JARニュースレター "for Refugees" Vol.26 Mar.2023

新たに逃れてきた難民の方々が急増する中、一人ひとりへの最善の支援を

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新たに逃れてきた難民の方々が急増する中、一人ひとりへの最善の支援を

新型コロナ対策としての外国人の入国制限が昨年10 月に解除され、ほぼコロナ禍前の入国状況に戻ったことを受け、新たに来日した難民の方々からの相談が急増しています。 難民一人ひとりへの支援を担当している支援事業部の新島より、現在の支援の様子をお伝えします。

昨年10月までと比較すると、難民支援協会(JAR)に来訪する現在の相談者数は以前の2倍から3倍に増えています。1日の来訪者数が30人以上に及ぶ日もあり、相談にみえた方の受付、ランチや食料の提供、シェルターや 病院への同行などのあらゆることを部署を越えてスタッフ全員で対応しています。

現在もコロナ禍の体制を継続しているため、JAR事務所での相談時間は11時から16時までとしてはいますが、 朝9時過ぎにはすでに来訪される方もあり、遅い時間まで相談を受けたりするという毎日が続いています。5部屋ある相談室はすぐに埋まってしまい、また、待合スペースで多くの方をお待たせすることになるため、スタッフ用の会議室やボランティアスペースなども活用しながら対応しています。

さまざまな課題がありますが、喫緊の課題は住居です。現在JARが受けている相談でほぼ共通するのは「今日寝 る場所がないので助けてほしい」という相談です。ウクライナの方々には、日本に身寄りのない場合には一時滞 在施設が提供されますが、JARが支援している自力で逃れてきた難民の方々は、自分でどうにか滞在できる場所を確保しなければなりません。

JARが運営するシェルターには現在空きがないため、安価な宿泊施設を手配するなどの対応をしています。昨年末からは常時20人から30人くらいの方に宿泊施設を提供しています。他団体でシェルターを運営されている団体にも相談し、何人かの方々を受け入れてもらっています。公的支援に繋がったり他団体のシェルターに入居できたりと、安定した住居に住むことができた方もいますが、それでも毎日新たな方からの相談を受けるため、 常に宿泊施設手配に追われています。

相談者が急増する前から、支援事業部ではホームレス状態の方々への対応について話し合ってきました。「寒い冬に野宿をさせるわけにはいかない。どうにかして屋根のある場所を確保しよう」と決め、受け入れ先を探し提供していますが、宿泊施設での生活が何週間か続くと、難民の方々にもかなりの疲れが見られています。一人ひとりにとって最善の支援を提供できているのか自問し、私たちが提供しているのは、寝るだけのスペースしかないような、ゆっくりできるような場所ではないであろうことに心苦しさも覚えています。

「home」とは言えないまでも、安心してくつろいだり、食事をしたり、寝たりという当たり前のことができる場所を確保すべく、新たにシェルターとして数部屋を借り上げました。また、難民支援に特化されているわけではありませんが、ホームレス状態の方々を支援されている、LGBT、生活困窮者、外国人などへの支援団体とも連携し、 住居支援に努めています。

一方、喜ばしいこともあります。先日は、JARが来日当初より支援していた方から難民認定の報告を受けました。相談室に入るやいなや、「見せたいものがあるから目をつぶってほしい」と言われ、数十秒後に目を開けたところ、テーブルに難民認定証明書が置かれていました。本国での経験はもちろんのこと、日本に来てからもいくつもの苦難があった方だったので、心から安堵した様子で、これからの新たな人生に目を輝かせていました。

年末に初めてJARを訪れたホームレス状態だった方からは、「日本に来て心の安らぎを取り戻し始めた」という言葉がありました。私たちの支援は充分ではないはずですが、それでも心の安らぎを取り戻し始めたとは、それまでどれほど過酷な状況にいたのかを想像させます。

また別の方は、たまたま数日前が彼の誕生日だったため「お誕生日おめでとう」と伝えたところ、「誕生日を祝う言葉をくれたのはあなただけだ」と涙を流され、一人ひとりが抱える孤独や孤立を感じる場面でもありました。

