JARニュースレター "for Refugees" Vol.27 Sep. 2023

「皆が喜んでくれたことがうれしい」― 難民と共に、世界難民の日イベント開催

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「皆が喜んでくれたことがうれしい」
― 難民と共に、世界難民の日イベント開催

6月20日世界難民の日に、難民の方々と共に企画したイベントを開催しました。イベント開催に至るまでの経緯や当日の様子をお伝えします。

「Good afternoon everyone and welcome ! 今日は世界難民の日。戦争や迫害、災害で国を追われた人々に思いをはせる日です。会のテーマは、希望、人間の精神の強さ、文化の多様性。さあ、共に世界難民の日を祝いましょう!」。MCを務めるのは、アフリカ南部から逃れてきたJさん。会場全体に威勢よく響き渡る開会挨拶とともに世界難民の日イベントははじまった。今日のためにおしゃれをしてきてくれた方々の赤やオレンジ、黄色、アフリカンプリントの服装が目に映える。

JARが難民の方と共に難民のために企画したこのイベント。苦しい日々の出口をすぐに見いだすことは難しいが、「ひと時でも楽しんでほしい。笑顔になってほしい」。企画に込めた、スタッフの思いだ。

緊急支援の現場で「楽しい」企画を実現できるのか?

実はこの企画は、1年越しに実現にこぎつけることができた。普段の支援現場では、「楽しい」ことをする余裕はほとんどない。JARに来訪する難民の方々が直面しているのは、今日明日をどう生き延びるかという厳しい現実だ。来日間もなく、行く当てもない方々に、まずは一息ついてもらうための宿泊先の手配や食料の提供、そして、難民申請手続きに関する説明や申請のサポートを行う。その間に、体調不良の訴えがあれば、病院の受診を手配し、同行することもある。

スタッフとしては、難民の方々のためにイベントを実現したいと強く思う一方、準備に時間が割けるのか、という現実的な不安もあった。しかし、まずは小さくてもやってみよう、ということで実行に向かうことになった。

対象は来日間もない仮住まいの人たち

JARに来る相談者全員に参加してもらうほど大規模なイベントはできない。とはいえ、こういう場を必要としている人はたくさんいる。何度も議論を重ねた結果、今回の対象は、「来日間もなく、ネットカフェやホステルなどで仮住まいを続けている人たち」とした。みな、母国での迫害や来日までの困難に加え、想定していなかった来日後の過酷な状況に疲弊している。慣れない日本の食事や、仮住まいとJARの事務所を行き来する以外、何もすることがない生活で、体調不良に陥る人も少なくない。辛いのは身体だけではない。支援を受けるばかりの状況に、気持ちが落ち込んだり、何もできない自分に落胆する人もいる。母国ではコミュニティーのリーダーとして、困っている人を助ける側だったり、地域のために貢献することができる地位にいた人もいるのだ。

企画者としてイベントに参加

そういった状況を受け、難民の方を招待するだけではなく、主体的に参加する「企画者」とし、各自ができることを持ち寄ってもらい、一緒に準備を進めることにした。いざふたを開けてみると、母国でホテルのシェフをしていた人、グローバルなアパレルメーカーの動画作成をしていた人など、多彩な経験を持っていることが判明。冒頭に登場したMCのJさんも、実はプロの司会者だ。他にも、ダンスを教えてくれた人、母国のコーヒーを淹れてくれた人、手品を披露してくれた人、故郷の歌を歌ってくれた人、アフリカにルーツのある編み込み「コーンロウ」をしてくれるサロンを開いてくれた人、習い始めたばかりの日本語でスピーチをしてくれた人など、さまざまな背景や特技を持った人が参加してくれたことで、イベントは大盛況だった。

難民の方からの感想

後日、難民の方々からたくさんの感想をいただいた。「みんなが喜んでくれた。それが自分にとってもうれしい」「自分に任せてくれてありがとう」

来日してから「支援を受ける」ばかりの難民の方々にとって、自分が誰かのために何かをする、共に何かを作り出すことの喜びは、ただ楽しかった3時間以上の意味があったのではないかと思う。私たちスタッフにとっては、支援を通じて見る顔とは違う難民の方々の姿を見ることができ、引き続き、厳しい現場を支える大きな糧となった。

