難民の取材に関するお願い

認定NPO法人 難民支援協会

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平素より、日本の難民問題に関する取材、報道を行ってくださり、誠にありがとうございます。日本に逃れてきた難民は様々な困難に直面していますが、その状況や背景について、まだ十分な認知がされていないと認識しています。 そのようななかで難民についての報道がなされることは、一人でも多くの難民が保護され、適切な政策・制度・社会が実現するために、不可欠であると考えています。

しかし同時に、報道において難民個人が取り上げられることは、当該個人やそのほかの難民にとって重大な不利益につながるおそれもあることから、慎重に対応いただくことが必要です。

以下では、難民を報道するにあたって留意いただきたいことを、その背景とともにまとめております。当会が取材にご協力する際には、以下の遵守をお願いしておりますが、当会以外での取材においてもご配慮いただければ、大変ありがたく存じます。

お願い

1. 難民の報道にあたって、必要な注意

難民(難民申請者を含む。以下同様)を報道等の番組・記事(以下、番組等)で取り上げる際には、当事者を保護するため、以下の点について特段の注意を払う必要があります。

a. 個人を特定できないようにすること

番組等の中で、本人特定につながる以下のような情報を、視聴者/読者にわかるようにしないこと

  • 顔・名前・居住エリア・就労先
  • 身体的特徴
  • 出身国・地域、民族、年齢、難民となった/逃れてきた経緯など

仮に個別の情報では特定できなくとも、組み合わせにより特定することが可能になる恐れがあることに留意ください。

b. 情報が伝わる範囲によってリスクが高まること

特定の視聴者/読者に情報が伝わることで生じる被害があることを認識し、情報が伝わる範囲についても事前に本人と協議すること

  • 日本語以外の言語に翻訳することで本国に知られる可能性が上がること、テキスト化されることで検索されるようになることなどが懸念されます。
  • SNSなどで転載され、削除不可能になることも想定する必要があります。

あわせて、取材対象者や難民の尊厳を守る表現をすること、および個人の特徴を以て難民の一般化につながるような表現は避けることを、お願いします。

※ 背景にあるリスク

上記要請は、難民が個人が特定される形で番組等に出た結果、大きなリスクに繋がることを防ぐことが目的です。

難民が個人が特定される形で番組等に出ることには、以下のようなリスクがあります。

日本の入管(出入国在留管理庁)からの不利益のおそれ:

難民認定の審査を担当する入管が、番組等を見ている場合があります。入管は審査において、難民申請者の供述の一貫性を非常に重く捉えるため、複数回の面接のなかで些細でも異なる供述をすると、それを理由に難民不認定とされるケースが少なくありません。メディアで紹介された内容が入管の審査で話している内容と少しでも食い違う場合などに、難民認定に不利になる可能性があります。

また、番組等により違反(就労や許可されていない移動)を入管が知ることなどから、収容・送還等に影響が出る可能性もあります。

本国にいる関係者への不利益のおそれ:

国際報道経由で本国で知られることにより、本人やその親族・関係者に対してさらなる迫害が生じる可能性があります。

また日本国内のみであっても、在日大使館(※ 政治的な理由で逃れてきている方にとっては、自らを迫害するグループである場合が多い)が番組等を目にして、本国に情報が行く可能性があります。他にも、本国で敵対するグループ側の人物が日本で暮らしていることも少なくありません。

自身の社会生活における不利益のおそれ:

日本で、ヘイトスピーチ等の誹謗中傷の対象になる可能性があります。入学・就職等でネガティブに捉えられる、いじめ、アウティング(難民であることを知らせていない相手に知られる)、職場への嫌がらせなどの対象になることがあります。

