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活動レポート

一人ひとりの未来と向き合うこと-民間主導による難民受け入れの取り組み

折居 徳正
難民支援協会(JAR)シリア難民受入れプログラム・マネージャー

「内戦が起きてから、私達はすでに6年の時間が奪われました」。
これは、今年3月に来日したシリア難民留学生の一人が、関係者で開催したささやかな歓迎レセプションでのスピーチで語った一言である。シリアでの内戦が始まってからの月日で、若者にとっては、かけがえのない学びと経験、成長の時間が失われてきた現実が、この一言からずしりと関係者の胸に響いた。

彼らを日本に招聘する事業が構想されたのは、2年前の2015年に遡る。当時100万人とも言われる難民・移民がヨーロッパを目指して移動し、その様子は日本のメディアでも連日大きく取り上げられていた。日本政府として当時認定したシリア難民はわずか3人(それ以外に人道配慮による滞在が40人程度)に留まっており、翌2016年には世界人道サミット、また直後に伊勢志摩G7サミットが予定される中、日本として国際的責任をどのように分担するのか、政策的議論が盛り上がる余地はあった。しかし同年11月のパリでのテロ事件を受け、日本国内での政策議論も、一転して消極的な結論が見通される状況となっていた。

そのような中、難民を留学生として受け入れられないかという問い合わせが、ある日本語学校から届いた。「日本は難民を受け入れる準備ができていない」「テロリストが混ざっている可能性がある」「日本のように遠く、言語、文化も異なる国に来たいシリア難民はいない」等、受け入れ側、送り出し側双方について否定的な意見がメディアやネット上で飛び交う中で、自ら一歩を踏み出すことはできないのか、という問いかけであった。政府が動かないのであれば、自分たちが民間主導で難民を受け入れることで、政策提言に結び付けるしかない、そのような問題意識からこのプロジェクトはスタートした。

難民の第三国定住については、国連も「難民以外の法的枠組みでの受入れ」を進めるべきとの方針を打ち出しており、幸い各国の好事例について難民支援協会(JAR)では知見があった。その中で、民間主導の受け入れが進むカナダの事例に学ぶため、2016年1月に現地に調査団を派遣し、カトリック・トロント難民事務局(Office for Refugees, Archdiocese of Toronto)から多くを学ぶ機会を得た。カナダでは、政府の制度を補完し、民間の団体や個人のグループが招聘元となる民間難民受入れ(プライベート・スポンサーシップ)が定着し、2017年には民間主導で1万7千人の難民受け入れを行うに至っている。

社会の各層で、難民の受け入れを「新しいカナダ人」として進めるその社会的蓄積に、派遣された当会職員は圧倒される思いであったが、受け入れの成功は来日前の事前準備で決まること、また「期待値のコントロール」が重要で、過度な期待を抱かないようにすること等、多くの重要な教訓を学んだ。もう一つ重要な学びは、永住権を得て入国すること、80%以上が1年間の支援の後に就業して自立し、納税者、社会保障の担い手となり、社会と人口を維持して行くのに不可欠な「カナダ人」になって行くという事実である。

カナダの場合は民間で選定した方も、あくまでカナダ政府が難民として認定している。一方日本の場合は、法的身分について同じ条件を満たすことは、実質不可能であった。しかし留学生であれば、要件を満たしていれば在留資格認定証明書が発行され、来日後は生活や社会統合の面で、公的支援が不足する部分を民間で補うことで生活は可能となる。その後大学、専門学校を卒業して就職が決まれば、就労資格も得て、長期に日本に滞在する途が開く。

ただし以上を実現するためには、カナダでは公的助成を受けて数多くの市民社会組織、宗教系組織が提供している法的、生活支援を、独自に民間から資金確保した上で、市民社会から提供しなければならない。よってプロジェクトの成功には、NGO/NPO等の市民社会組織、宗教系組織、企業、自治体等、日本社会の様々なアクターの協力をいかに引き出し、結集することができるかにかかると結論付けられた。その意味で、当初からカリタスジャパン、また民間企業のラッシュジャパンより、資金面で支援を頂くことができたことの意義は非常に大きかった。

