JARレポート

イギリスの収容所に学ぶ
「正門から出る以外はできるだけ自由を保障」

難民条約を批准している日本以外の難民受け入れ国にも、難民申請者を含む外国人を収容する施設はあります。各国の課題はさまざまですが、イギリスへ視察に赴いた弁護士と研究者から報告されたハモンズワース入国者収容施設の様子は、日本の収容問題を改善する上で示唆に富むものでした。施設の写真は「法と実務 Vol.12(日弁連法務研究財団編集 2016)」よりご覧いただけます。該当ページも記載いたしますので、ご参照ください。

「できる限りの移動と交流の自由を確保できる、リラックスしたもので、安全・安泰な環境が保たれ、被収容者が最も生産的な方法で時間を過ごすことができるように促進するものであり、特に被収容者の品位と個々の表現の自由を尊重するものでなくてはならない」

イギリスの収容施設規則(The Detention Center Rules)では、このように定められています。収容が人々の自由と時間を奪うものであることを重く受け止め、有意義な時間を送れるように工夫することが施設側に求められているのです。明文化されているだけでなく、ハモンズワース入国者収容施設の様子からも、そうした目的に近づける努力が伺えます。

収容されている時間を、目的を持って過ごせるように

例えば、収容施設のなかには、ギターやドラムセットなどが備えられた音楽室や美術室があります(p.389-391)。図書室には一般の書籍に加えて、必要な手続きを進める上で参考になる専門書なども取り揃えられています。ランニングマシンなどの運動器具が用意されたジムもあり、体を動かすことができます。
また、英語やコンピューターを学ぶ講座が無料で提供されているほか、キッチンやクリーニングなどについての資格も取ることができます(p. 392)。所長は視察団に対して、以下のように語ったそうです。

「被収容者は1日13時間の自由時間を使っている。この時間を、何か目的をもって過ごさなければならない。応用可能な技術を与えられれば、被収容者が将来英国社会に出た後も、また送還された先でも、人生に役に立つ。その先の社会に役立つ人材になってほしい」

対照的に、日本の収容施設は1日40分、施設内の運動場に出られる以外は屋内で過ごすことになっており、被収容者は何もすることがないといいます。ただ待つことしかできないことへの苛立ちや、人としての尊厳を保てない処遇に精神的な苦痛を感じるという声がJARにも頻繁に寄せられています。また、ロイター社が、治療を求めたものの病院に搬送されず死亡したニクラスさんの例を通じて、日本の収容所の実態を報じたように、医療へのアクセスも深刻な問題です。一方、ハモンズワース入国者収容施設は充実した医療設備を兼ね備え、医師が土日も含めて毎日、診察室を訪れています。

日本の収容施設では、刑務所のようにアクリル板越しでしか話せず、許される時間は弁護士などの例外を除いて30分です。一方、ハモンズワース入国者収容施設では開かれたスペースで(p.397)、365日・12時~21時に時間制限なく面会できます。

以上はほんの数例に過ぎず、宗教に関するサービスの提供や携帯電話・インターネット利用の許可など、できる限りの自由が与えられるように、あらゆる面で配慮されています。

ハモンズワース入国者収容施設の様子から、イギリスと日本における被収容者の人権に対する意識の差は明らかですが、これは入国管理局だけの責任ではなく、そのような収容のあり方を容認してきた社会の問題でもあるのではないでしょうか。収容所内では、被収容者による処遇改善を求めたハンガーストライキが幾度も行われてきました。しかし、その声は十分に届かず、また、深刻に受け止められていません。改善にあたって、多くの人々がこの実態に関心と問題意識を持つことが不可欠だと考えています。

(参考)法と実務 Vol.12(日弁連法務研究財団編集 2016)

本記事は2016年5月2日に修正しました。