3. 「国際連合難民高等弁務官事務所規程」8(a)https://www.unhcr.org/jp/statutetext[]
  4. UNHCR「難民認定基準ハンドブック」https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/protect/HB_web.pdf[]
  5. 「第204回国会衆議院法務委員会会議録第19号」松本政府参考人による発言[]
  6. 「法務大臣記者会見の概要:令和3年7月30日(金)」http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00220.html[]
  7. 「国際的保護の付与・撤回のための共通手続きに関する2013年6月26日付けの欧州議会・理事会指令2013/32/EU(改)」第29条第1項[]
  8. 「韓国難民法」第29条第2項[]
  9. 「第94回国会衆議院法務委員会外務委員会社会労働委員会連合審査会会議録第1号」大鷹政府委員による発言[]
  10. 前掲注4[]
  11. 1997年に行われた前難民認定室長による講演では、難民調査官への研修について「96年には、はじめて10日間という研修を実施しました。講師としては、UNHCRから代表、副代表、法務官の方に来て講義していただいたり、外務省の地域課の担当官に来て話をしてもらった」と紹介されている(江口敏樹「日本における難民保護」『難民からみる世界と日本:アムネスティ・インターナショナル日本支部人権講座講演録』より)[]
  12. 関東弁護士連合会「難民認定手続の運用に関する調査報告書」http://www.kanto-ba.org/declaration/pdf/h27a6.pdf[]
  13. UNHCR「日本と世界における難民・国内避難民・無国籍者に関する問題について(日本への提案):更新版」https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/protect/Points_for_Consideration_JAPANESE_May_2017.pdf[]
  14. 第7次出入国管理政策懇談会 報告書「今後の出入国在留管理行政の在り方」http://www.moj.go.jp/isa/content/001334958.pdf[]
  15. UNHCR「難民保護・無国籍関連資料:UNHCR駐日事務所が提出した意見」https://www.unhcr.org/jp/protection_material[]
  16. UNHCR「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(第204回国会提出)に関する2021年4月9日付け国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の見解の概要」https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/2021/04/Executive-Summary-20210409-UNHCR-Comments-on-ICRRA-Bill-Japanese.pdf[]