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性的マイノリティへの迫害から逃れること―難民とLGBT

2021年5月、イランで20歳の男性が同性愛者であることを理由に親族に惨殺される事件が起こりました。この男性は、身の危険を感じてパートナーとともに国外に逃れる計画を立てていたとメディアで報じられ、人権団体などが世界各地で非難の声をあげました*1

性のあり方は本来多様*2で、すべての人に認められる「人権」は、性のあり方によって侵害されるものであってはなりません。LGBT(レズビアン、ゲイ、バイ・セクシュアル、トランスジェンダーの頭文字からとった、性的マイノリティの人々を表す言葉のひとつ。他にもLGBTIやLGBTQ+といった総称があります)や、SOGI(性的指向:Sexual Orientationと性自認:Gender Identityの頭文字をとった、あらゆる人の性のあり方を構成する属性や要素を表す概念)などの言葉は、日本でも一般的に使われるようになってきました。

しかし、世界を見渡すと、性的マイノリティへの深刻な迫害が行われている国が多くあります。たとえば、同性間の性行為を刑法により禁止する国は世界に約70か国あり、そのうち6か国では刑罰として死刑が規定されています*3。同性愛者やトランスジェンダーであることが周囲に知られただけでも、迫害や重大な人権侵害の対象となる場合もあります。

こうした状況により、性的マイノリティであることを理由に迫害を受け、あるいは迫害を受けるおそれがあることから、母国から国外に避難せざるを得ない人々がいます。世界では1990年代以降、欧米諸国を中心に、性的マイノリティであることを理由に庇護を求める人々を「難民の地位に関する条約(以下、難民条約)」に基づく難民として認めるようになり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も保護の対象とするよう呼びかけてきました。現在では「LGBT難民*4」は条約上の難民に該当するという認識が、国際的に定着してきています。

日本では、2018年に初めて、同性愛を理由に母国で迫害されるおそれがあると訴えた人が難民として認定されました*5それ以降も同性愛を理由に難民認定がされています。しかし、そもそも日本では難民認定が非常に厳しく、難民として保護されることは容易ではありません。また性的マイノリティについても、東京オリンピック・パラリンピックに向けて東京都が差別を禁止する条例を制定したり、パートナーシップ制度を導入する自治体が出てくるなど地方レベルでの取り組みは進んできたものの、国レベルで性的指向や性自認を理由とした差別を禁じる法律は制定されておらず、十分な権利保障はされていません。

この記事では、世界で生じている性的マイノリティへの迫害の状況を概観するとともに、こうした迫害を受けた人々が難民として国際的に保護されるようになった経緯を振り返り、日本での「LGBT難民」の保護について考えます。

世界における性的マイノリティ―約70か国で犯罪として刑罰の対象に

同性間の性行為を刑法において犯罪としている国: 事実上の犯罪=2か国、最長8年の拘禁刑=30か国、拘禁刑(10年~終身)=27か国、死刑=11か国: 合計69か国(ナイジェリアは一部州で死刑とされ、2つの項目で計上されるため、合計が異なる)

図:同性間の性行為を刑法において犯罪としている国―ILGA『性的指向に関する世界の法制度』(2020年12月)に基づき、認定NPO法人 難民支援協会が作成(2021年8月)

世界には、性的マイノリティの人々を処罰の対象としている国々が存在しています。2020年12月時点で、同性の成人の間での性行為を犯罪として刑罰の対象としている国は世界に69か国あり、そのうち6か国では刑罰として死刑が規定されています*6

たとえばイランでは、2019年に同性間の性行為を行った罪で、31歳の男性に対し公開で絞首刑が執行されています*7。こうした国はアフリカ、中東地域に多く見られますが、アジア・カリブ海地域などにもあり、その数が減る傾向にあるとは言えない状況が続いています。

異性装など、「ジェンダー規範に反する」とされる服装や行為を刑罰の対象とする国もあります。モーリタニアでは、2020年にソーシャルメディアに投稿された異性装の動画が同国での最初の「同性間の結婚式」の様子としてマスメディアで報じられ、10名が逮捕されました。実際には同性間の結婚式ではなく誕生日パーティーの様子であったことが明らかになりましたが、異性装を行ったことに対して男性8名が懲役2年、女性1名が執行猶予付きの懲役1年の有罪判決を受けました*8

