JARニュースレター "for Refugees" Vol.28 Mar. 2024

難民申請者はどう生きていくのか? ー 公的支援「保護費」の課題と生存権

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[解説レポート]難民申請者はどう生きていくのか?
― 公的支援「保護費」の課題と生存権

政府がやるべき難民申請者のセーフティーネットの確保を、JARなど民間の支援団体が肩代わりしているーこれが日本の難民支援の現状です。ここでは、昨年10月に公開し、反響が大きかった難民申請者への唯一の公的支援「保護費」に関する解説記事のダイジェスト版をお届けします。JARの支援が必要なわけ、課題の所在について改めてお伝えします。なお、注釈は全て割愛しています。詳細は該当レポートをご覧ください。

保護費とは

生活困窮が認められた難民申請者への政府による公的支援。生活費(1,600円/日、12歳未満は1,200円/日)、住居費(単身:6万円/月、4人家族:8万円/月が上限)、医療費(本人による立替払い)がある。政府からの委託で難民事業本部(RHQ)が業務を実施している。

(2024年2月現在)

※ 2024年4月に保護費支給額が以下の通り変更になりました。
生活費:単身で月約72,000円、4人家族(子ども2人)の場合は約216,000円/住居費:単身で上限4万円、4人家族以上の場合は上限6万円

(2024年4月30日追記)

本題の前に押さえておきたい「人権と外国人の関係」

私たちが安心して当たり前の生活を送るためには、人権の保障が重要です。人権は「義務」とセットの概念ではありません。人権は誰もが生まれながらにしてもっており、だれからも奪われることのない権利で、国はそれを保障する責任があります。

現実には、所属する国籍国が生活をする国ではない人(定住外国人)、所属する国籍国がない人(無国籍者)、国籍国から追われ国籍国に帰れない人(難民)もいます。そうした実態に即して、国際法(世界人権宣言や国際人権規約)においては、生存権は必ずしも国籍に紐づくものではなく、社会の一員に対して保障されるべきという考え方が主流となりつつあり、近年では、その保障は国(締約国)の義務であると考えられています。

保護費の課題

✓法的根拠がない

難民申請者への生活保障に関しては、生活保護法のような法的根拠(根拠法令)がありません。生活保護法には、申請に対する本人への通知は「申請のあった日から14日以内」という規定があるため、それに則って実務がなされます。実際、必要な人が十分に生活保護を受給できていないという深刻な問題はありますが、手続きの公正さと透明性を確保し、権利を保障する法律があることは重要です。

さらに、難民申請者は、保護費の手続きに対して不服を申し立てる(審査請求)権利がありません。本来であれば、行政不服審査法に基づき認められる権利ですが、保護費は難民(外国人)の権利ではなく行政措置(行政の判断で行う対処のこと)であるため、行政不服審査法が適用されません。

✓受給までの長い待期期間

今日明日を生きることが難しい困窮状態にあるにもかかわらず、保護費の申請後、実際に受け取れるまでには、数か月から長い場合は半年ほどの時間がかかります。

例えば、難民申請書類を提出後、保護費申請のために本人がRHQ(難民事業本部:保護費支給を担う団体)に電話をし「3週間後にまた電話をください」と言われる事例が頻繁にあることをJARでは把握しています。結果として、実際の待期期間が7か月に及んだ人もいます。(2023年9月時点)

住居費、生活費、医療費:申請前や1回目の難民申請結果が出たのちには公的支援なし。また、申請中も、公的支援(保護費)を受給できるまでの待機期間が長い。
難民申請中の公的支援の穴

✓支給額が不十分

支給される生活費は、単身で月約48,000円、4人家族(子ども2人)の場合は約168,000円です。住居費は、単身で上限6万円、4人家族以上の場合は上限8万円です。

基本的には賃貸契約は難民申請者本人の名前で結ばねばならず、敷金礼金などの前金は支給されません。絶対額も少なく、「最低限の生活を保障」する生活保護と比較すると、支給額は約3分の2程度(都内の場合)です。

また、保護費だけで最低限の生活を営むことが難しいにもかかわらず、政府は保護費以外の収入を原則認めていません。翌月の保護費支給までに持ち金が尽きないよう、食費を切り詰め1日1食にしたり、 交通費を工面できないため外出を控えるなど、なんとか生きていくためのやりくりをしている人が少なくありません。保護費の額自体が最低限の生活を維持するには不十分であり、政府が収入を認めるか、保護費の額を増額するかしない限り、難民申請者が最低限の生活から抜け出すことはできません。

