活動レポート

[特集]日本で暮らす難民の女性たち

    ここ数年、難民支援協会(JAR)には女性からの相談が目立って増えています。相談者全体の約2割が女性で、特徴的なのは「女性である」がゆえに受けた迫害から逃れてくる人が多いこと。例えば、名誉殺人(※1)や女性性器切除(FGM)(※2)など、重大な犯罪や人権侵害を取り締まる意思・能力がない国は少なくありません。JARには「求婚を拒んで殺害の脅迫を受けたが、警察には取り合ってもらえなかった」「国の機関は健全に機能していない。女性への暴力は野放し」「身を守るには国外へ脱出せざるを得なかった」といった声が日々寄せられています。
    難民条約では、人種、宗教、国籍、政治的意見のほか、「特定の社会的集団に属すること」を理由に迫害を受けるおそれのある人を保護するよう定めており、女性であるがゆえに被害者となっている彼女たちはまさにそれに該当します。
    日本で難民申請をしてから結果が出るまでの期間は平均3年。その間の公的な生活支援は不十分で来日直後から困窮します。多くがホームレスとなってしまいますが、このとき、女性は特に危険な状況に置かれます。例えば、寝る場所を確保するために助けを求めたところ、泊めてもらう代わりに関係を迫られ、望まない妊娠をしてしまうなど、女性特有の脆弱性を抱えているのです。
    JARは日本で暮らす難民女性の心とからだの健康を目指して、さまざまな支援を行っています。過去のトラウマから男性に対して不安を覚える方も安心できるよう、女性スタッフによるカウンセリングを受けられる環境を整えています。また、避妊や性感染症などについて理解を深めるワークショップの開催や多言語によるパンフレットの配布を行っています。最近では、日本で孤立しがちな女性たちの孤独感を和らげ、横のつながりを生み、支え合うことを目指すサロンを始めました。異国の地で自立することは簡単ではありませんが、日本でまず一歩を踏み出せるよう、寄り添うことを大切にしています。
    ※1 婚前・婚外交渉(強姦の被害によるものも含む)をした女性を、家族の名誉を汚したと見なし、女殺害する慣習。パキスタンのNGO「Aurat Foundation」によると、パキスタンでは2014年に少なくとも1,000人の女性が、家族の名誉のためとして殺害されている。
    ※2 女性器の一部を切除あるいは切開する行為で成人儀礼のひとつ。WHO(世界保健機関)によると、いまだにアフリカと中東の29カ国で行われている。

    《目次》
    1. ナタリーさんの話「今を乗り越えられたら、同じ境遇の女性たちのために立ち上がりたい」
    2. 難民女性の心とからだを守るための取り組み
    3. コミュニティがなく孤立しがちな女性たちが集う「ピアサポートサロン」
    4. クルドコミュニティの女性たちと日本社会をつなぐレース編み「オヤ」

    1. ナタリーさんの話「今を乗り越えられたら、同じ境遇の女性たちのために立ち上がりたい」

    natalie200.jpg女性がベビーカーを押しながら四谷の事務所に入ると、喜びの声が上がった。 出産後、初めての来訪だ。少し疲れた顔つきではあったが、 事務所のよく知る顔ぶれを前に安堵の色を浮かべるナタリーさん(仮名)。 大きな瞳が印象的な赤ちゃんはまだ生後1か月で、とても小さい。ナタリーさんが日本に逃れてきて約1年。 知り合いがいない、言葉が通じない土地でのサバイバルは困難の連続で、 時に、女性であることはそれをさらに難しくする…続きはこちら

    (2014年7月掲載記事)

    2. 難民女性の心とからだを守るための取り組み

    JARtoilet.jpg性的な暴力をともなう迫害から逃れてきた難民女性の中には、性交渉や妊娠・出産を自らの意思で決める権利やその術を学ぶ機会を奪われてきた人が多くいます。そのため、来日してからも性的な暴力の被害者となってしまうことがあります。例えば、JARには今年だけで約10人から望まない妊娠に関する相談がありました。女性たちが自らの心とからだの健康を保てるよう、JARは個別のカウンセリングに加えて、ワークショップの開催やパンフレットの配布を通じて、セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス/ライツ*に関する情報提供を行ってきました…続きはこちら

    3. コミュニティがなく孤立しがちな女性たちが集う「ピアサポートサロン」

    Peersalon200.jpg日本で暮らす難民の女性たちの、心とからだのケアを目的に開始した「ピアサポートサロン」。以前から、孤立した状況にある難民を対象にグループワークを行ってきましたが、ピアサポートサロンは女性を対象にしています。JARを訪れる女性のなかには、これまでの経験から男性と同じ場にいることに不安を覚える方も多く、女性限定の会に強い要望が寄せられてきたからです。類似した境遇の女性たちが集うことで孤独感を和らげ、横のつながりを生み、支え合うことを目指しています...続きはこちら

    (2015年7月掲載記事)

    4. クルドコミュニティの女性たちと日本社会をつなぐレース編み「オヤ」※

    oya200.jpgトルコから日本に逃れてくる難民が多いと聞くと、驚くでしょうか。トルコ・イラン・イラクなどにまたがって居住するクルド民族は、それぞれの国で長らく迫害されてきました。迫害の度合いは国や政権によって異なりますが、トルコではクルド民族が暮らす村が焼き討ちにあったり、言葉や音楽など独自の文化が禁止されたりした1990年代から、多くが国外へ逃れるようになりました…続きはこちら
    ※ 当事業は現在は実施されていません。

    (2020年2月5日追記)