また、人権団体の活動やマスメディアの報道などが、「LGBTを助長する」活動として刑罰の対象とされている国もあります。エジプトでは2017年に、コンサートで性の多様性のシンボルであるレインボーフラッグを掲げたとして男性2名が逮捕され、これをきっかけに取り締まりが強化された結果、少なくとも75名が逮捕されました*9

こうした国では、同性愛者やトランスジェンダー等であることが周囲に知られただけでも迫害や重大な人権侵害の対象となる場合もあり、社会的・宗教的な理由に基づく同性愛嫌悪・トランスジェンダー嫌悪により、性的マイノリティが家族やコミュニティの構成員など私人による重大な差別、暴力、殺害などの危険に晒されている事例も報告されています。

世界におけるLGBTへの迫害状況(難民研究フォーラム報告より)

難民支援協会が事務局を務める「難民研究フォーラム」では、性的マイノリティまたは同性愛行為を犯罪と定めている国を中心に、75か国の迫害状況についてレポート等をまとめています(「難民とLGBT:世界における人権侵害の状況」)。この報告の中から、刑罰の上限が終身刑とされているウガンダ、死刑の規定があるサウジアラビアの2か国を紹介します。

ウガンダ

2019年にLGBTの人権活動を行っていたゲイの男性がウガンダ東部で殺害され、その数日後に大臣が「政府は同性間の性行為に死刑を科す法案を提出しようとしている」と性的マイノリティに対する脅迫的な発言を行いました。政府は後にその計画はないと発表しましたが、その後も別の大臣が性的マイノリティとテロリズムの関わりに言及するなど、政府レベルでの迫害が行われています。

こうした状況から、迫害を恐れて多くの人々がウガンダから逃れており、本国での性的マイノリティへの迫害状況を理由に、各国で難民として認定されています。

サウジアラビア

同性間の性交に対し、死刑が規定されています。2019 年、サウジアラビアの国立メディアに勤めるジャーナリストのゲイの男性が、政権に否定的な資料をリークしたと疑われたことから当局の取り調べや脅迫を受けるようになり、隠れて交際していた男性との関係を暴露すると当局から脅迫を受けたため、パートナーの男性とともにオーストラリアに逃れ、難民申請を行いました。

有効な観光ビザにより入国したものの、ビザの期限を超えて滞在する意思が発覚したため、空港内で拘束、収容され、その後庇護申請を行ったものの釈放されず、収容施設内で2回暴行を受けるなどの被害にあいました。複数の報道機関が彼らの釈放を訴えオーストラリア政府に勧告を行い、オーストラリアの上院においても、政府に対し難民審査プロセスを迅速化し、その間の安全を確保するよう動議が可決されたことから、2名は解放されました。

難民としての保護の取り組み

こうした性的マイノリティへの迫害に対し、1990年代以降、迫害から逃れた人々を難民条約上の難民として保護する動きが、欧米諸国を中心とする難民受け入れ国に広がっていきました。近年では、同性愛への刑罰のような国家による迫害だけでなく、反政府武装勢力や宗教コミュニティまたは私人による迫害など、非国家主体による迫害も含む様々な形態の迫害に関して、広く難民として認定されるようになっています*10

しかし、「LGBT難民」を比較的早い段階から庇護してきた欧米諸国においても、「LGBT難民」が常に難民条約上の難民として認定されてきたわけではありませんでした。1951年に定められた難民条約は、庇護対象となる迫害の理由を、「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、政治的意見」の5つとしており、条文に性的マイノリティを指す言葉が含まれているわけではありません。

性的マイノリティに対する迫害は、第二次世界大戦中にナチス政権下で同性愛者が迫害の対象となるなど、難民条約締結時にすでに存在していましたが、当時は欧米諸国においても同性愛行為を処罰の対象としている国が多数を占めており、性的マイノリティが難民申請をすることは実質的に困難な状況でした。「LGBT難民」が難民認定された事例は報告されておらず、そもそも性的マイノリティであることを理由とする迫害のおそれを訴える難民の数も限定的であったと考えられます。