迫害の内容・経緯などは近親者にも知らせていないことがあります。

さらに、取材された本人に限らず、難民全般や外国人に対するヘイトスピーチにつながる可能性もあります。

リスクを発生させないための具体的方法

被害が発生しないようにするため、以下をお願いします。

a. 番組等において、個人を出さない、もしくは個人を特定できない映像・テキストとすること

  • 顔や居住地などの判別を不能とする映像加工をする
  • 仮名を使用する
  • 出身国を明示しない (例)「中東出身」「東部アフリカ出身」
  • 迫害の内容・迫害を受けた理由・逃れた経緯を具体的に示さない

b. 本人および関係者に対して、上記リスクなどを十分に説明した上で、同意を取ること

当事者の同意は必須です。ただし、当事者自身もリスクを十分に見積もれないことがあること、日本で難民認定を得られず追い詰められているなどの状況から番組に出ることでの状況改善に過大な期待を持つことがあることにも留意ください。そのため当事者に加えて、できる限り当事者のことを知る関係者や、当会を含む難民支援団体などへも相談をお願いします。
(当該個人への直接の支援をしていない団体に対しては、個人情報を開示せずに一般論として相談をしてください。)

c. 使用される媒体・言語についての同意を取ること

どのような媒体、言語で発信されるのか、あらかじめ明示し、許容される範囲を確認してください。

SNSやウェブサイトでの追加掲載などについても、確認に含めてください。

また事後に、掲載媒体、放送されるエリア、言語等が変わる際には、改めて確認を取るようにお願いします。

なお、上記は番組等の中心となる人物だけでなく、映り込む周囲の人物についても、同様の注意が必要です。取材対象となる当事者以外の人物が映像・写真に含まれることは、できる限り避けてください(やむを得ず含まれる場合には、当該個人及び関係者の事前の了解を得てください)。

※ 子どもの扱いについて

子どもを番組等で扱う場合には、あくまで家族としての映り込みであったとしても、特段の配慮が必要です。外国にバックグラウンドがある子どもや難民申請者の子どもたちは、外見上の理由や経済状況、言葉や文化の違いなどから、そもそも学校でいじめの対象になりやすく、メディア出演はそれをさらに加熱させることにつながりかねません。子どもはもちろん、親もこうしたリスクについて想定できていないことが多くあります。本人と家族の承諾があったとしても、本当に問題ないのか、制作側も十分に配慮する必要があります。

個人特定による不利益の事例

記載したリスクは、いずれも過去に事例があります。以下は実際に起きたことを元にモデル化したものです。

事例1:入管の反感を買い、個人情報を公表されてしまった

難民申請者のAさんは、政府から「難民性が認められない」と難民不認定となった。Aさんは支援者と相談してマスコミにアピールし、難民性を主張した。Aさんのケースは、入管の対応批判とともに新聞で大きく取り上げられた。Aさんが記者会見をした直後、入管も記者会見を開き、Aさんの口座残高を発表。銀行口座に高額な預金があるために難民ではないと発表した。この会見も広く報道され、周囲から「お金持ちなんだってね」と言われるなど、厳しい世間の目にさらされることとなった。 Aさんは「難民性には経済状況は全く関係ない」と訴えたが、支援の世論も期待していたほどは集まらず、こんなことになるのだったら記者会見をしなければよかったと後悔し、その後の取材をすべて断っている。

事例2:本国の関係者に知られ、家族に危害が及んだ

フランスのメディアから日本の難民について特集したいので、日本で難民申請中の人を取材させてほしいと依頼された支援団体は、「個人を特定できない形であれば」と承諾してくれた難民申請者のBさんを紹介。しかし、メディア側とのミスコミュニケーションがあり、顔が出る形で本国で放送されてしまった。Bさんの出身国はフランスに大きなコミュニティがあるため、番組放送の結果、Bさんが日本で難民申請中であることが知り合いをはじめ本国の関係者にも広く知れ渡ってしまった。本国に残る家族が嫌がらせを受ける事態となった。

事例3:ヘイトスピーチの対象となってしまった

Cさんは難民認定され、在留資格も安定したので、難民への理解が日本社会で深まることに自分の経験が役立つならと思い、顔や名前を出してテレビ番組に出演した。放送後にYouTubeにアップロードされていた同番組(※公式チャンネルではなく第三者がアップロードしたもの)を見てみると、コメント欄には自身や難民に対する罵詈雑言が寄せられていた。Cさんは予想外の反響に傷つき、恐怖を感じ、それ以降はメディア出演は断り、相手の顔を見て話せる講演などの場に絞っている。

以上

[問い合わせ先]

認定NPO法人 難民支援協会 広報部

Tel: 03-5379-6001(代)

E-mail: info@refugee.or.jp

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