依然として難民認定は厳しい状況ですが、ひとりでも多くの方からの前向きな報告を増やしていかなければいけないと改めて思っています。しかし、それは私たちJARだけでは成しえません。難民の方々にすべきこと、私たちにできること、「本当はできたらいいな」と思うことが重なる最大値を、皆さまとともに見つけていきたい と思います。(支援事業部マネージャー 新島彩子)

この冬の支援(期間:2022年12月1日~2023年2月28日)

この冬は新規に来日した方からの相談が急増しました。 所持金はわずか、宿泊先がなく、難民申請についての情報も持ち合わせていない状態の方々が連日JARの事務所を訪れました。また、長く日本に滞在している難民の方々 の困窮もますます深刻となっており、その日その日を乗り越え、命を繋ぐための支援を行ってきました。 相談を寄せる方の中には「今日寝る場所がない」という方が多く、寒い冬に路頭に迷うことのないよう宿泊先の確保に奔走し、緊急で住居支援が必要な方の宿泊先を何とか確保しました。現在も新規来日の方が多く相談を寄せており、宿泊先の確保は引き続き急務となっていま す。

温暖な地域から薄着で到着し、足元がサンダルの方、 公園で寝泊まりをして凍えたままJAR事務所に来る方も多くいらっしゃいました。コート、ニット帽、マフラー などの需要が増え一時的にJARの在庫がなくなりかけることもありましたが、多くのご支援のお陰で、寒い冬を耐えるための最低限の衣類、防寒具を提供することができました。また、大半の方々が今日明日の食べ物にも困窮しており、栄養バランスを考えながら、食料品のお渡し・配送を行い、事務所にいらした方へは温かい食事の提供も行いました。日本に逃れてきたばかりで食事もままならず「日本で初めて美味しいご飯を食べた」と一息つかれた様子の方もいました。

難民の方々の衣 (医)食住を確保しながら、それぞれの状況に応じて今後の生活についての相談に乗り、難民認定に向けた法的支援を行ってきています。新規来日の方には、逃れてきた背景などを聞き取ったうえで難民申請についての説明を行い、申請の準備を支援しています。ホームレス状態で疲れ切った様子でJARに到着したものの、在留資格の期限が数日後に差し迫っているため、すぐに難民申請書を書いてもらわなければならない、ということも多くありました。早く身体を休めていただきたいと思いながらも、難民申請書はこれからの手続きの基礎となるため、申請書の説明をしながら確実に作成できるよう支援しました。

一方で、難民の方々を取り巻く問題の根底にある制度の問題を改善するための働きかけを粘り強く続けています。2021年に廃案となった入管法改正案が、再び国会に提出されると報じられており、強く懸念しています。保護されるべき難民の方々が適切に保護されるよう、引き続き声をあげていきます。

この冬も困難な状況にある難民の方々に心をお寄せいただき、多くのご支援をいただきましたことに心より感謝いたします。皆さまのご支援のおかげで私たちの活動を継続することができています。引き続き、日本の難民支援にご関心をお寄せいただけましたら幸いです。

【この冬の支援実績】

・事務所や収容所等での相談件数 606 件 
・リモートでの相談件数 745 件 (オンラインビデオ通話、電話やメールによる相談・支援)
・シェルター・宿泊費提供件数 93 人 (期間前からのシェルター入居を含む)
・物資の宅配数 147 件 

【いただいたご支援*】

・ご寄付の総額:26,423,983 円(1,237 件) 
*冬の寄付の案内開始(2022年11月15日)から2023年2月28日まで。
なお、同期間にいただいた一部の大口寄付を除きます。

いただいたご寄付をもとに、難民の方々への直接支援のほか、 政策提言や広報活動など、当会の事業全体に取り組んでいます。

ご支援くださった皆さまからの声をご紹介します

ご寄付をくださった方々から多くのメッセージが寄せられています。そのうちいくつかをご紹介させていただきます。たくさんのご支援・応援メッセージに、心より感謝申し上げます。

迫害を逃れて来た日本でも辛い日々で、更にこの冬の寒さのために過酷な環境となっていることを考えるだけで心が痛みます。何かできることがあるのかを考えています。機会がある度に難民の皆さんの実情を周りの人たちに伝えたいと思います。おひとりでも、少しでも救済されます様にお祈りしています。

