活動レポート

「皆が喜んでくれたことがうれしい」―難民と共に、世界難民の日イベント開催(動画あり)

6月20日世界難民の日に、難民の方々と共に企画したイベントを開催しました。イベント開催に至るまでの経緯や当日の様子をお伝えします。

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「Good afternoon everyone and welcome! 今日は世界難民の日。戦争や迫害、災害で国を追われた人々に思いをはせる日です。会のテーマは、希望、人間の精神の強さ、文化の多様性。本日は、難民の人たちによる食事とコーヒー、音楽、ヘアアレンジを楽しんでいただけます。この場を実現できたことに、JARの皆さんに感謝します。さあ、共に世界難民の日を祝いましょう!」。

MCを務めるのは、アフリカ南部から逃れてきたJさん。会場全体に威勢よく響き渡る開会挨拶とともに世界難民の日イベントははじまった。今日のためにおしゃれをしてきてくれた方々の赤やオレンジ、黄色、アフリカンプリントの服装が目に映える。

JARが難民の方と共に難民のために企画したこのイベント。苦しい日々の出口をすぐに見いだすことは難しいが、「ひと時でも楽しんでほしい。笑顔になってほしい」。企画に込めた、スタッフの思いだ。

緊急支援の現場で「楽しい」企画を実現できるのか?

実は、この企画は、1年越しに実現にこぎつけることができた。普段の支援現場では、「楽しい」ことをする余裕はほとんどない。JARに来訪する難民の方々が直面しているのは、今日明日をどう生き延びるかという厳しい現実だ。来日間もなく、行く当てもない方々に、まずは一息ついてもらうための宿泊先の手配や食料の提供、そして、難民申請手続きに関する説明や申請のサポートを行う。その間に、体調不良の訴えがあれば、病院の受診を手配し、同行することもある。

昨年10月に新型コロナウイルス対策に伴う入国制限が緩和されたことにより、JARに来訪する難民の方の数は急増した。年明けから毎日約30人。昨年同時期の約6倍だ。

スタッフとしては、難民の方々のためにイベントを実現したいと強く思う一方、準備に時間が割けるのか、という現実的な不安もあった。しかし、まずは小さくてもやってみよう、ということで実行に向かうことになった。

英語、フランス語、アラビア語で作成したパンフレット(スタッフ撮影)

対象は来日間もない仮住まいの人たち

JARに来る相談者全員に参加してもらうほど大規模なイベントはできない。とはいえ、こういう場を必要としている人はたくさんいる。何度も議論を重ねた結果、今回の対象は、「来日間もなく、ネットカフェやホステルなどで仮住まいを続けている人たち」とした。みな、母国での迫害や来日までの困難に加え、想定していなかった来日後の過酷な状況に疲弊している。慣れない日本の食事や、仮住まいとJARの事務所を行き来する以外、何もすることがない生活で、体調不良に陥る人も少なくない。

辛いのは身体だけではない。支援を受けるばかりの状況に、気持ちが落ち込んだり、何もできない自分に落胆する人もいる。母国ではコミュニティーのリーダーとして、困っている人を助ける側だったり、地域のために貢献することができる地位にいた人もいるのだ。

企画者としてイベントに参加

そういった状況を受け、難民の方を招待するだけではなく、主体的に参加する「企画者」とし、各自ができることを持ち寄ってもらい、一緒に準備を進めることにした。

いざふたを開けてみると、母国でホテルのシェフをしていた人、グローバルなアパレルメーカーの動画作成をしていた人など、多彩な経験を持っていることが判明。冒頭に登場したMCのJさんも、実はプロの司会者だ。

他にも、ダンスを教えてくれた人、母国のコーヒーを淹れてくれた人、手品を披露してくれた人、故郷の歌を歌ってくれた人、アフリカにルーツのある編み込み「コーンロウ」をしてくれるサロンを開いてくれた人、習い始めたばかりの日本語でスピーチをしてくれた人など、さまざまな背景や特技を持った人が参加してくれたことで、イベントは大盛況だった。

シェフ経験のあるAさんは、事務所ではいつも一人でぽつんとしていて、他の人と話している姿を見かけることはほとんどない。そんなAさんだが、今回は、料理チームのリーダーとして、5人を率い、奮闘してくれた。肉と野菜の下準備をする調理台をそれぞれ分ける配慮や、限られた時間で50人分の料理を作る段取り、包丁さばき、盛り付け方など、どれを見てもプロとして働いていた様子が伺える。

