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無国籍で12か国を彷徨い、未来を求めたルーベンさんの記録が書籍になりました

アルメニア人の父とロシア人の母のもと、ジョージアで生まれたルーベンさん。生まれ育った地で迫害され、ソ連崩壊により国籍を失い、12か国を転々とした末に日本へたどり着きました。しかし日本でも長く在留資格が認められず、強制送還の不安と背中合わせの日々が続きました。
今年4月に発売された書籍『ルーベンです、私はどこで生きればよいのでしょうか?』は、そんなルーベンさんが「難民認定」を得るまでの長い歩みを、担当弁護士・小田川綾音さんの視点で描いた記録です。

旧ソ連出身の無国籍者ルーベンさんを難民と認めず、強制送還を命じた国の処分の是非が争われた訴訟で、東京高裁は2020年1月29日、処分を違法と認めて取り消す判決を下しました。裁判長は「地球上で行き場を失うのは明らかだ」として送還を命じた国の判断を批判した画期的な判決でした。
JARは2010年の来日時から、ルーベンさんの支援に長く関わってきました。書籍の中では「支援団体からの現実的な支援と協力がなければ、裁判を提起することは事実上難しく、難民を支援するためには、当事者の現実を踏まえて、車の両輪のように法律上の手続と生活支援との両方が必要なのだ(p158)」と、JARや支援団体の役割にも言及されています。
判決の前日、「悪い結果が出ることしか考えられない、敗訴だったらその後はどうしようか、その場で捕まってしまうのだろうか…」とスタッフに不安を吐露していたルーベンさん。判決当日は歓喜の涙があふれる中、喜びをかみしめる姿がありました。
多くの難民が、今もなお終わりの見えない不安定な状況に置かれています。ルーベンさんの経験を通じて、日本における難民の現実と、私たちの支援の意義について知っていただくきっかけになれば幸いです。
著者・小田川綾音さんからのメッセージ
『ルーベンです、私はどこで生きればよいのでしょうか?』の出版に寄せて
この本のタイトルは、2018年10月24日、難民不認定処分の取消し等を求める裁判の控訴審で、ルーベンさんが法廷で意見陳述をした際の切実な訴えです。
旧ソ連の現ジョージアの地域で生まれ育ったアルメニア系のルーベンさんは、旧ソ連崩壊に伴う1990年代初頭の政治的混乱の中で民族的迫害を受け、やむを得ず故郷を後にしました。無国籍状態となり、約17年間、安住の地を求めて各国を転々としましたが、欧州諸国のいずれでも、難民としての保護を得ることはできませんでした。
2010年に日本にたどり着き、難民としての保護を求めてから約10年後の2020年1月29日、東京高等裁判所の逆転勝訴判決を得て、ついに日本で難民認定を勝ち取りました。
この本は、ルーベンさんが生命の危険から逃れ、各国の制度の狭間で人権保障を受けられない中でも、尊厳を保ちながら力強く生き抜いてこられた貴重な記録です。同時に、難民支援協会をはじめ、困難な状況にある方々を支援する多くの人々の存在と取り組みを事実に基づいて記録したものです。
難民や無国籍者が直面するのは、法的保護の欠如、就労・医療制限、差別や偏見といった目に見えない壁です。支援の現場では、法的代理、住居確保、医療支援、精神的ケア、通訳、就労支援など多岐にわたるサポートが連携して行われています。
2025年5月31日、本書の出版とルーベンさんの難民認定を祝う会が開催されました。当日、体調不良にもかかわらず「会いたい人がいる」という思いで出席されたルーベンさんとその場に集った支援者たちは、久しぶりの再会や交流の深い喜びに溢れていました。そこには「難民と支援者」という枠組みを超えた、かけがえのない人と人とのつながりが体現されていたように思います。
本書を通じて、日本における難民支援が多様な人々や組織の網の目のようなつながりとして機能し、 「人の命と人権を支えるLifeネット」となっている実態を、 一人でも多くの方に知っていただければ幸いです。
今も世界各地で安住の地を求めて歩き続ける人々への理解と共感の輪を広げる一助となることを心から願っています。
この夏の支援(期間:2025年6月~8月)