✓受給できる人は一部のみ

難民申請者にとって生活を支える唯一の公的支援であるにもかかわらず、2010年以降、保護費を受給できる人は原則初回の難民申請者のみとなっています。日本の難民認定制度には多くの課題があり、難民認定を得た人の中でも約7%は再申請で認められている現状で、再申請者の受給を制限することは深刻な問題です。代わりに、就労資格が得られればよいのですが、働くことも許されず、合法的に暮らすために必要な在留資格まで制限され、生きるすべを全て奪われてしまう難民申請者もいます。

✓圧倒的に足りない住居支援

難民申請者へのシェルター提供数の政府・民間比較:2022年度、RHQ(政府委託)は25人、難民支援協会(民間)は223人 ※ RHQは4月はじまり、難民支援協会は7月はじまり 出典:国会議員による質問主意書をもとに難民支援協会作成

最低限の生活を営む上で欠かせないのが住居です。政府(外務省)は、2003年に難民申請者に対してシェルター(緊急簡易宿泊施設)の提供を開始し、緊急で住居が必要な人が利用できる仕組みを持っています。エスフラ(ESFRA)と呼ばれるこのシェルターは、保護費支給の対象となった人の中から、RHQが緊急性を判断し、手配をします。しかし、必ずしも母子世帯など脆弱性の高い人が対象になるわけではなく、客観的な入居基準は明らかではありません。

グラフを見ると、政府がやるべき難民申請者のセーフティーネットの確保を、民間の支援団体が肩代わりしているという実態が歴然とわかります。

難民申請者へ尊厳と安心を

「日本に降り立った時はこれで命が助かるとほっとした。しかし、平和な日本でホームレスになるほど追い詰められるとは想像すらしていなかった。今は働けないので、支援がなければ生きていけない。でも、誰かの支援に頼って生活することは望んでいない。支援を乞うことが辛い。1人の人間として自立して生きたい」ー ある難民申請者の言葉です。

JARは、政府が難民申請者の唯一の公的支援である保護費を恩恵ではなく権利として認めること、その権利の保障のために責任を持つこと、国籍や在留資格の有無にかかわらず、難民申請者を尊厳ある「人間」として生きていけるよう対応することを、引き続き強く働きかけていきます。

各国事例から考える目指すべき姿

十数万人の難民申請者がいる各国では、生活費支援や就労許可などセーフティーネットの確保のため、政府がさまざまな取り組みをしています。

イギリス

セーフティーネットの穴ができないよう支給決定前から暫定的な支援を行う

  • 難民申請者 16万7,289人(2022末)
  • 住居、食事、生活費のいずか又は複数を受給 11万7,450人(2023.6末)

フランス

難民申請の結果まで一定期間かかる場合は就労が可能

  • 難民申請者 14万2,940人(2022末)
  • 生活費受給者 11万1,901人(2021末)
  • 住居受給者 10万8,814人(2022末)

ドイツ

在留資格の有無にかかわらず法律で最低限の生活保障の受給権を保障する

  • 難民申請者 26万1,019人(2022末)
  • 生活費受給者 約39万9,000人(2021末)
  • 住居提供者数 39万8,585人(2021末)

日本

政府の支援が非常に限定的

  • 難民申請者数 3,772人(2022.1-2022.12)
  • 保護費受給者 204人(2022.4-2023.3)

難民の声 − 支援の現場から

この冬、支援現場は限界に近い状況でしたが、多くの皆さまの力でなんとか支援を提供し続けることができました。スタッフに寄せられた難民の方の声をお届けします。

「こんなに気遣ってくれて、ありがとう。行く場所も、食べるものも、希望もない、そんな感じで今日も1日を終えるところだったよ」

事務所に相談にいらしたこの日、誕生日だった難民Aさん。スタッフで寄せ書きをし、誕生日カードを渡したところ、少し照れながら話してくれました。日本に逃げてきた難民の多くは、誕生日を共に祝う家族や友人と離れ離れで孤独な生活を送っています。JARがその孤独を埋めることはできませんが、私たちは常に難民の方のためにあり、ここは安全で安心できる場であることを感じてもらえたらと思います。