しかし、1990年にはWHOが国際疾病分類を改訂し、同性愛を精神障害から除外する決議を行い、1990年代には同性カップルの関係を法的に保障する国も増え*11、90年代初頭から性的指向や性自認に基づく難民申請が見られるようになると、90年代半ば頃からは欧米諸国を中心に、難民条約における「特定の社会的集団」として「LGBT難民」を認めるようになっていきました。ただ、この時期には「LGBT難民」の定義は定まっておらず、欧米諸国でも判断が分かれており、国ごとに異なる解釈や運用がなされていました。

このような状況を踏まえて、2000年代に入ると、UNHCRが解釈の指針を示す複数のガイドラインや勧告を発表し*12、難民条約の解釈をめぐる国際的な合意が確立していきます。UNHCRの指針には各国への法的拘束力はありませんが*13、こうした指針が示されることでそれまでの法解釈が整理され、その蓄積の結果として、「LGBT難民」が庇護の対象となるという認識が多くの難民受け入れ国で形成されていきました。

日本における「LGBT難民」

日本は1981年に難民条約に加入していますが、2018年に初めて性的マイノリティであることを理由とする認定がなされるまで、「LGBT難民」に対する難民認定は行われてきませんでした。

「LGBT難民」の庇護が既に国際的に広がっていた2000年には、同性愛者であることを理由に迫害を受けるおそれがあると訴えた、イラン出身の難民申請者に対し、難民不認定処分が下されています*14。この申請者は翌年UNHCRにより難民条約に基づく難民であるという認定を受けたにも関わらず、その後の裁判でも訴えは通らず、難民不認定となっています。裁判では、裁判所はイランの刑法が同性間の性行為に対し死刑を規定していることを認めており、90年代にイランでは十数人に対する死刑執行の事実があったにも関わらず、迫害のおそれがあるとは認定できないと判断していました。

これまでに日本にどのくらいの「LGBT難民」がいたのか、明らかではありませんが、この事例は、日本の「LGBT難民」に対する対応が国際的な基準と乖離していたことを端的にあらわす例と言えます。欧米諸国で「LGBT難民」が認定されるようになってから、日本で初めての性的マイノリティであることを理由とする難民認定が出るまでには、実に20年以上の歳月がかかりました。

2018年にようやく初めて、日本で性的マイノリティへの迫害を理由とする難民認定が出されました。この事例について、法務省が公開した認定の「判断のポイント」 *15では、本国での同性愛行為に対する禁固刑規定があげられており、また申請者の性的指向は変更することが困難な特性で「特定の社会的集団の構成員であること」を理由に迫害を受けるおそれがあるとしています。

この初めての認定事例に先立つ2014年には、政府が設置した難民認定制度に関する専門部会の提言*16の中で、欧米諸国が国際情勢の変化を前提に様々な迫害に対応してきたことを、日本でも反映させる必要があるという指摘がありました。性的マイノリティへの迫害のほか、女性器切除(FGM)やジェンダーに基づく迫害などに関しても、難民申請理由の多様化を反映し、積極的に検討されるべきとされていました。

その後も、日本で性的マイノリティへの迫害を理由とした認定事例は法務省により複数報告されています。2020年には、同性愛を理由に親族から迫害を受けるおそれがあり、本国政府による保護も期待できる状況ではないとして難民認定された例や、申請者が性的指向の「矯正」を目的に行われる性的暴行の被害にあったことを認め、本国政府による保護も期待できないとして難民認定された例が公表されています*17

日本に逃れた「LGBT難民」が、安心して新たな生活を築くために

国連で難民条約が採択されてから、今年、2021年で70年となりました。70年を経て、条約に規定された迫害理由の解釈は広がり、採択時には想定されていなかった迫害に関しても庇護の対象となる中で、性的マイノリティへの迫害から逃れる人々が難民として認定されるようになっています。

しかし、そもそも難民条約の解釈が狭く厳しいと指摘されている日本では、「LGBT難民」もまた、長年条約上の難民に該当しないとされてきました。難民として認定された事例の数もまだ少なく、今後も適切に保護されるか注視が必要です。また、日本が国際的な潮流にあわせて「LGBT難民」を認定するようになった意義が、より広く認識されることも重要です。

同時に、日本に逃れた「LGBT難民」が安心して新たな生活を築いていくためには、社会において性的マイノリティの人々の権利が保障される必要があることも忘れてはなりません。性的マイノリティについて、日本では行政や自治体レベルの取り組みは徐々に進んできていますが、性的指向や性自認に関する差別を禁止する法律は制定されておらず、先に引用したILGAの調査では、「制限付き・不均一な法的保護がなされている」国に分類されています。

