活動レポート

≪スタッフインタビュー≫難民を伝える「広報」と、難民支援活動を支える「ファンドレイジング」/広報部コーディネーター 田中志穂

    JARに入ったきっかけは?-「移民」から「難民」に来ました。

    もともと、NPOで働きたかったわけでも、難民支援を志していたわけでもないんです。日本に暮らす「移民」に関わる仕事がしたくて探していたところ、縁があったのが日本にいる「難民」を支援する難民支援協会でした。
    とはいっても、その関心がすぐに今の仕事につながるわけではなく、大学卒業後はメーカーに就職しました。2000年卒業当時は、職業としてNGOを選択するという発想すらまだない時代でしたから、将来自分がNGOで働くことなど思ってもいませんでした。 メーカーでは、初めの3年間、花事業部で全国の農家と花苗づくりを行い、その後はお酒の販売企画に携わりました。5年半で、生産と販売の両方を経験しました。イメージのいい大企業でしたが、日々、トラブルや予定変更は当たり前で、地味に丁寧にお客様と向き合い商売をしている姿勢は、辞めてみて、それが当たり前にできることの価値を感じました。
    退職後は、大学院で移民に関する分野について勉強しました。移民への関心は、少し遡りますが、高校時代のアメリカ留学がきっかけです。オハイオ州という典型的な「アメリカの田舎町」で、アフリカ系の人が約3割、白人系の人が約7割、あと中国系移民の兄弟2人と日本からの留学生が私だけという高校で一年間を過ごしました。学校生活の中で、アメリカ社会における差別や偏見の問題を感じ、その現実に圧倒された経験が移民に関心を持つひとつのきっかけとなりました。
    大学院卒業後は先ほどお話しした通り、「移民」関連で仕事を探していたところ、JARが広報スタッフを募集しているのを知り応募しました。今振り返れば、広報活動については多少の理解はありましたが、ファンドレイジングはあまりわかってなかったですね。JARに入ってみて、寄付集めは、企業がモノを作って売ることと同じだと気づきました。つまり、「難民」を伝え、人の心を動かし、寄付をいただく。考え方ややるべきことの流れは同じです。

    JARではどんな仕事を?-難民のための広報とファンドレイジング

    難民を伝える「広報」と、難民支援活動を支える「ファンドレイジング」が仕事です。「広報」と「ファンドレイジング」において、必要なスキルや経験は必ずしも一致しませんが、寄付をいただく活動は、難民について伝え、難民に対する認識をより良くする機会でもあるという考えから、JARではあえて広報部が両方を担っています。目まぐるしく変化する国内外の難民を取り巻くトレンドとJARの支援現場を俯瞰し、いかにして人の心を動かし、共感を生み出すことができるか、その結果として、寄付という形で支援の輪に参加いただくことができるか―。そんなことを日々チームで考え、アイディアを出し、実践しています。
    今、特にチャレンジングなのは、個人の方からの寄付集めです。かけられるコストがなければ、知恵を絞る。スタッフが少なければ、プロボノやボランティア協力を得る。制約をチャンスに変え、結果を出していくプロセスは、山登りのような達成感があるかもしれません。

    難民支援の魅力とは?-内と外に広がる世界

    私はJARに入って丸6年になりますが、難民支援の仕事は、知れば知るほどわからないことだらけで、簡単な答えもありません。本来は、課題を解決し、支援を終わらせることがNGOのゴールですが、難民支援に関しては、残念ながらそれは当面現実的ではありません。だからこそ、やり続ける意義があり、抜けられない理由があるんです。
    「難民問題」と聞くと、「難民」が問題だと思うかもしれませんが、難民を生み出す社会や、難民を受け入れる/受け入れられない社会の問題です。つまり、私たちの社会にある難民や移民、さらには「マイノリティ」に対する差別や偏見。それが問題なのではと思います。難民を生み出す世界の紛争や人権侵害を知ることは、外に視点を広げていく作業ですが、それはブーメランのように自分のいる社会の問題、ひいては、自分自身が、それらをどう受け止めるのかという、自分の内なる問題につながっている。私は、そんな風に難民問題をとらえています。どんな社会課題もそうかもしれませんが、難民支援を通じて、社会で起きていることが自分とは無関係ではないことが見えてきて、いろんなことが気になり出す。それがこの仕事の魅力です。

    JARで働く魅力とは? ➖「難民」を救うこと、「社会」を変えること

    NGOで働く魅力は、社会に与える「インパクト」や起こした「変化」の大きさで語られることがありますが、JARで働く魅力はそういう言葉や考え方だけで測れるものではありません。日本国内で難民を支援する団体が非常に少ない中で、JARに課せられた責任は重大です。たとえば、やっとたどり着いた成田空港で入国が拒否され、命の危険がある母国に送り返されそうになる人や、来日後に持ち金が尽きて、ホームレスに陥り、日本で再び、命の危険に晒される人がいます。なんとか日本にたどり着いた人の命を守り、母国で失った当たり前の日常を取り戻すお手伝いをするのがJARの仕事です。それはたった一人でも価値があることですし、それができるポジションにいるのがJARで働くことの魅力ではないかと思います。
    同時に、一人ひとりの難民が置かれた状況を変えていくこと、その先に、難民が尊厳と希望を持って生きていける社会をつくることもJARが目指すことです。この点では、社会にどうインパクトを与え、変化を起こすことができるかを考えています。制度を改善することや、知らないがゆえに誤解されがちな「難民」に対する認識を変えることは、大きなチャレンジです。
    シリアの惨状や、欧州を目指す難民の群衆、テロ勃発など、ニュースを通じてネガティブな情報はたくさん耳に入ってきますから、難民受け入れの悲観的シナリオはいくらでも考えられるかもしれません。私たちは、「難民」をイメージではなく、顔が見える一人ひとりとして知っています。だからこそ、日本での難民受け入れのあり方について、ポジティブだけど現実的で希望あるシナリオを提示することができますし、その実現に向けた取り組みは、JARにいるからこそ挑戦出来ることだと思います。
    組織風土については、手を挙げた人にチャンスを与える、というのが好きです。もちろん、新しい取り組みを後押ししてくれる反面、やるからには主体的にコミットし、結果を出すことが求められます。自分の裁量でやれることの幅は広く、いろんな面で自由だと感じますが、その分、担う責任も大きいです。

    広報部では現在、スタッフ募集をしていますが、どんな人にきてほしいですか?➖「難民」知らない方、大歓迎です

    企業からNGOへ転職は、ハードルがあるかもしれません。NGOのことをよく知らないとか、社会課題にそんなに詳しくないとか、当事者経験がないとか。逆に、知らなくていいんです。原体験みたいなものはあったらいいかもしれないですが、なくても問題ない。難民支援に関わる中で、難民と出会い、課題についてとことん突き詰めて考える時間をどれだけ丁寧に積み重ねていけるかの方が大切です。ですから、難民に関心がなかった人、支援業界に縁がなかった人、でも、なにか別の分野で自信を持ってやったことがあって、その経験や力を難民のための広報・ファンドレイジングに生かしてみたいという方がいれば、ぜひ応募していただきたいです。 お待ちしています。
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    プロフィール:田中志穂/広報部コーディネーター

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    一般企業(食品メーカー)勤務を経て、大学院にて社会学修士修了(移民研究に従事)。大学院在籍中にフィリピン移住女性を支援するNGO活動に関わり、2010年8月より現職。認知啓発・ファンドレイジングを担当。難民の故郷の家庭料理を集めたレシピ本「海を渡った故郷の味」の出版や、写真家との共同企画として「日本に暮らす難民28人のポートレート写真展」などを手掛ける。