「入国してからずっと支えてくれて、心から感謝しています。不安でいっぱいの中でいつもそばにいてくれて。いつか恩返しをしたいです」

できれば自分の足で立って生きたいが、支援に頼らざるを得ないーーそんな自身の状況を不甲斐ないと感じる人もいます。だからこそ、自分が支援できる立場になったら恩返しがしたい。そんな気持ちを持っている方は少なくありません。また、難民認定を待っている状況にもかかわらず、今、ここ日本で命があることに感謝し、そんな日本社会に恩返しがしたいという方もいます。

支援ニーズを伝えるために、「支援される側」という難民の姿を伝えることが多いJARの発信ですが、難民の方一人ひとりの思いを改めてお伝えしたいと思います。

【この冬の支援実績 2023.12〜2024.2】

・事務所や収容所等での相談件数 970件

・リモートでの相談件数 938件 (電話やメール、オンラインビデオ通話による相談・支援)

・シェルター・宿泊費提供人数 155人

・物資の宅配数 99件

【いただいたご支援】

・ご寄付の総額: 38,699,012円(1,411件)
(冬の寄付の案内を開始した2023.11.15から2024.2.29まで。
なお、同期間にいただいた一部の大口寄付を除く。)

いただいたご寄付をもとに、難民の方々への直接支援のほか、政策提言や広報活動にも引き続き取り組んでいきます。

より詳しい冬の寄付報告はこちらをご覧ください。

難民アシスタント養成講座44期を開催

日本の難民問題を包括的に学び、支援の担い手を育成することを目指し2001年にスタートした難民アシスタント養成講座。昨年11月、2日間にわたって会場とオンラインの両方で開催しました。会場開催は4年ぶりで、参加申込者は141人。今回は、難民認定制度や生活の課題に加え、非正規移民・難民をめぐる排除の歴史、国際人権法の視点から難民問題を捉え直す講義を初めて取り入れました。「なぜ難民支援をしているのか/したいのか?」「身近でできる難民支援は?」をテーマにディスカッションを行い、さまざまなアイデアが出されました。

難民支援という共通の関心を持つ、年齢や職業も異なる受講生同士のつながりが持てる場にもなっています。「自分のやるべきことが見えてきた」「同じ方向を向く方々と出会えて力になった」という感想が寄せられました。次回は2024年秋開催予定です。

ニッポン複雑紀行から初の書籍化『密航のち洗濯』

難民支援に関心ある皆さんにぜひ読んでいただきたい1冊です。生き延びるために日本に「密航」してきた無名の作家・尹紫遠(ユン ジャウォン)とその家族の物語。家族の歴史の物語を通じて見えるのは、現代の難民移民を取り巻く問題です。「入管」「収容」「国籍」「警察」「戦争」「貧困」という言葉や既視感を覚えるさまざまな出来事の展開に心が動揺します。政治や戦争に翻弄されながらも生き続ける登場事物それぞれの人間としての逞しさ、強かさ、希望を感じる物語でもあります。書店店舗やオンラインで購入できます。

【告知】5/18〜26 DAN DAN RUN チャリティラン&ウォーク開催予定!

約20人のボランティア実行委員会が鋭意企画中です。レインボーブリッジと東京湾を見渡せる気持ちの良い豊洲ぐるり公園で、ランやウォークを楽しみませんか?

「Small actions, Big Difference. はじめの一歩はあなたから」を合言葉に身体を動かすことが難民支援につながります。ぜひご参加ください。イベント詳細はウェブサイトをご覧ください。

ご支援くださった皆さまからの声をご紹介します

難民の方々を取り巻く状況が一向に改善されないことに日々胸を痛めております。心ばかりですが、ご活用いただけますと幸いです。

日本が安全だと信じて命からがら逃げてきた人を暖かく受け入れるのは人として当然の義務です。日本政府はその義務を積極的に果たすべきです。

さまざまな理由で日本に来られる皆さまのことを、特に戦争・紛争などの多い昨今、いつも思っております。難民の方々がどうか少しでも温かな気持ちで今冬を過ごされますよう、心よりお祈りいたしております。 

支援者の皆さまからいただくメッセージは、私たちにとって大きな励みとなっています。寄付や物資の寄贈、ボランティア・プロボノなど、お一人おひとりが活動に参加し、支援を続けてくださっていることをとても心強く感じています。日本に逃れてきた難民の方々が1日も早く安心して暮らせるよう、支援者の皆さまとともに、これからも取り組みを続けます。

関連ページ:皆さまからのメッセージ(「寄付で支える」)

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