世界で性的マイノリティへの深刻な迫害が続くなか、難民として逃れてくる方々を適切に保護し、その方々が社会の中で尊厳を持ち、安心して暮らしていけるよう、社会のあり方が変わっていく必要があります。

 

協力:

難民研究フォーラム
多角的な視点から日本国内外の難民の現状や難民政策に関する研究を行い、その成果を幅広く共有及び活用することで、難民及び庇護希望者に寄与することを目的として活動。
 
一般社団法人 fair(フェア)
「どんな性のあり方でも、フェアに生きられる社会」の実現を目指し、政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報発信を行う。

  1. ニューズウィーク日本版,イランで同性愛の男性を親族が惨殺[]
  2. 性のあり方は、法律上の性別、性自認(自分の性別の認識)、性的指向(恋愛・性愛の対象)、性表現(自分の性の表現)などのグラデーションにより構成されていると考えられています。[]
  3. 「性的指向に関する世界の法制度」(2020年12月) ILGA(the International Lesbian, Gay, Bisexual, Trans and Intersex Association)作成[]
  4. 本記事では、「性的マイノリティであることを理由とした迫害を受け、または迫害を受けるおそれから国外に避難し、他国で庇護を求めた人」を便宜的に「LGBT難民」と表記します。[]
  5. 朝日新聞デジタル, 同性愛理由に母国で迫害の恐れ 政府が難民認定[]
  6. 死刑が規定されているのは、イエメン、イラン、サウジアラビア、ナイジェリア、ブルネイ、モーリタニアの6か国。またアフガニスタン、アラブ首長国連邦、カタール、ソマリア、パキスタンでも死刑に処される可能性が法律上は残されています。ただし、法律上処罰の対象としていても、複数の証言が求められるなど、実際の適用や執行に関して一概には言えない点に注意が必要です。ILGA World, “State Sponsored Homophobia report – Global Legislation Overview update” December 2020[]
  7. The Jerusalem Post, “Iran publicly hangs man on homosexuality charges”[]
  8. 控訴審では全員の有罪が維持されましたが刑期は減刑され、7名は執行猶予付きの判決となりました。Human Rights Watch, “Mauritania: Prison Terms for Men Celebrating Birthday”[]
  9. Aljazeera, “Egyptian LGBT activist dies by suicide in Canada”[]
  10. 「LGBT難民」がこれまでにどのくらい認定されているか、各国の統計やデータは公表されていません。[]
  11. 1989年にはデンマークが世界で初めて同性カップルのシビルユニオン(登録パートナーシップ制度)を導入し、1993年にノルウェー、1995年にスウェーデン、1998年にオランダなどが続き、ヨーロッパを中心に権利保障が進みました。1999年にはフランスがPACS(民事連帯契約)を導入し、2001年にはオランダが世界ではじめて同性婚を法制化しています。[]
  12. 2002年「国際的保護に関するガイドライン:1951年の難民の地位に関する条約第1条A(2)および/または1967年の難民の地位に関する議定書の文脈における『特定の社会的集団の構成員であること』」、2007年「ジョグジャカルタ原則(性的指向と性自認に関わる国際人権法の適用に関する原則)」、2008年「性的指向および性自認に関わる難民申請についてのガイダンス・ノート」、2012年「国際的保護に関するガイドライン第9号:難民の地位に関する1951年条約第1(A)2および/または1967年議定書の文脈における、性的指向および/または性自認を理由とする難民申請」など[]
  13. UNHCRの指針は法的拘束力がないにもかかわらず、権威ある文書として各国の難民認定手続で尊重されています。全国難民弁護団連絡会議監修・渡邉彰悟編集代表・杉本大輔編集代表『難民勝訴判決20選―行政判断と司法判断の比較分析』(信山社、2015年)p.35[]
  14. 裁判所「平成16年2月25日判決言渡 平成12年(行ウ)第178号 退去強制令書発付処分取消請求事件」[]
  15. 平成31年3月27日法務省入国管理局発表資料 「難民と認定した事例等について」【事例8】[]
  16. 平成26年12月第6次出入国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会における「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」[]
  17. 令和3年3月31日出入国在留管理庁発表資料 「難民と認定した事例等について」【事例5】【事例8】[]