
更新しました(2025/7/30)
「難民ってどんな人?」「なぜ日本に来るの?」「治安との関係が気になる…」など、難民に関してよく聞かれる質問。ここでは、難民に関する事実(ファクト)や支援活動を通じて見える現実、難民支援協会の視点を、まとめました。
終わらない紛争や変化がめまぐるしい社会状況に対し、難民に対する共感や何とかしたいという思いもあれば、漠然とした不安や疑問もあるかもしれません。日本に逃れてきた難民のよりよい受け入れを改めて考えるために、ご覧ください。
目次 [閉じる]
- 1. 難民ってどんな人のこと?
- 2. 「難民」と「移民」って何が違うの?
- 3. 難民はなぜ日本に来るの?
- 4. 難民は合法的に入国できない事情があるの?
- 5. 「不法滞在」の難民申請者がいるって聞いたけど…
- 6. 「本当」の難民かどうか、どう見極めるの?
- 7. 難民が増えると治安が悪化するのでは?
- 8. 税金が難民支援に使われて、納税者の負担が増えるのでは?
- 9. 難民申請者は公的支援で生活しているの?仕事をしていいの?
- 10. 働くことが目的で難民申請する人もいるの?
- 11. 日本には、これ以上受け入れる余裕がないのでは?
- 12. 難民がヘイトの対象になってしまうのはなぜ?
- 13. 難民受け入れをどう改善していけばいいの?
- 14. 難民受け入れの価値ってなに?
1. 難民ってどんな人のこと?
難民とは、紛争や人権侵害などから自分の命を守るためにやむを得ず出身国を追われ、逃げざるを得ない人たちのことです。
迫害の理由や出身国はさまざまです。民主化活動への参加、宗教の改宗、性的マイノリティであることなど、一人ひとり異なる背景があります。難民となる前は、食べたり寝たり、働いたりする当たり前の日常がありました。
経済的に困っていることは難民の要件ではありません。迫害により住まいや仕事を奪われ困窮する人も多い一方、社会的影響力を持つ資産家や著名人、文化人が迫害を受け難民になる場合もあります。突然逃れざるを得ない状況に追い込まれた人もいれば、生まれた時から何年も難民キャンプで暮らす人もいます。
2. 「難民」と「移民」って何が違うの?
さまざまな理由で、本来の居住地を離れて移動している、または移動した人々のことを「移民」と言いますが、「難民」はそうした移民のうち、命の危険などから出国を強いられ移動した人々です。
しかし、両者の境界は流動的であいまいです。移民の中にも、性的搾取などの人権侵害を受け、自分の意に反して移動を強いられる人もいます。あえて難民申請をせず、留学やビジネスの資格で滞在する人もいます。
また移動を強いられるとはいえ難民の主体性がまったくないわけではありません。少ない選択肢の中でも、よりよい人生を生きていくため、子どもに教育を受けさせるためにと、 希望が叶う可能性が高い国や地域を目指す人もいます。
3. 難民はなぜ日本に来るの?
難民が来日する理由はさまざまですが、日本をあえて選ぶというよりは、逃げる先をすぐに探さねばならない状況で、最初に日本のビザ(入国のための査証)が取得できたからという理由が多いです。
「難民ビザ」というものはなく、他国へ逃れる際には観光やビジネスなどのビザを取得し、たどり着いた先で難民申請を行うのが一般的です。
すでに日本で暮らしている親戚や知り合いを頼って日本を選ぶ人もいますが、積極的に日本を目指す人は限られます。多くの場合、日本について事前にしっかり調べる余裕はなく、来日後に日本の難民認定の厳しさを知って愕然としたり、言葉が全く通じないことに戸惑ったりすることが少なくありません。しかし、だからといって別の国に行きたいと思っても、現実的にはその選択肢はほとんどありません。
なお、難民と聞くと難民キャンプが思い浮かぶかもしれませんが、実際には飛行機で遠くの国へ逃れる人もいます。逃れる手段や経済力の有無は、難民かどうかとは関係ありません。渡航費に困らない人もいれば、なんとか資金をかき集めたという人もいます。難民とは、経済的に困窮している人ではなく、迫害のおそれがある人です。
4. 難民は合法的に入国できない事情があるの?
日本に来る難民の多くは、飛行機を利用し、ビザやパスポートを持って、正規に入国します。しかし、なかには難民であるがゆえに、非正規で入国せざるを得ない人もいます。
出身国の政府を批判する言動によってパスポートの発給を拒否されるなど、通常の渡航手続きを行うことができない事情があるためです。難民条約では「不法滞在」や「偽装書類による入国」を、直面する危険からの緊急的な避難であるがゆえの行動とし、「罰してはならない」と明記しています(難民条約第31条)。
5. 「不法滞在」の難民申請者がいるって聞いたけど…
出身国に帰れば危険がある人は、不認定とされて非正規滞在になっても、日本に留まらざるを得ません。
ほとんどの難民申請者は正規の在留資格を持っていますが、在留資格がない状態の人もいます。危険が迫っており正規のパスポートやビザなしに逃れて来ざるを得ない場合です。そうした人が日本に到着して空港などで難民申請を申し出ても、在留が許可されるケースは少なく、非正規滞在として扱われてしまいます。ほかにも、情報を知らず難民申請が遅れてしまった、初回には在留資格があったが2回目以降の難民申請時に在留資格を失ったなど、さまざまな理由があります。
非正規の状態で長い難民申請期間を過ごすのは非常に多くの困難があります。複数回の難民申請をする人も、日本の難民認定基準の厳しさゆえに認定されず、なおかつ迫害の危険のある出身国に帰ることもできないため、非正規滞在になってもやむを得ず再申請を行っているのが現状です。
6. 「本当」の難民かどうか、どう見極めるの?