今年の夏も、日々難民の方々が来訪され、支援を続けています。月に約250人ほどの方がJARに支援を求めて来られます。来日間もないため、ホステルやネットカフェなどを転々とする方や、ホームレスを強いられる方もいます。できるだけ早期に公的支援「保護費」を得て最低限の生活が保障されることが必要ですが、引き続き受給までには数か月ほどかかり、JARなど支援団体からの住居や食料などの支えにより、生き延びています。
来日して数年しても、厳しすぎる難民認定制度により認定を得られなかったり、先が見えない不安の中で結果を待ち続けていたりする方が少なくありません。中には難民申請中でも就労先を得て当面の安定した生活を実現できている人もいますが、母国での経験や来日後の過酷な状況で、心身に不調をきたす方もいます。言語の障壁などから受診を受け付けてもらえないことも少なくありませんが、以前より関係があるいくつかの医療機関に加えて、診療を受けていただける病院が少しづつ増えています。保険適用されない方が多く医療機関としても対応は容易ではありませんが、病院のソーシャルワーカーや医師と連携し、この期間には80件以上の受診を実現しました。
8月末以降も、JARに来訪される方は減ることがありません。住居や食料、医療、仕事などそれぞれの相談を抱えてこられています。1日も早く安心して暮らせるよう、部門を超え、またボランティアの方々のお力も借りて対応を続けています。
【この夏の支援実績】
- 事務所や収容所等での相談件数 1,156件
- リモートでの相談件数 1,335件 (電話やメール、オンラインビデオ通話による相談・支援)
- シェルター・宿泊費提供人数 72人 (期間前からのシェルター入居を含む)
- 物資の宅配数 62件
【いただいたご支援】
- ご寄付の総額: 14,054,147円(855件)
*夏の寄付の案内開始(2025年6月16日)から2025年8月31日までにいただいた一般寄付。
いただいたご寄付をもとに、難民の方々への直接支援のほか、政策提言や広報活動にも取り組んでいます。
「知らない」から生まれる不安を「知る」ことで芽生える関心へ
日本では、難民と直接出会う機会が非常に限られており、多くの人にとって難民について知るきっかけは、メディアやSNSなどが中心です。しかし、近年、難民全体や特定のグループに対する誤情報やヘイト情報が拡散され、難民受け入れに対する誤解や不安が広がっています。
こうした状況を受けてJARは、ウェブ記事『難民にまつわるよくある質問』を大幅にリニューアルしました。記事では、「事実(ファクト)」、「支援活動を通じて見える現実」、「支援団体であるJARの視点」という3つの視点から、難民に対する誤解を解き、理解を深める内容となっています。
また、難民移民を排除する視点は、難民保護制度や入国管理政策にも反映され、社会の分断を推し進めるような動きにもつながっています。そうした動きを投票によって変えていこうと、2025年7月の参議院議員選挙では、「#選挙は人権で考える」をキーワードに発信しました。アムネスティ・インターナショナル日本と協力し、候補者へのアンケートを実施。難民保護に対する考え方を政党別に整理しました。各政党のマニフェストにおける「難民保護」「外国人の権利・共生」「在留管理・送還」に関する政策の有無もまとめました。
日本で暮らしている難民の方々は、帰化をしない限り選挙権を行使することはできません。日常でも、ヘイトが進む中では当事者はますます声を上げにくくなっています。社会の大多数の「知らない」を「知る」に変え、無関心という重荷がもたらす偏見や差別を、少しずつ手放していけるよう、今後も取り組んでいきます。
『難民にまつわるよくある質問』から一部ご紹介します。
難民はなぜ日本に来るの?
難民が来日する理由はさまざまですが、日本をあえて選ぶというよりは、逃げる先をすぐに探さねばならない状況で、最初に日本のビザ(入国のための査証)が取得できたからという理由が多いです。(続く)
難民が増えると治安が悪化するのでは?
治安の悪化についての感じ方は人それぞれですが、「難民が増えると犯罪が増える」という統計的な根拠はありません。むしろ、外国人の受け入れや定住が進む中、外国人の犯罪率は低下傾向にあります。統計によれば、最近の日本人と外国人の犯罪率はほぼ同じです。(続く)
難民がヘイトの対象になってしまうのはなぜ?
