活動レポート

感染対策から取り残されないために―ワクチン接種の取り組み

ワクチン接種の問診票

写真:ワクチン接種の予診票と、多言語の翻訳。提出は日本語の予診票で行う必要がある。

この夏、7月末から新型コロナの感染が急速に拡大しました。感染予防策のワクチン接種が全国で徐々に進められてきていますが、日本に暮らす難民の方々にとっては接種を受ける上で多くの課題があります。JARでは難民の方々もワクチン接種が受けられるよう、支援を進めています。

新型コロナのワクチン接種は在留資格や住民登録に関わらず受けることができ、難民の方々も対象となります。しかし、難民申請中で在留資格を持たない方や住民登録がない方には、多くの場合自治体からの接種券は届かず、自ら申請して受け取る必要があります。また、住民登録がある方には接種券が届くものの、自治体によっては日本語での案内しかなかったり、問い合わせに日本語以外では対応してもらえないなど、予約のための手続きに困難を覚える方も少なくありません。こうした状況で、難民の方が必要な情報を入手し、希望する場合は接種を受けられるよう、JARではウェブサイトやメールなどでワクチン接種について多言語での情報提供を行ったり、接種券の申請方法や予診票の書き方など個別の相談に応じてきました。

しかし、そうした支援があってもなお接種を受けづらい状況があることから、民間のクリニックとの連携により、難民の方へのクリニックでのワクチン接種に取り組みました。あらかじめJARから難民の方にクリニックでの接種の希望を募り、一般の方の接種や受診とは重ならない指定日に予約を行いました。接種当日は難民の方がクリニックを訪れ、JARのスタッフが接種券の提出や予診票の記入などを手伝い、医師が一人ひとりに健康状態を確認しながら接種を行いました。

今回ワクチン接種に協力のお申し出をいただいたのは、これまでもJARの活動を支援してくださってきた、伊藤明子医師のクリニックです。公衆衛生が専門でもある伊藤医師は、2015年からJARが支援する難民の方々に健康相談を行っています。接種だけでなく、伊藤医師がワクチンの説明や難民の方からの質問に答え、接種後の副反応などの相談にも対応することで、難民の方々にとって安心できる環境で進めることができました。

伊藤明子医師

写真:赤坂ファミリークリニック・伊藤明子医師。同時通訳としても活躍されています。

接種券が届かない難民の方の中には、健康保険にも入れず、コロナ対策の10万円の特別定額給付金なども支給対象外だったため、「ワクチン接種についても接種できると思っていなかった」という方が少なからずいました。自治体に接種券を申請する手続きも、難民の方にとっては負担感が大きいものです。JARではこうした方々に対し、接種券の申請方法を説明し、申請書の記入サンプルを作成して説明するなど、自分自身で手続きができるように伴走する支援を行ってきました。また、接種券が届いても、予診票は日本語の用紙に記入する必要があるため、多言語に翻訳されたものを用意し(写真)、説明を受けながら自分で記入できるようにしました。そうした支援によって、自分で手続きを進め接種を受ける方もいますが、それでもなお不安を感じる方にとって、コミュニケーションがとりやすいJARのスタッフや伊藤医師によるクリニックで接種を受けられる意義がありました。

「不安だったが接種券も受け取れたし、接種できて安心した」と、クリニックでほっとした表情で言った方がいました。ワクチン接種に対しては考え方の違いもあることを念頭に、強制にならないよう配慮しながら希望を把握して進め、合計24名の方が2回ずつ接種を受けることができました。

日頃は難民の方への健康相談を行う伊藤医師は、健康相談の際に「体調に関する心配事を話してもらいながら、それ以外のことについても話してもらえるよう心がけている」と言います。相談したいのは体調のことであったとしても、その背景には別の問題があることが少なくありません。また、難民の方の食事はタンパク質の不足など栄養バランスが悪いことも多く、体調やメンタルに食事が影響している可能性も伊藤医師は指摘します。

新型コロナウイルスは指定感染症のため、健康保険や住民登録に関わらず、検査や治療は公費で受けられ、ワクチン接種についても国が自治体に呼びかけています。それにも関わらず、難民の方にとっては接種に多くの課題があり、今回のような取り組みが自治体や民間のクリニックなどでより広く行われることが必要です。さらに難民の方には、日常の健康を保持するための医療の課題もあります。JARでは現状の制度で可能な支援を続けていきながらも、難民の方が医療にアクセスできるよう、制度の改善にも取り組んでいきます。