料理チームは朝9:30に集合し、準備を開始。シェフのAさん以外も、皆とても料理が上手だ。(スタッフ撮影)
メニューは、クスクスとトマト煮込み、包み揚げ(ジャガイモ、ツナ、パセリを混ぜ、春巻きの皮にのせ、生卵を落とし、包んで揚げた)、レモンドレッシングのサラダ。

これは、動画クリエーターのRさんが、携帯で撮影し、編集してくれた動画だ。参加者は全員難民申請中のため顔を写せないが、一般の方に楽しい様子が伝わる動画にしてほしいとリクエストしたところ、「オッケー、わかった。大丈夫」と悩むことなく即答。自分のスキルを久しぶりに発揮することができたこともうれしかったのか、Rさんも、イベントでははちきれんばかりの笑顔を見せてくれた。この記事に掲載している写真も、Rさんによる撮影と編集だ。

日本語でスピーチをしてくれたFさんは、アフリカ南部から今年のはじめに逃れてきた。イベントでは、「感謝の気持ちを日本語で伝えたい」と自ら望んでスピーチをしてくれた。英語で原稿を書き、日本語に訳して、さらにローマ字に書き直し、そらで言えるよう何度も練習をした。「JARは救急車のような存在」と言って、JARの支援に対する感謝を述べてくれた。

イベントで流したプレイリストも、難民の方が作成してくれた。人気曲が流れると、皆のテンションが上がり、自然と身体が動きだす。歓声が沸き上がる。会場の隅に恥ずかしそうに座っていたOさんも、立ち上がって皆の輪に入り、踊り出す。彼女の内からあふれだすエネルギーに、見ている側も引き込まれる。

あっという間の3時間だった。会の締めは、司会のJさんから。

「今日私たちは、共に、レジリエンス(困難に遭遇しても立ち上がる力)を大切にし、多様性を受け入れ、文化交流の持つ豊かな力を知りました。この気持ちを忘れず、世界の難民のために、思いやりと支援の輪を広げていきましょう。絆を深めましょう。誰一人取り残さない(inclusive)、思いやりのある社会の実現に向けた信念が揺るぎないものとなりますように。今日はありがとうございました!」

帰り際には、スタッフから、ステンレスボトルやカードなどの入ったお土産をお渡しした。ボトルは、しっかり水分補給をして東京の猛暑を乗り切ってほしいという思いで選んだ。家族がいる方には子ども向けのおもちゃも入れた。

難民の方からの感想

後日、難民の方々から、たくさんの感想をいただいた。

「みんなが喜んでくれた。それが自分にとってもうれしい」

「自分に任せてくれてありがとう。人として尊重してくれて感謝しています」

「難民である自分がこれほどの愛を受けたことは、今までなかった。ありがとう」

「とても楽しかったし、美味しかった。ダンスも良かった。誘ってくれてありがとう」

「生活は大変だけど、少しストレスが減ったかな。料理を作れたし、美味しかったし、とても楽しかった」

次回に向けたフィードバックをくれた方もいた。
「参加者から曲のリクエストをもらうような仕掛けを準備できていたら、もっと盛り上がったかもしれない。次回に向けての提案です」

来日してから「支援を受ける」ばかりの難民の方々にとって、自分が誰かのために何かをする、共に何かを作り出すことの喜びは、ただ楽しかった3時間以上の意味があったのではないかと思う。

私たちスタッフにとっては、支援を通じて見る顔とは違う難民の方々の姿を見ることができ、引き続き、厳しい現場を支える大きな糧となった。また、言葉を介さず、食、音楽、ダンスなどを通じたコミュニケーションの楽しさ、可能性、重要性を改めて感じた。

最後に、この場に参加することができなかった方々のことにも言及したい。

「少し疲れているので、宿で休みたい」と、参加する力すら持ち合わせていなかった方、気持ちが落ち込み、直前に参加を取りやめた方、不特定多数の人がいる場には安心して顔を出せないという方、JARからの案内に特に返事がなかった方などがいる。また、今回は私たちの余力や会場の広さ、予算などさまざまな制約から声をかけることができなかった方々もたくさんいる。そういった方々のことも心にとどめ置き、一人ひとりの置かれた状況に寄り添いながら、今後もしっかりと伴走していきたい。

日本に逃れてきた方々が、少しでも早く、難民として受け入れられ、自分の力を生かして、自分の人生を生きられるようになることを改めて強く願う1日となった。