難民に限らず、外国人、性的少数者などマイノリティ性のある人たちは、ヘイトや排除の対象にされやすい傾向にあります。攻撃を受けても当事者として声を上げにくい状況に置かれています。(続く)
難民にまつわるよくある質問
難民の送還につながる入管庁「ゼロプラン」に対して意見を発表
入管庁は5月末、「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」と題する計画を発表しました。JARはほかの2団体との意見書を通じて、強く抗議し再考を求めました。日本弁護士連合会も反対の声明を発表しています。
このゼロプランでは、非正規滞在状態となっている難民申請者らの国費による強制送還数を3年後に倍増するなどとされています。一部の申請者に対して面接を実施せずに難民不認定とする方針も示されており、多くの重大な問題を含んでいます。
なぜ、難民が非正規滞在となるのでしょうか。政府は、適切な理由なく難民申請を繰り返した結果、非正規滞在者が生まれていると捉えているようですが、日本の難民認定制度にさまざまな課題があり、本来であれば難民として認定されるべき人が認定されず、非正規滞在となっています。複数回申請の結果、難民認定を得た人は少なくありません。
政府は「ルールを守らない外国人に係る報道がなされるなど国民の間で不安が高まっている」と、計画の背景を説明しました。異なる背景を持つ人を受け入れる過程では、摩擦や衝突も起きうることですが、地域では、共生に向けて試行錯誤を積み重ねている実例があります。そうした努力に目を向けることなく「外国人」と「国民」の対立の構図を描き、社会に深刻な対立や分断があるかのように強調することに意味はありません。
7月の参院選では、管理や排除の視点を強めた外国人政策が大きく取り上げられました。国際法上の原則の違反につながる難民申請者の送還が、今後促進されないよう働きかけるとともに、最優先されるべき難民保護制度の改善に向けて取り組みます。
いとうせいこう「難民移民モノローグ」連載開始!-雑誌『文藝』
「日本に生きる難民移民、そして支援者。よるべない地で生きぬく人々の足跡がいま編みなおされる」と銘打った、難民へのインタビュー連載「難民移民モノローグ」がはじまりました。難民としての体験だけでなく、話し手の息づかいや人生を感じられる独白形式のロングインタビューです。
初回秋季号はクルドの方とJARスタッフのモノローグが掲載されました。年4回の掲載で、冬季号は10月に発売予定です。執筆者・いとうせいこうさんはXで「それぞれ一人の人間の輪郭が伝われば本望。記号として利用されているばかりなので。」とコメントされています。
難民の方をご紹介するなど、JARは取材にも協力しています。今後の連載もご期待ください!
【詳細はこちら】
寄付支援は、社会や制度の「未来」に関わるひとつの方法
-ウェブ連載「わたしと難民支援」
難民スペシャルサポーターは、継続的なご寄付に加え、その存在がスタッフの精神的な支えとなる心強い存在です。ウェブ連載「わたしと難民支援」では現在8名のサポーターの方の、支援のきっかけや思いを紹介しています。今回は、国際交流団体職員の和島朋広さんのご寄稿を一部ご紹介します。
私は、生まれ故郷の街で多文化共生のまちづくりに携わっておりJAR職員が講師陣のひとりとして招聘されていたある研修に参加し、非常に強い衝撃を覚えました。様々な背景や事情から「難民」にならざるを得なかった人々が日本で厳しい状況に置かれていることが、当時の私には全くといってよいほど見えていなかったことを初めて認識できたからでしょう。これをきっかけに、自身が勤める組織が主催する市民ボランティア向け研修会の講師としてJAR職員をお招きしたところ、参加者の感想から、社会のあり方を見つめ直し「できることから始めよう」という意欲をうかがうことができました。こうした経緯から、自ら細くても長く支援したいと思い、寄付を始めるに至りました。(中略)
毎月の継続的な寄付を通じて、難民支援に限らず日常のこまごまとした出来事をはじめ、社会・制度のあり方や課題に対して、ひとりの「傍観者」として見送るのではなく何らかの関わりを持つことの意義や大切さを感じるようになりました。
JARの活動は、多岐にわたる分野の専門家・企業・団体等とのスムーズな連携や、明瞭で透明性の高い報告が常に求められ、専門知識を備え使命感にあふれる職員によって支えられていると思います。JAR職員の方々や難民支援に関わるすべての人々の想いが叶う日が遠からず訪れることを期待しています。
【詳細はこちら▼】

JARニュースレター “for Refugees” バックナンバー
これまでのニュースレターは、こちらに掲載しています。ぜひご覧ください。
ぜひ、あなたのできる形で難民支援にご参加ください。
今すぐできる寄付や、さまざま支援の方法があります。こちらをご覧ください。