最後に、この場に参加することができなかった方々のことにも言及したい。「少し疲れているので、宿で休みたい」と、参加する力すら持ち合わせていなかった方、気持ちが落ち込み、直前に参加を取りやめた方、不特定多数の人がいる場には安心して顔を出せないという方、JARからの案内に特に返事がなかった方などがいる。また、今回は私たちの余力や会場の広さ、予算などさまざまな制約から声をかけることができなかった方々もたくさんいる。そういった方々のことも心にとどめ置き、一人ひとりの置かれた状況に寄り添いながら、今後もしっかりと伴走していきたい。日本に逃れてきた方々が、少しでも早く、難民として受け入れられ、自分の力を生かして、自分の人生を生きられるようになることを改めて強く願う1日となった。

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この夏の支援(期間:2023年6月~8月)

昨年末からの来訪者の急増は収まらず、この夏も続きました。来訪される方は連日30~40人で、昨年同期の約6倍となりました。大半は新規に入国された方々です。所持金はわずかで宿泊先がないなど、最低限の生活すら営めない状態での相談が中心です。数週間にわたりホームレスになっている方もいます。来日時の持ち金はすぐに尽き、前日は公園で過ごしたと、疲れ切った様子で来訪される方も少なくありません。日々生き延びるための支援に加え、難民認定を得るための支援も欠かせません。従来の想定を大きく超える多くの来訪者に対して、スタッフ総出で支援を続けました。

8月現在、難民申請者が公的支援を受けられるまでの待機期間が大幅に伸びています。約6ヶ月待機している方もおり、JARからの支援などでその間を繋いでいる形になっています。また、以前と比べて家族で来訪される方が増えました。ぐずる赤ちゃんの声や、きょうだい喧嘩の掛け合いを事務所で聞くことも日常です。連日の酷暑と日々の暮らしの過酷さもあり、体調を崩される方が何人もいました。この夏は宿泊先や食料の支援、医療機関への受診支援が非常に多くなりました。

食料や生活物資については、ご寄付や助成を活用して購入するとともに、様々な企業・団体や個人の方からのご寄贈にも支えられています。加えて、2月より事務所でのボランティア活動を再開し、日替わりで難民の方々に提供する食品の小分けをご協力いただけるようになったことにも助けられています。この夏も、多くの困難な状況に置かれた難民の方々に心を寄せ、ご支援をくださりありがとうございます。

【この夏の支援実績】

・事務所や収容所等での相談件数 1,265件

・リモートでの相談件数 874件 (電話やメール、オンラインビデオ通話による相談・支援)

・シェルター・宿泊費提供人数 110人以上 (期間前からのシェルター入居を含む)

・物資の宅配数 104件

【いただいたご支援*】

・ご寄付の総額: 13,934,823円(883件)
*夏の寄付の案内開始(2023年6月15日)から2023年8月31日まで。
なお、同期間にいただいた一部の大口寄付を除きます。

いただいたご寄付をもとに、難民の方々への直接支援のほか、政策提言や広報活動にも引き続き取り組んでいきます。

改正入管法の成立。「難民の送還ではなく保護を」への思いを今後に

[「#難民の相関ではなく保護を」キャンペーン開始! ハッシュタグ「#難民の相関ではなく保護を」のもと、法案の問題について伝えるとともに、賛同の声や法改正に反対する声をみなさまから募集します。]
幅広い賛同を目指して作成したキャンペーン画像

先の国会で審議されていた入管法改正案に対し、JARでは、X(旧Twitter)で「#難民の送還ではなく保護を」キャンペーンを実施しました。3/15~3/31の期間中、同ハッシュタグが使われたツイート全体への賛同(いいね・リツイート)は1万2千を超え、賛同はメールでも届きました。本当にありがとうございました。国会審議の始まった4月以降も発信を続け、また、寄せられた声はロビイング(国会や政府への働きかけ)の中で議員の方々に様々なかたちで届けました。

6月に法案は成立しましたが、難民の立場、この社会への願いなど様々な点から考え、想像し、声を上げた方の存在感がこれまでになく高まったと感じています。JARウェブサイトでは特集ページを作成し、皆さまの声を一部ではありますが掲載しています。この声を、法案だけのものとするのではなく、難民保護を求める声として今後も広く共有していきます。