出身国の状況や難民申請者の主張をもとに、難民条約の定義にあてはまるかどうかを確認し、判断します。
迫害のおそれの物的な証拠を示すことは難しく、安全に出国するために、あえて証拠書類を持参しなかったという人も少なくありません。そのため、難民認定では、申請者本人が語る内容の一貫性や具体性が重要な判断材料となります。
ただし、人の記憶は本来あいまいであるうえ、過去の体験によるトラウマの影響で記憶が断片的になることや、時系列が前後することもあります。難民かどうかを判断する作業は、単なる事実確認にとどまらず、心理的・社会的背景への理解を含む、高い専門性と人権意識が求められる仕事です。
なお、国連は、証拠を提示することが難しい難民の状況を考慮し、「疑わしきは申請者の利益に(灰色の利益)」すること、難民を迫害の危険がある国へ送還してはならないこと(ノン・ルフールマン原則)を、難民認定における重要な考え方として示しています。
7. 難民が増えると治安が悪化するのでは?
治安の悪化についての感じ方は人それぞれですが、「難民が増えると犯罪が増える」という統計的な根拠はありません。
むしろ、外国人の受け入れや定住が進む中、外国人の犯罪率は低下傾向にあります。統計によれば、最近の日本人と外国人の犯罪率はほぼ同じです※。
一方で、根拠が示されていないにも関わらず、治安と外国人や難民を結びつけるSNSや報道の情報が目立ちます。特に、政治や政策面での誤った情報や印象付けは、適切な現状認識に基づいて社会課題に対応することを損います。難民に限らず、社会から孤立・周縁化させず、社会参画を促す仕組みが、社会不安や治安の改善につながります。
私たちが得る情報には、発信者の意図が含まれています。難民や外国人といった属性と犯罪を安易に結びつけることには、差別や偏見が含まれていないか注意し、慎重に情報を扱うことが大切です。
※犯罪統計に基づいた研究では、「外国人と日本人の犯罪率には実質的な差はない。また外国人の増加する中、刑法犯検挙人員はむしろ減少しているのであり、外国人の増加による治安の悪化といった現象は事実として存在しない。」と指摘している。
8. 税金が難民支援に使われて、納税者の負担が増えるのでは?
難民も、逃れた先の新たな土地で働き、納税し、社会をともに支える一員となります。
支援活動を通じて、「助けてもらった社会に恩返ししたい」「自立して役に立ちたい」といった声を多く聞きます。ただ、最初の一歩には後押しが必要です。日本語支援や就労支援などを通して、日本の習慣や文化について知る機会があれば、地域社会でスムーズに暮らしていくことにつながり、地域社会との接点が生まれ、孤立を防ぐことにもなります。保護すべき人は迅速に保護し、安心して就労ができる環境を整えることで、自立への道が開けます。
現状では、難民認定までに時間がかかることでスキルや意欲の低下、健康への影響が生じるケースが少なくありません。支援に長く携わってきた視点からは、これらの課題が克服できれば、難民本人にとっても社会にとっても中長期的利益につながると考えます。
一方で、難民は「支援を受け続ける」、「かわいそう」な存在ではありません。拷問の経験や親しい人との別れなどトラウマケアが必要な場合もありますが、難民となる経験からたくましく生きる力を身に着け、逃れた先の社会で活躍する人もいます。
9. 難民申請者は公的支援で生活しているの?仕事をしていいの?
来日直後は公的支援を受ける人もいますが、就労許可がおりた人は多くの場合、働いて自立しています。
難民申請時に在留資格がある場合、一定の条件のもと、概ね8か月後に就労許可を得ることができます。難民認定の結果が出るまで平均して3年かかる中、就労許可を得られれば仕事を探して生活の自立を目指すことになります。
一方、来日直後などで就労許可も住まいもない場合、ホームレスに陥るほど難民申請者の困窮は深刻です。公的支援「保護費」の制度はありますが、支給開始までに数か月から半年ほどを要し、支給される人は年間の難民申請者の1割未満にとどまっています。さらに、一度難民不認定となると保護費は打ち切られ、就労許可も失います。働くこともできず、生活手段を絶たれた申請者に対しては、NPOなどが支援を行っていますが、その支援も十分とは言えないのが現状です。
10. 働くことが目的で難民申請する人もいるの?