その後2016年5月に、シリア難民460万人の内最大の250万人が滞在するトルコにて調査を行った。アレッポ大学日本センターに関わりを持っていた方々を中心にシリア人コミュニティの協力を得ることができ、各地で難民の若者と面会したり、家庭を訪問させて頂く等して聞き取りを行った。トルコには高等教育を必要としているシリア難民は約55万人おり、トルコ政府や支援国もトルコの大学への受入れを一義的には進めているが、残念ながら2016年の時点でも約10万人がアクセスできているに過ぎない。高等教育を受けられない場合、不安定な単純労働に従事するしかなく、どうしたら高等教育のチャンスをつかむことができるのか、多くの優秀な若者が模索していることが確認された。

以上の調査結果を踏まえ、同年7月より実際の受入れ事業を開始した。募集に際しては想定されるあらゆるネガティブな情報も含めて募集要項に記載し、一般的アルバイトの内容、狭くて高価な住環境、外国人特にムスリムの少ない社会状況、難民政策等、日本に過度な期待を抱いて応募してくることを思い留まらせる内容とした。応募要件は以下の通りである。

  • 高等教育を受け、国際的な就業市場での就職の意欲と能力を持つ方
  • 生活費はアルバイトで稼ぎながら、日本語を学習する条件に賛同する方
  • 高校卒業資格を提出可能な方
  • 家族が日本への留学、生活に賛同しており、留学後経済的に家族を支えることが不要な方
  • 26歳以下、また過去に日本語学習経験を持つ方を優先
  • トルコでの就業経験を持つ方を優先

2016年9月にオンラインで募集を開始したところ、3週間で212名の応募があった。第1次書類選考にて学力、適応性、難民該当性、脆弱性を基準に40名に絞ったところ、男性と女性は半数ずつとなり、事前予想よりも女性の応募が多かったのは嬉しい誤算であった。第2次書類選考で10名に絞り、10月半ばに日本語学校ともスカイプ接続の上で面接を実施し、結果として5名を選考した。選考後はビザ申請に際しての側面支援と、事前の日本語学習支援をトルコにて実施した。この間2017年2月に、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会がこのプログラムを共同事業として実施することが正式に発表されたが、インドシナ難民の受入れの経験の持つ日本の宗教界がシリア難民の受入れに協力を決定したことは、日本の社会にとっても大きな一歩であると感じている。

その後5名が2017年3月末に予定通り日本に来日した。シリア紛争の発生から6年経って、「先進国」である日本に初めて呼び寄せられたシリア難民達であった。そして都内でささやかな歓迎レセプションを開催し、支援、協力を頂いた行政、国連機関、企業、教育関係者、市民社会組織等の方々に集まってもらい、日本社会として彼らを歓迎する意を示すことができた。その中での5人のスピーチは、会場に集まった多くの方の心に響いた。「例えトルコで何とか暮らして行くことができたとしても、「夢」を持てなければ、生きている意味がありません」「まさか日本に来られるとは夢にも思っていなかったが、現実になりました。でも、他にも学びたい若者は多くいます。どうかこのプログラムを続けてください」「このプログラムのよいところは、「難民」として支援に依存するのではなく、自立して生活費を稼ぎ、誇りを持って生きて行くことができることです」。

その後3日間に渡ってオリエンテーションを行い、日本の文化・習慣、就業(アルバイト)時の注意、法的身分、防災等について職員が講義を行う一方、在日シリア難民の方や難民支援団体の方々等とも出会う機会を作った。彼らは現在、首都圏と関西の日本語学校に入学し、日本語学習を本格化させながら、アルバイトにも就き始めている。日本社会とさらに接点を作り、自ら必要な情報やリソースを得られるようになるまでには、当協会としてもさらに取り組んで行くべき課題は多い。
ただ、彼らに出会うことで、イメージとしての「シリア難民」ではなく、シリア出身の一人ひとりの若者との生身の出会いを経験し、多くの方が受入れの意義を理解して頂いていることは非常に大きいと感じている。同様の取り組みを検討する団体からの問い合わせもすでに出てきており、民間主導の難民受入れは、日本の難民受け入れ、引いては難民政策を変えていく可能性を秘めていると言える。

*本記事はMネット・192号(2017.6)への寄稿の転載です。

難民支援協会(JAR)の活動は、このシリア難民留学生の受け入れ事業を含め、多くが皆さまの寄付によって展開することができています。活動にご賛同いただけましたら、ぜひご寄付という形で応援いただけますと幸いです。

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書いた人

※ 記事掲載時のプロフィールです

(2018年4月12日掲載)

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