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1,300人のボランティアとつくる「難民を受け入れられる社会」 -難民支援団体(オーストラリア)研修報告

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    外務省主催NGO・海外スタディプログラムへの参加を通じて、約3週間、オーストラリアの難民支援団体「Asylum Seeker Resource Centre(ASRC)」で研修する機会を得た。難民受け入れに消極的な日本の状況を長年変えられていない現状を受け、他国の難民支援団体の広報・アドボカシー戦略から学ぶことを目的とした。オーストラリアは、積極的に難民を受け入れてきた時代もあるが、近年は消極的な政権が続き、世論も二分している。そうした状況におけるNGOのアプローチがJARの学びになると考えた。
    ASRCは、JAR と同様に難民申請者に向けた個別支援、政策提言、広報活動を包括的に行う、オーストラリア最大規模の難民支援団体である。JARと活動領域、収入源(寄付が中心)、設立20年未満の若い組織であることなど共通点は多いが、約7倍の予算を持ち、急成長を続けている。また、フェイスブックのいいね数30万やツイッターのフォロワー数3万7千は、同国の他団体と比較しても10倍以上と圧倒的に多いため(JARのフェイスブックいいね数1万2千、ツイッターフォロワー数5千)、訪問前は、インターネットの活用が成長の秘訣だろうと考えていた。実際に訪問してみて、直接のつながりこそが最大の強みであることが分かった。職員が100人(JARは約25人)いることにも驚かされるが、想像をはるかに超えていたのは、ボランティアの数だ。ASRCで週1日以上活動するボランティアは、なんと1,300人にのぼる。オーストラリアにたどり着いた難民申請者にとって「Home of Hope(希望の家)」をつくるというASRCのビジョンのもとに、日々数百人が集まり、難民たちと巨大なコミュニティを作り上げていた。裏方の仕事を担うボランティアだけでなく、ソーシャルワーカーや弁護士などの資格を持ち、難民の相談業務を担うボランティアも多数いた。また、日替わりで10人のボランティアが毎日250人分のランチを作り、難民も職員もボランティアも皆が同じ食事を囲む(記事冒頭の写真がカフェテリア)。「政府の方針がどうであれ、よりよい社会は私たちが難民とともに作る」という意思を所々に感じるエネルギッシュな空間だった。

    ▲毎日250人分作られるランチはビュッフェ形式

    認知を広げていく上でインターネットの活用は重要だが、本研修では、直接のつながりを通じて活動に共感する人たちを募っていくことの大切さを目の当たりにした。排外的な風潮が強まるなかで、「難民を受け入れられる社会」を成長させていくには、多少のことでは揺るがない信頼関係の構築が必要だ。ASRCの最大の強みは、多くの職員とボランティアが、日頃から難民たちとともに顔を合わせてコミュニティを作り上げていることだと感じた。今後、オーストラリアの難民に対する風当たりがさらに強くなるような出来事、例えば、ひとりの難民が事件を起こすことがあっても、ASRCでたくさんの難民たちと顔を合わせ、知り合い、ともに活動してきた数千人は、「難民=怖い」という一般化はしないだろうし、周囲にもその無意味さを説得力のある実体験とともに語ることができる。難民と直接関わった経験のある人を増やしていくことは、市民社会を強化していく上で必須である。

    ▲ボランティアのみで対応する相談受付

    JARは、事務所があまりに小さいという物理的な制約や、慢性的な人手不足でボランティアをコーディネートするための職員を配置できていないことから、ボランティアが活動できる領域は限られ、わずかな人にしか関わってもらえずにいる。しかし、各部署にボランティアコーディネーターを配置し、組織的にボランティアを動員しているASRCの事例からは、専任職員の配置によって、一人の職員ができる以上の支援を提供でき、何より、多くの人とともに活動することが、難民を受け入れられる社会の実現に向けた打開策になると感じた。広い事務所への移転や専任職員の配置など、体制づくりは簡単ではないが、研修での学びをJARの事業に活かしたい。

    おまけ:ASRCのフードバンク

    オーストラリアの難民申請者の多くは就労資格がないため収入がない。ASRCのフードバンクでは、収入のない難民申請者も尊厳をもって「買い物」ができるよう、スーパーと同様のカートを押しながら、好きな物を選べるようになっている。ポイント制の棚から、ポイント内で自由に組み合わせられる。ボランティアが必ず一人付き添って買い物をし、栄養バランスなどのアドバイスも行う。フードバンク運営ボランティアは、毎日10人~15人ほどいるが、在庫の補充や小分けなどで忙しく、時間を持て余すことはない。スパイスが小分けにされて10種類近く用意されていることに驚くと、「中東から来た人にとっては、スパイスがなければフード・セキュリティは守られないでしょ」と言われてハッとした。あげられるものを渡すのではなく、必要なものを購入してでも用意するこのフードバンクは、毎週620人の難民申請者の食を支えている。