活動レポート

「寄付」について考える:企業対談


    2010年から支援をいただいている、写真スタジオを経営するアップルツリーファクトリー。寄付に対して強い理念と思いを持って取り組んでいるユニークな会社です。今回は、「寄付」をテーマに社会貢献担当のスタッフ蒔田清子さんに話を伺いました。

    株式会社アップルツリーファクトリーとは

    2006年設立。関東中心に19店舗の写真スタジオ「ライフスタジオ」を運営する。ライバルは東京ディズニーランドというユニークな写真館。なによりもお客様との関係を大事に考え、記念写真ではなく、お客様とスタッフが”一緒に楽しむ””人生の写真館”になっていくことを目指す。数カ月先まで予約が満席で、リピーター率7割という大人気の写真スタジオ。
    蒔田清子さん:アップルツリーファクトリー職員。設立当時からの職員。寄付など社会貢献活動を担当。3児の母。
    田中志穂:難民支援協会広報部スタッフ。2010年入職。難民の認知啓発とファンドレイジングを担当。

    田中:難民支援協会へ寄付するに至ったきっかけは何ですか?

    蒔田:まず初めは、アップルツリーファクトリーを設立した社長の意向で、会社としてではなく社員個人が給料の中から一部寄付をする、という方針を打ち出しました。社会の中で生きているのだから一人ひとりが社会へ還元すること、寄付することを当たり前の行動として身に着けてほしいとの理由からでした。

    ですので、会社を始めた当初から寄付先を探すようにと言われていたんです。社会貢献担当として自ら手を上げ、私が寄付先を探すことになり、とにかく沢山の寄付先をネットで検索したり、実際に会いに足を運んだりしました。大きいところから小さいところまでいろいろですね。寄付の振込先はここだから、と軽くあしらわれてしまうようなところもあり、なかなか自分たちの思いを汲んでくださるところに巡り合えず、苦労しました。そのような中で、ネットで難民支援協会のホームページを見つけました。日本に逃れてきた難民の方が真冬の中、ホームレスになっているという状況をそこで初めて知りました。「難民」という言葉は知っていても、実際に日本に、そして私たちのすぐ近くに生活をしている。難民が日本にいることも知らなければ、国の認定を受けられず、ホームレス状態になっていることも全く知りませんでしたので、衝撃的でした。難民の問題は世界の遠くの問題だと思っていました。

    少し話はずれますが、私たちの社内教育では、「知る」がキーワードなんです。私たちはあまりにも世界の情勢を知らない。「知る」こととはどういうことかを知らない。そういうことを問題意識として持っていたので、「知る」と「寄付する」ことの両方考えたときに、寄付をするのは今まで知ることのなかったこのようなところだと、直観でピンときました。難民支援協会にメールを送ったら、すぐに返事をもらい、説明に来ていただきました。その後、私が社長初め社内で熱弁を振るって説得し、寄付先にすることにすぐ同意が得られました。

    田中:企業にとって寄付先を選ぶのは難しいという話はよく聞きます。何を支援したいか、支援を通じて社員に何を経験してもらい、何を得てもらいたいかなど考えや思いがないと、探すのは難しい。そこから一緒に考える場合もありますが、皆さんはすでにこういうことがしたいという強い意思がありました。ですから、ご連絡をいただいた際に、その期待に応えられるかどうかなど、話をする中で事前に確認し、双方にとってミスマッチにならないようにすることができたように思います。

    難民支援へのご寄付をいただくようになって8年になります。社員の入れ替わりがある中で、当初の理念を共有しつづけることは簡単ではないですが、継続的にひとつの課題に関わり続けられている理由はありますか?

    蒔田:実は、1回の寄付で終ったところもあるんです。それは、双方の期待が合わないミスマッチだったんだと思います。この8年で当社の職員数も大きく増え、2010年の5人から今は30人ぐらいになりました。社員が増えるにつれ、やはり職員から寄付の賛同を得るのは容易ではありませんでした。「なんでしないといけないのか」という声もありました。形式的に寄付はできても、心から難民支援のことを知ろうとしているかというと、全員がそういうわけではありません。

    ですから、自主勉強会を定期的に開催するなど、社員教育の一環で個人と社会との関わりを意識する機会を設けてきました。少し哲学的なことや世界情勢など、様々なことを「知る」ことを大切にしています。難民支援協会の方に来ていただき、難民に関するミニセミナーや難民の方との撮影会などもやりました。「知る」ことがポイントで、知って、考えるということと、寄付という行為、実際に触れ合うということが重なって、今に至っている。あらゆる方向からの少しずつの積み重ねが、支援が継続できている理由かもしれません。今では、みんな当たり前のこととして寄付をしています。社長が仕向けたのかもしれませんが……(笑)。

    実は、今では当社の採用条件の一つに給料の中から一部寄付することを入れていますので、その趣旨に賛同する人が入社してくださっています。

    田中:え、入社条件に寄付することが入っているのですか?

