解説記事・声明等

2011年6月15日-庇護希望者、難民等の収容代替措置に関する国際会議(5/11・12)に参加しました

    2011年5月11日から12日の2日間、スイスのジュネーブにおいて、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)および国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の共催による「庇護希望者、難民、移民および無国籍者の収容代替措置に関する世界円卓会議」が開催されました。人権および人間の尊厳に深刻な影響をもたらす入管収容の問題は各国に共通する重要な課題ですが、近年、多くの国で不要な収容を回避するための「収容代替措置(Alternatives to Detention)」が導入されており、人権や福祉の観点からだけでなく、入管関連手続の効率化やコスト削減の観点からもその効果が注目されています。会議には、13ヶ国から政府関係者を含む38名が参加し、難民支援協会からも日本の制度の現状と課題について報告を行いました。

    収容問題について国際的に取り組む「国際拘禁連盟(International Detention Coalition/IDC)」は、「収容代替措置」を、「庇護希望者、難民および移民が在留資格認定手続の間、または退去強制等までの間、移動の自由を持ってコミュニティ内に居住することを認めるあらゆる法令、政策または実行」(※1) と定義しています。世界各国では様々なタイプの収容代替プログラムが実施されていますが、例えば、オーストラリアや香港などは、不正規滞在の状態にある庇護希望者などを対象に、政府とNGOが連携し、コミュニティ内で手続・生活両面を含む包括的な支援を行うことで、逃亡の可能性などリスクを軽減しつつ、収容をせずに人道的に個別ケースの解決を図る「ケースマネジメント」型のプログラムを導入しています。

    収容代替措置の導入・拡大を検討するにあたり、各国の政府に共通して見られる主な懸念事項として挙げられるのが、「逃亡のおそれ」です。しかし、IDCによる調査では、収容代替プログラムにおける逃亡率は非常に低いことが分かっています。例えば、庇護申請者など5000人以上が対象となっている香港の収容代替プログラムでは受益者の97%が当局との連絡を保って生活しており、オーストラリアのパイロット事業では在留手続の最終結果を受けた受益者の66%が何らかの在留資格を取得し、20%は自主帰国しており、逃亡率は7%に留まっています(※2) 。こうした成功の鍵となっているのが、(1)対象者との信頼関係の構築と(2)時宜を得た在留手続の解決です。対象者が全ての手続を通じて十分な情報と専門的な支援を提供されることによって、手続と結果の公平性を信頼できるようになり、その結果、対象者の手続への自主的な協力と合理的な判断が確保され、低い逃亡率と個別ケースの最終的解決に繋がることが各国の経験を通じて明らかになっています。また、多くの人件費や管理費を要する収容のコストと比べて、収容代替措置のコストが低いことも各国において収容代替措置の導入が進んでいる理由の一つです。

    日本にも「仮滞在」と「仮放免」という二つの制度が存在しますが、その適用は限定的であり、様々な課題が存在します。とりわけ、空港で保護を求める難民認定申請者など、日本において十分な社会的・経済的基盤を持たない人への適用は非常に限られています 。また、収容代替制度が法的支援、生活支援、帰国支援といった支援の側面と連動していないために、放免後、困窮状態に陥るケースも少なくない他、在留手続における解決が得られずに収容が長期間に及んだり、一度放免されても再度収容されたりという事例が後を絶ちません。

    一方で、日本の入管収容については、2010年以降、いくつかの進展も見られました。2010年4月には、難民および庇護希望者の収容について地域レベルで協議する初めての国際会議である「難民申請者および難民の拘禁の代替案に関する国際会議(Sub-Regional Roundtable on Alternatives to Detention of Asylum-seekers and Refugees)」(以下、「第1回ATD会議」)が韓国で開催され、日本からも政府、弁護士、NGO関係者らが参加し、意見交換を行いました。さらに、同年7月には、入管収容施設等の運営の改善向上等を目的とした入国者収容所等視察委員会が設置され、9月には、入管収容に関する定期協議と被収容者に対する法律相談等の実施に関する合意が法務省と日弁連の間でなされています。

    今後も発展が期待されますが、日本における入管収容行政の更なる改善と持続可能な制度の構築のためには、様々な事例の検討と収容/収容代替措置に関する広い議論が必要です。今回の会議は、多様な収容代替プログラムについて学び、日本における入管収容の問題と収容代替措置について考える素晴らしい機会となりました。今後は、シンポジウムなどを通じて、収容代替措置に関する国際的な動向や日本での可能性について広く状況を共有すると同時に、政府やNGOなど様々なアクターと連携して制度のあり方について検討し、より良い制度構築に向けた具体的なプランの作りに取り組みたいと考えています。

    ※1 R. Sampson, G. Michell and L. Bowring, There Are Alternatives: A Handbook for Preventing Unnecessary Immigration Detention; IDC, 2011 
    ※2 Sampson, op.cit (注2), p.40, International Detention Coalition, Case Management as an Alternative to Immigration Detention: The Australian Experience, 2009, p.8. 2006年3月から2009年1月の支援対象者918名の内、在留手続の最終結果が出た560名の履行率。560名中、370名(66%)が何らかの在留資格を取得、114名(20%)が自主帰国、37名(7%)が逃亡、33名(6%)が当局による退去強制、6名(1%)が死亡。在留資格を得られなかった者の60%が自主帰国。