国会審議では難民認定制度の課題を裏付ける事実が次々と明らかになりました。現行の難民認定制度の改善はもとより、難民保護法や独立した第三者機関の設置がやはり必要です。引き続き、難民の送還ではなく保護を目指して制度改善に向けて取り組みます。

関連ページ:「難民の送還ではなく保護を – 入管法改正案へのキャンペーン

警察による不当な職務質問(レイシャルプロファイリング)の改善を求める署名キャンペーンに賛同

「外国人と判明すると(警察官の)態度が変わる」「外国人であることが分かった途端、警察官の態度が急変しタメ口で職務質問が行われた」

[人種差別的な職務質問の改善を求めます #STOPレイシャルプロファイリング]

東京弁護士会外国人の人権に関する委員会による調査(2022年)で明らかになったレイシャルプロファイリングの被害者の声です。レイシャルプロファイリングとは、警察などの法執行機関が、人種や肌の色、国籍などに基づき、個人を捜査対象としたり犯罪との関わりを判断したりすることを言います。国連は各国政府に禁止を求めています。
JARは、弁護士などが中心となり立ち上げたレイシャルプロファイリングに関するオンライン署名キャンペーン(5月開始)の賛同団体として、署名や情報の拡散に協力しています。難民の方々の多くも、レイシャルプロファイリングの被害者です。警察からの職務質問が「日常の一部」と言えるほど、頻繁に経験している人もいます。被害の当事者が声を上げづらいからこそ、私たちが声を上げなくてはならないと考えています。

難民申請者の体験談 / 署名はこちら

8回目のチャリティラン&ウォーク「DAN DAN RUN 2023」を開催しました

2023年5月13日から21日、ボランティア28人の実行委員会が中心となり、オンラインと豊洲の会場の両方で開催しました。会場では、当日運営メンバー36人も早朝から集まりました。参加者は地域や年齢層などさまざまな方々317人にのぼりました。オンラインでは、難民問題の専門家へのインタビューや、参加者同士が交流できる場など、新たな試みにもチャレンジしました。最終日には、晴れ渡る青空のもと、豊洲の会場に集まった参加者の皆さんが快走し、難民についての関心を高めつつ、ラン・ウォークを通じて難民支援の輪を広げることができました。

関連記事:「チャリティラン&ウォーク DAN DAN RUN 2023を開催しました

大阪市生野区で「共に生きる」を模索する人たちの記事2本を公開 – ウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』

JARが運営する『ニッポン複雑紀行』で、新しい記事を2本公開しました。

今回の舞台は、外国籍住民の割合が21.2%という大阪市生野区。東京都新宿区は9.9%、日本全体では2.2%という数字と並べると、生野区のユニークさがよくわかります。生野区は、日本の植民地支配に由来する「オールドカマー」の集住地域であり、中国やベトナムなどからの「ニューカマー」も増え続ける土地です。変化する生野をどう未来に託していくのか、模索する方々のお話を聞きました。ぜひ一読ください。

ご支援くださった皆さまからの声をご紹介します

ご寄付をくださった方々から多くのメッセージをいただきました。そのうちいくつかをご紹介させていただきます。

困窮される方、不安な方が増加しているとのツイートを拝見して遅まきながら寄付をさせていただきました。まだまだ風当たりの強い日本社会ですが、変わってほしいし変えなければと思います。

難民の方々が身近にいらっしゃることを長い間知りませんでした。周りの人達にも話していきたいと思います。

日本国内で難民が置かれている状況を発信するとともに、難民の方を支えてくださっているスタッフの皆様には頭が下がる思いです。難民の方、また日々難民の方を支援されている皆様のお気持ちははかりしれません。日本がほんの少しずつでも寛容な国になれるよう心から願っています。

難民の方一人ひとりへの思いが寄せられたメッセージに、スタッフ一同感謝しております。難民への思いに加え、改正入管法の成立に対する懸念や憤りもいただきました。これからも、難民が危険の待つ母国へ送還されず、この国で安心して暮らせるよう、個別の支援と制度面や社会への取り組みを続けます。どうぞ、変わらぬご支援を、よろしくお願いします。

関連ページ:皆さまからのメッセージ(「寄付で支える」)

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