夏休み資料をいただき、それらを元に次男が難民について調べました。卒園した幼稚園でも先生方に読んでいただく機会も持てました。 知る事の大切さ、当事者意識を持つ事の大切さを多くの人に知ってもらいたいです。

日本の難民認定の厳しさは人道に反していると思います。もっと多くの人がこの問題に関心を寄せて、良い方向に変わっていくよう願っています。 今できることは寄付になりますが、何かできることはないかといつも関心を持っています。

メッセージを一つひとつ読ませていただき、JARの活動に賛同しご支援くださっていることにスタッフ一同大変励まされています。今後も、難民の方々が安心して暮らせる社会を目指した活動を引き続き応援いただけましたら幸いです。

メッセージはこちらでもご紹介しています。

JAR活動紹介インタビュー vol.3 【定住支援部: 可部州彦】

難民支援協会(JAR)が日々の活動の中 で大切にしていることとは何か、スタッフのインタビューでお伝えするシリーズ・第3回は定住支援部マネージャーの可部州彦です。日本に逃れてきた難民が直面する大きな壁の一つは就職です。JARの就労支援では、働くための日本語学習機会の提供、企業とつなぐマッチング、企業開拓を行っています。

JARの就労支援で目指していることとは

『ゴールは、当事者の方を就職させる、ではなくて日本でのこれからの生活に希望が持てる選択肢をどれだけ多く作れるか、その環境をどう整えられるか、ということです。』

難民の就労支援ならではの課題を語ったインタビューをウェブサイトに掲載しています。企業の方にもぜひ読んでいただきたい記事です。ぜひご覧ください。

記事全文はこちらからお読みいただけます。

難民の保護や処遇の悪化につながる入管法改正案、再提出の見通し

現在開会中の通常国会に、政府は入管法改正案を再提出する見通しです(2月時点)。2021年に廃案となった法案は、難民申請者の送還を一部可能にするなど難民保護の観点から問題がありました。そこから日本の難民保護の課題は変わっていません。JARは公正な保護に反する法案の再提出を強く懸念します。

一昨年の法案には、難民申請が3回目以上の人(難民申請が不認定となり、改めて申請している人)を手続きの途中で送還できるようになる変更が含まれており、再提出される法案も同様であることが報じられています。出入国在留管理庁の審査が不適切なため難民認定されず、やむを得ず複数回申請せざるを得ない人が多くいる現状でそのような法案が通れば、送還が命に関わるような危険のある人も送り返すことにつながります。難民条約では、難民を迫害の危険のある国へ送り返してはならないと定めており(ノン・ルフールマン原則)難民かどうか審査中の難民申請者も含めて、送還は禁止されています。

まずは適正な保護制度の確立が必要です。JARは3月中旬よりTwitterにてハッシュタグ「#難民の送還ではなく保護を」に皆さまの声を集めるキャンペーンを実施します。一昨年のキャンペーンでは多くの方がハッシュタグとともにつぶやいてくださったことで法案に反対する世論が可視化され、廃案への大きな後押しになったと考えています。今回も入管法改正をめぐる動きに注目いただき、お力添えをお願いいたします。

新宿で多様なルーツを持つ子どもたちを支援してきた小林普子さんの インタビュー記事 ‒ ウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』

JARが運営し、日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』。東京23区で最も外国籍住民が多い新宿区で、多様なルーツを持つ子どもたちを支援してきた「みんなのおうち」代表の小林普子さんのインタビュー記事を掲載しています。かつてこの場所に子供が通った女性にもお話を伺っています。ぜひ、ご一読ください。

難民著名人 ルカ・モドリッチ選手

W 杯でクロアチア主将を務めたモドリッチ選手は、幼少期を難民として過ごした一人です。ユーゴスラビア内戦によって故郷がセルビア軍の標的となり、祖父が殺害されたことを受け、 6歳で60km離れた街へ避難。手榴弾が飛んでくることもある中、駐車場で夢中でサッカーをしたといいます。やがて内戦は終結。モドリッチ選手は 18歳でトップチームのメンバーとして10 年間のプロ契約を結びます。プロとして初の収入で故郷に家族のための家を買い、ようやく一家の難民生活を終わらせ ることができたそうです。

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