まったく難民の背景がない人が就労目的で難民申請をすることは、本来の制度の趣旨ではありませんが、現状の制度では、就労目的で難民申請を行う人が多いとは考えにくいです。
たとえ就労を望むとしても、Q9のとおり就労許可を得るまでには時間がかかり、再申請者には原則として就労許可がおりないためです。一方で、「難民であること」と「逃れた先で働き、自立したいと願うこと」は決して矛盾するものではありません。仕事を通じて人や地域とのかかわりを持ったり、日本での生活習慣を知ることにもつながります。
また、就労のみを目的とした難民申請者に対しては、適切な手続きにのっとり難民不認定とする一方で、難民認定制度の枠内でのみ対処するのではなく、労働力を必要とする日本社会の現状に対応した移民政策の整備も進める必要があります。
11. 日本には、これ以上受け入れる余裕がないのでは?
実は、世界の難民受け入れの約7割は低中所得国が担っており、先進国での受け入れは限られています。
ほかの先進国と比べても、日本の難民受け入れ数はごくわずかです。一国では解決が難しく、国際的な責任の分担が必要な難民保護に対して、先進国が取り組むべきことはたくさんあります。
また、言葉や文化の違いなどがあり、受け入れ体制や意識の準備ができていないという意見を聞くことがありますが、日本は、すでに1万人以上のインドシナ難民や2,000人以上のウクライナ難民を受け入れてきました。政府だけでなく、数多くの自治体や地域コミュニティ、企業などが、支援に対して手を挙げ、動いた経験があります。在住外国人が増えている日本社会で、試行錯誤しながらさまざまな取り組みをしている地域の実績もあります。それらの経験の蓄積を土台として生かし、受け入れ制度を作ることが、大切だと考えます。
12. 難民がヘイトの対象になってしまうのはなぜ?
難民に限らず、外国人、性的少数者などマイノリティ性のある人たちは、ヘイトや排除の対象にされやすい傾向にあります。攻撃を受けても当事者として声を上げにくい状況に置かれています。
社会や将来に対する漠然とした不安が広がると、その矛先は、制度的・社会的に弱い立場に置かれる人たちへと向けられがちです。難民の場合、帰れる国がなく、難民申請中は長期的な滞在も保証されていないため、公に意見を述べたり、権利を主張することは簡単ではありません。発言が難民審査に影響することへのリスクを感じるなど、あえて目立たないようにしている人もいます。
また、多くの人は難民と接する機会が少ないため、ステレオタイプや漠然としたイメージに左右されやすい面もあります。こうした状況がヘイトを容認する空気を生み、ヘイトがさらに加速する事態も見られます。
難民であることや出身国などに基づく攻撃や差別は、単なる否定的な意見ではなく、ヘイトスピーチです。事実に基づかない発言も許されません。川崎市は、ヘイトスピーチを罰則付きで禁止する条例を全国で初めて制定しました。ヘイトスピーチが刑法上の犯罪として罰せられる諸外国のような対応が日本でも必要です。
13. 難民受け入れをどう改善していけばいいの?
難民支援協会は、難民「保護」ではなく「管理」の視点が強い現在の日本の法制度の改善が必要だと考えています。難民保護を目的とした法律の整備や、専門性・独立性を備えた機関の設置が必要です。これらを通じて、難民認定されるべき人が適切に認定される仕組みが作られること、難民申請者の最低限の生活を保障すること、難民認定を受けた後に日本社会へスムーズに定住できるようになることを目指しています。
法制度の整備と同時に、異なる背景を持つ人々を受け入れる過程で生じる摩擦や衝突に対して、現状に合った解決策を対話を通じて見つけていくことも重要です。多様な人々がともに暮らす地域での実践など、すでに、ヒントはたくさんあります。
難民受け入れは人の命を救うという人道的な取り組みです。しかし、世界では難民を生み出す紛争や人権侵害が終わる兆しは見えません。他国による受け入れの限界がある中で、人の命を救うという理想を手放さず、理想と現実の差を埋める努力をし続けることが、一つの理想です。弱い立場に置かれやすい難民への対応は、受け入れ社会の人権との向き合い方を示す試金石だと考えます。
14. 難民受け入れの価値ってなに?
難民保護とは、大切な家族や友人、故郷を失った難民の権利と尊厳を回復し、第二の人生をはじめる場を提供することです。
難民受け入れには賛否ありますが、日本はすでに難民条約のもと、難民を受け入れています。本来難民を迎え入れることは「当たり前」であってほしいことです。しかし、難民を取り巻く状況は複雑で、受け入れ方法に単純な「正解」はありません。
今求められているのは、「賛成か反対か」という二極化した議論ではなく、すでに難民を受け入れている日本の現状を踏まえ、「どうすればより良い受け入れができるか」という建設的な視点で考えることではないでしょうか。
(2022年1月5日掲載、2025年7月30日最終更新)
▼さらに詳しくは、「日本にいる難民のQ&A(PDFファイル 27MB)」をご覧ください。
※ 2019年更新
