解説記事・声明等

第5次出入国管理基本計画発表によせて

    PDFファイル

    9月15日、法務大臣により第5次出入国管理基本計画(以下、本計画)が策定されました。また法務省入国管理局からは「難民認定制度の運用の見直しの概要について」(以下、運用見直し概要)と題した文書が発表されました。今後の難民政策に大きく関わる文書であり、課題も多いと考え難民支援協会(JAR)から以下の通りコメントを発表いたします。
    まず、全体として難民申請者の管理や抑制につながる施策が多く、極端に少ない難民認定の根幹的な原因解消に至らないと考えます。また、第二次世界大戦以降最悪と言われるシリア難民の流出に対して、周辺国はすでに400万人、欧州が数十万人単位で受入れに向き合っている中、日本の後ろ向きな姿勢に対して海外の政府やメディア等(※1)からも疑問が提起されています。
    本計画自体は、全体的には外国人受け入れに対して前向きな側面と、管理を強化する側面をあわせたものです。難民受け入れについても同様で、難民保護を若干拡大する前向きな部分と管理強化の側面の両方の視点が書かれていますが、管理の視点が強く、難民をどう保護し受け入れるのかという根本的な部分に向き合っているとは言えません。
    本計画、運用見直し概要で述べられている難民についての各論点について簡単に述べます。
    まず、管理強化の側面については濫用者対策として主に1.迅速審査(※2) 、2.申請中の就労制限(※3) 、3.再申請の制限と送還停止効果の見直し(※4)が提示されています。迅速審査や再申請の制限等は新たに手続き等を設けるものであれば、導入にあたっては本計画に書かれているように「申請者が十分に主張を行う機会を確保しつつ」、最低限の手続基準を尊重しながら行われるであろうため、より審査・決定に時間がかかり、本来制度趣旨として目指したい「真の難民の迅速かつ確実な庇護の推進」に資するかどうか疑問を持っています。そもそも、認定を受けた難民の平均待機期間は6年弱(69か月)であり、これらの難民がどのように迅速に保護されるのかという記述は本計画内には見当たりません。
    また、申請中の就労制限については本年3月末現在、政府の支援金(保護費)受給者は160人、平均受給期間14か月であり、受給できない大多数の難民申請者は平均3年間・認定された者においては6年弱を働きながら待っている状況です。就労許可を制限することは長期間待機する難民申請者の生存に深刻な影響を及ぼす可能性があり懸念します。本計画において非正規滞在も含めた難民申請者全体の最低限の生活保障について触れられていないことは大変遺憾です。加えて難民申請中に出身国への強制送還を可能とすることは、難民の送還を禁止している難民条約等国際規範に抵触する可能性があります(※5)。
    次に、「新しい形態の迫害」については、詳細は明らかでないですが従来の厳しすぎる難民認定が少しでも改善されるのであれば期待したいと思います。また、「新しい形態の迫害」が加わることにより、難民認定基準が変わるということであれば当然、再申請も正当な理由ある申請ということで扱われていくことも期待します。しかし、「新しい迫害」は従来国際水準で伝統的に認められてきた難民の定義である可能性も高く(※6)、日本の難民認定基準がいかに厳しかったかということの証左ともとらえています。
    さらに退避機会についても、従来の人道配慮の中で在留許可がなされることと実務上は変わらないと理解できます。懸念されるのは新しいカテゴリーを設けることにより、人道配慮よりさらに低い(限られた権利しか得られない)状況が作り出されることです。人道配慮による在留許可を受けた人たちは条約難民・第三国定住家族と違って家族呼び寄せが原則困難であること、政府による定住支援がないこと等のために困難な立場にありますが、さらに在留資格が不安定で、かつ公的支援が薄い状況を作り出す可能性があることを懸念しています。
    運用見直し概要には、外部の専門家が適正性を確認できる仕組みや、難民審査参与員が難民認定・不認定の判断要素に関して提言できることなど新しい取り組みが設けられていますが、その実施についてはまだ明確になっていません。とりわけ、外部の専門家をどのように選出するのか、79人の難民審査参与員からの意見をどのように取りまとめていくのか、実施に透明性を持たせることが必要と考えます。また、とりわけ基準作りの関与等については(研修等にとどまらず)、難民についての専門的国連機関である国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の関与も不可欠と考えます。
    世界的には第二次世界大戦以降最悪の難民発生状況と言われる中で、日本においてもG7の一翼を担う大国として国際協調の中で難民保護をとらえ、今後の立案・運用が透明性を持ち、かつ難民保護に資するように実施されていくことを強く期待しています。また、「真の難民の迅速かつ確実な庇護の推進」が確保されるのか、結果を見守っていきたいと思います。
    ※1 例えば、9月9日付ガーディアン記事や、9月9日付トムソンロイターズ記事などで 欧州諸国が難民の大量流入に対応する中、日本はさらに難民に対して厳しい政策を導入しようとしているという観点から紹介されています。加えて、9月12日付の毎日新聞「にゅーす360度:紙面審査委員会から 欧州難民危機と日本」では欧州において外交官らとの会合で参加者が日本の難民受入数に「一様に疑問を示した」と紹介しています。
    ※2 明らかに難民とみなされない場合に、迅速に審査を行うこと。(詳細には、本計画内、7 難民の適正かつ迅速な庇護の推進(2)今後の方針 ア 適正かつ迅速な難民認定のための取り組み等 ①難民条約上の迫害自由に明らかに該当しない事情等を申し立てる申請等については、本格的な調査に入る前の段階で振り分け、申請者が十分に主張を行う機会を確保しつつ、迅速な処理を行っていく。)
    ※3 難民申請者の就労について、一定の条件を設けて可否を判断すること。(詳細には、本計画内、7(2)ア ②正規在留者に対する就労許可について、(中略)一定の条件を設けて個別にその拒否を判断する仕組みの検討を進める。)
    ※4 難民不認定の人が再度申請することに制限を設けること、また難民申請中であっても送還を可能にすることを検討すること(詳細には、本計画内、7(2)ア ③濫用的再申請の抑制策として再申請事由に制限を設けることや、(中略)送還停止効果に一定の例外を設けることについて、(中略)法制度・運用両面からさらに検討を進めていく。)
    ※5 具体的には、難民を彼らの生命や自由が脅威にさらされるおそれのある国へ強制的に追放したり、帰還させてはいけないという難民条約第33条、「ノン・ルフルマンの原則」に抵触する可能性があります。
    ※6 例えば、1979年に国連難民高等弁務官事務所保護局により作成された「難民認定基準ハンドブック」には「迫害は(中略)当事国の法令により確立された基準を尊重しない一部の人々によって引きおこされることもある」と述べており、国家以外の主体による迫害を認めています。また、事例とされるアフリカでの女性の虐待についてはUNHCRが作成した1991年に策定された「難民女性の保護に関するガイドライン」、1993年10月8日に採択された「UNHCR執行委員会結論第73号」においては、難民条約規定上の理由による性的暴力そのものを迫害として認定するように、要請しています。