活動レポート

JARの就労支援-経済的自立を目指して


    「ノーニホンゴ、ノーライフ。もっと日本社会に溶け込みたい」
    来日間もない、ある難民申請者の切実な声です。難民申請をしてから半年経つと就労許可が与えられます*。難民申請中の公的支援が十分にない中で、難民は来日間もない時期から、生きるために働く必要に迫られます。同時に、多くの人は、支援に頼ることなく一日でも早い自立を望んでいます。JARは、無料職業紹介事業の許可を受け、就労資格のある難民と企業をつなぎ、難民が安心・安全に働き続けられるよう支援しています。2014年以降、試行錯誤して作りあげてきた体制が軌道に乗り、2016年度は、20社41人の就職が決まりました。製造業、飲食業、清掃サービス業の他に、最近では、医療・介護業界などの新しい業種にも広がっています。
    *難民申請時に在留資格がある場合に限る。

    就労支援のプロセス


    安定した雇用確保を実現するためには、難民と企業、双方の歩み寄りを促す仕組みを作ることが重要です。JARは、難民雇用に取り組んできた株式会社栄鋳造所から企業の視点で助言をいただきながら、協働で仕組み作りを行ってきました。
    まずは、難民との面談を通じて職種、業種などの希望を確認し、日本語習得を含む3ヶ月の「就労準備日本語プログラム」、難民向けに企業がブースを出す「ジョブフェア」、そこで双方の関心があれば、会社見学・OJT(企業内研修)に進み、企業と難民双方の合意を確認しマッチングを確定、就職後はフォローアップを行います。

    面談

    就労を希望する難民とJARがまずは面談を行います。就労可能な時期や、本人のこれまでの職務経験、スキルを確認します。アルバイトもしくは正社員、どちらの働き方をしたいかなど、本人の希望を踏まえ、今後の方向性をともに考えます。

    就労準備日本語プログラム

    働くために必要な日本語の習得やビジネスマナーなどを実践的に学びます。1クラスに10人程度の難民が集い、月曜から金曜まで毎日3時間みっちり勉強します。簡単な挨拶から入り、企業で使う会話や日本社会でのマナー、商習慣を学びます。例えば、挨拶をする、ホウレンソウ(報連相)を守る、5分前行動をする、など。このような日本の習慣を事前に理解し、習得することが、円滑な就職活動につながります。

    ジョブフェア

    難民と企業が顔を合わせ、お互いを知る機会がジョブフェアです。開催は月1回、3社から5社の企業、15人程の難民が参加します。ジョブフェアの前半は、企業が仕事内容や職場環境、求める人材を紹介し、難民からの質疑応答に応じます。後半は、企業と難民が一対一の面談を行います。難民は、事前に日本語で準備した履歴書をもとに、日本語や通訳を介して英語やフランス語などの言語で自己PRを行います。

    会社見学・OJT(企業内研修)

    ジョブフェア後に双方の関心があれば、会社見学とOJTに進みます。難民は、実際の職場で職業体験をし、企業側は受入れ体制を確認します。これは難民と企業の期待値のずれをすり合わせる重要なプロセスです。その後、難民と企業双方の意思を確認し、初めてマッチングが確定します。難民の就労支援は、就職が決まった時点で終了するわけではありません。働きだしてから生じる様々なトラブルに対して、企業と難民が話し合いを通じて一つひとつ解消していけるよう、JARは必要に応じてサポートしていきます。

    難民と企業のギャップを埋める

    JARが就労支援をするうえで心掛けていることは、マッチングの前に難民と企業、双方がしっかりとコミュニケーションを取り、期待値を合わせていくことです。多くの難民は、日本の企業で働くイメージがなかなか持てません。想像と現実が大きく異なることもあります。会社見学やOJTは、具体的な仕事内容や職場環境を自分の目で確かめ、そこで生まれる認識の乖離を軌道修正する貴重な機会です。両者のもつ期待値のずれを、現場を見たり、両者でコミュニケーションを取ることで解消していきます。
    ギャップを埋める過程では、企業が難民をどう受け入れ、人材として活用していくか、というヴィジョンを提示することも求められます。受け入れヴィジョンがあることで、受け入れ後に起こるさまざまな問題を乗り越えていけることにつながると言えるでしょう。
    これまで難民を受け入れた企業では、さまざまな苦労があります。介護施設に就職したある難民は、日本語が十分に話せないことで、他のスタッフとのトラブルが生じました。この施設を持つ会社は、言葉が話せない入居者がいる環境だからこそ、言葉に頼らないコミュニケーションをスタッフが身に着ける必要があると、この課題に向き合うことにしました。現場で何が足りないかを把握し、それを補えるようスタッフの教育に力を入れました。一つずつ課題に向き合い、難民も既存のスタッフもともに働きやすい環境づくりをしています。難民雇用の中で起こった課題が、企業の成長に繋がった一つの例です。

    今後、目指していくこと

    難民にとって就職先が見つかることは自立への大きな一歩ではありますが、決してめでたい門出とは言い切れません。難民申請をしてから平均3年かかる待期期間があり、99%以上が不認定の難民申請手続きの結果を待つという、先の見えない不安と向き合わなければなりません。その不安の中で過ごす難民に寄り添い、少しでも多くの選択肢の中から自らが希望する仕事を選び、自立出来るよう一人ひとり支援をしています。今後は、就労先の業種や業界を増やし、難民が安心して働けるよう、企業や社会へ受入れの理解を求めていきます。