    蒔田:そうです。もちろん、しっかり趣旨の説明もしますよ(笑)。 海外では子どもの時から自分のおこづかいを一部寄付するってありますが、日本だと赤い羽根募金ぐらいですよね。よくわからないけど10円。今、子どもが小学生なので「今日はさ、10円持ってかないといけないんだ。もらうんだよ、羽を」と言われ、「そこなのかな」と思いつつ、10円を渡しています。子どものころから寄付について考えることがほとんどないじゃないですか。そうなると、大人になってから、自分の通帳に入ったものを出すということは難しいのかなと思います。

    田中:皆さんにとって「寄付」とはどういう意味がありますか?

    蒔田:寄付は社会とつながる手段だと思っています。社会課題解決のためということに加え、寄付した人それぞれの人生に何かを持ち帰ってもらえるようなことができれば対等な関係性が築けるように思います。私たちは寄付だけでなく、難民の方々や養護施設の子どもたちの写真を撮らせていただくこともしてきました。寄付を通じて、人に喜んでもらうこと、自分たちの得意とする写真で喜んでもらえることが何よりです。

    田中:NGOは、自分たちだけでは活動ができません。様々な方々に寄付だけではなく、たとえば書く、撮るなどの技術や知識、人脈など、自分の得意とすることを貢献していただいて成り立っています。自分をどう社会に活かすかという観点でも寄付活動されているのはとてもありがたいです。

    今後は、どんな企業を目指していきたいですか?

    蒔田:会社とお客様という関係性を超えて、人と人が出会った時の関係性をもっと変えていきたいと思っています。その関係性の構築に難民の方々への寄付活動が一つの役割を担っています。もともと、社長が写真としての事業を始めたのも、人との関係性を築きたい、と思ったからなんです。写真が、人とのつながりを築くのに非常に良い手段なのではと考えました。人に深く入りたい。人の存在の美しさを表現したい。そのためのツールとして写真がいいと。

    営利は第二第三。人をどう見るか。「お客様」以上に「人」として向き合うことを大切にしています。そのことがかえってリピーターの方を増やす秘策となっているかもしれません。お客様としてはそんな風に自分と向き合ってくれる機会はほとんどないでしょうから、一度来ていただきそんな体験をすると、また来たい、もう一度あの人たちに会いたいって思っていただける。だからリピートしていただけているのかなと、分析しています。アップルツリーファクトリーで働くことを通じて、お客様との損得の関係自体を根底から変えていきたいですね。そのために、社内教育や寄付活動は大きな意味があります。

    田中:難民支援も「関係性を変えていく」というのはキーワードです。難民申請に関する情報もなく、来日直後から医(衣)食住さえままならない状況にいる難民を支援するという意味では、「支援する側」「される側」という関係になります。一方、難民を受け入れた先に難民とともにどういう社会を作っていきたいのかというのをヴィジョンとして持つことも大切です。

    JARは昨年、ミッションを変え、「難民が安心して暮らせるように支える」だけでなく、「ともに生きられる社会の実現」に取り組むという言葉を加えました。つまり、難民も私たちも一人ひとり違った存在が社会に受け入れられ、対等な関係を築いていく、そんな風に人との関係性を変えていく、ということを意識した言葉です。そういう意味で目指すところは、皆さんと同じだなと感じました。

    蒔田:そうですね。実は、これまで寄付について外にはあまり明かしてきませんでした。会社ではなく、個人がやっているという思いが強かったので。ただ、今年で10周年。お客様は10万組。10回以上のリピーターは300人になります。10年目にして、今回公表しようということになったのは、外に伝えていくことが少しでも社会的にいいことであれば、そして私たちにはすでに10万人の味方がいるって思えたからです。

    田中:NGOからすると、ぜひ周りに伝えていただきたいと思っています。いろんな社会問題があって、それらに優先順位はありません。信頼できる誰かがやっているからとか何か身近なきっかけがあって興味を持つ人がほとんどだと思います。だから、どんどん伝えてほしいです。今回の対談を通じて、改めて、皆さんの思いを深く理解できた気がします。ありがとうございました。

    蒔田:そうですね。少しおこがましいですが、私たちと関わることで、子どもたちが社会のことを知る機会になったり、社会に対する扉を開くきっかけになればいいなぁと思います。お客様にも伝えていきたいと思います。こちらこそ、ありがとうございました。

    以上