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活動レポート : 海外事例

ドイツ総選挙-日本の報道の傾向と問題

©European People's party

ドイツ連邦議会総選挙が9月24日に迫っている。日本の主要新聞では、2015年9月から2017年5月まで、各地で地方選が行われるたびに、難民政策が主要な争点として報道されてきたといっていい。そして、報道にはメルケル氏率いる「既成政党」対「難民排斥を訴える新興政党」の構造が常にあった。各社の見出しには「メルケル氏与党、州議会選で敗北 反難民政党、不満受け勢い(朝日新聞/2016年9月)」「難⺠政策で求心力低下(読売新聞/2016年9月)」「メルケル首相、求心力陰りも 独州議会選で反難民党躍進(日本経済新聞/2016年9月)」といったものが続き、争点は難民政策だけかのように読めてしまう。
本記事では、難民支援協会(JAR)が、2015年9月から2017年8月の主要新聞(朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞)のドイツ総選挙と難民政策に関する記事239件を通じて見えた、日本の主要新聞報道の傾向とその問題について分析する。

選挙の争点は難民政策だけではない

2017年5月以降は、メルケル氏が率いるCDU(ドイツキリスト教民主同盟)が地方選で勝利し、9月の総選挙に向けて各政党が公約を出した。争点は子育て世帯への支援や中低所得者に有利な税制改革など多岐に渡り、朝日新聞など一部の新聞では、これらの争点について、わずかだがその頃から報道した(※1)。それ以前に、新興政党であるAfD(ドイツのための選択肢) が一時的に勢いづいたのは、単純に難民受け入れの制限を巡ってのことではない。様々なEU政策の中で、旧東ドイツに存在する没落した中間層や、グローバル化による産業構造の変化、技術革新で置き去りにされてしまった人々の不安や不満が、「手厚く遇されている」とされる難民・移民への排斥へとつながったのだ(※2)。つまり、難民問題自体は表面的に見えている争点に過ぎない。難民受け入れに関する論点は、上限を設けるべきか否かという議論であり、公約において難民受け入れを一切否定している政党はない

しかしながら、日本の新聞報道では各社とも、AfDを一貫して「反難民政党」「難民排斥を訴える政党」「右派政党」「極右政党」「民族主義的な極右政党」と表現し、その支持率上昇について幾度も報道することで、選挙の争点は難民政策であり、現政権による難民政策が失敗している、あるいは、ドイツの世論が難民受け入れの拒否に傾いているかのような印象を与えてきた。確かにAfDは、メルケル氏が難民やイスラム教に対して寛容な発言をすると、好機とみて真逆の意見で挑発してきたが、自らは「リベラルな保守政党」「保守ポピュリズム政党」と位置付けており、今回の公約にも、難民受け入れ反対を掲げているわけではない。例えば、身分を証明できる人だけに滞在を許可し、できない人は速やかに送還するなど、身元確認の精度向上を求めているにすぎない。移民については、ドイツが人口減少社会であることを認めた上で、技術力のない移民が制限なく入国することを防ぐための「国境封鎖」を提案している。
つまり、2013年に反EU政策で政党活動を開始したAfDは、大量の難民がドイツに入国してから反イスラム、反難民の挑発的スローガンへと変え、テロなどが起こるたびに、国民の不安を吸収して一時的に支持を集めただけであり、反難民の市民の声から生まれた反難民政党でない。加えて、日本ではAfDに関する報道量が多いために、政局はCDU対AfDという印象を受けてしまわなくもないが、最近の支持率を見れば、第一位がCDU、第二位がSPD(ドイツ社会民主党)で、AfDは政局に影響を及ぼすような存在ではない。


※難民政策は移民政策のなかに位置付けられており、単独では取り上げられていない。
(出典)"ドイツ総選挙に関するQ&A". みずほ総合研究所(2017/8/16)
"How the policies of Germany's political parties match up". Financial Times(2017/7/19)
"Alternative für Deutschland(AfD)"公式サイト(2017/9/19閲覧)

ドイツの移民・難民政策を専門とする研究者の久保山亮氏によれば、ドイツの公共放送ARDが8月末に行った世論調査では、有権者が争点として重視しているのは、多い順に、

  1. 移民政策の抜本的改革(移民法制定や難民政策を含む)

  2. 国内の貧困問題、格差是正への取り組み

  3. テロなどへの不安からくる治安問題

  4. 公約の順守・国民の声を聴く・透明性の確保

などである。選挙の争点に、「新しい移民・難民制度法」の制定を掲げているが、有権者の圧倒的多数は差し迫った生活保障の問題に関心があり、移民の新たな受け入れ上限の設定や難民受け入れ数を減らしてほしいという意見は4%に過ぎなかったという。

難民=脅威なのか?日本の報道の偏り

さらに、ドイツの難民受け入れに関する日本の偏った報道は、日本社会に「難民=脅威」というイメージを植え付けていないだろうか。例えば、テレビ番組ではほとんど特集が組まれないなかで、貴重な映像となったNHKBS1スペシャル「難民110万人 ドイツの攻防~受け入れ支持vs反対の闘い」(2017年6月放送)では、もともと住民の階層格差や移民の社会統合で問題を抱えていることで知られ、テロ事件が起きた大都市のケルンを中心に取り上げたため、難民受け入れを巡る問題は当然目立ちやすくなる。久保山氏によれば、大都市や慢性的な低家賃住宅不足を抱える大学都市では負担は大きくなるが、人口減少にさらされ、空き家を多く抱える中小規模の自治体では、難民の受け入れが比較的進んでおり、一概にドイツでの難民の受け入れを断じるような言い方はできない。しかも、大多数の難民受け入れを担っているのはこの中小規模の自治体である。例えば、非正規滞在者に匿名保険証を配布する自治体や、難民向けに多種多様なプログラムを連日提供する自治体など、幾多の前向きな実践もある。数々の自治体でフィールド調査を行ってきた久保山氏はこう指摘する。「難民の受け入れや支援には、当然に課題も多くある。他方で、ドイツの自治体やNGOには蓄積してきたノウハウや解決策、成功例もあり、両方よく精査してゆくことが必要だ」。 上記番組は一例だが、日本のマスメディアによるこれまでの報道では、後者にほとんど焦点が当たっていないと言わざるを得ない。また、治安問題については、ドイツの主要新聞で報道されている難民保護施設へのドイツ人による襲撃事件はほとんど扱われていない点でも、偏りが見られる。

はたして、難民は脅威なのか。ドイツの代表的な調査機関であるアレンスバッハ世論調査研究所が難民受け入れのピークにあたる2015年11月末から2016年1月中旬に349の自治体を対象に調査したところ、難民受け入れについて、51%の自治体が、問題はあったものの克服できたと回答し、42%の自治体は、状況は良好で難民の社会統合はうまく進んでいると回答した。受け入れが過重と回答した自治体は7%に過ぎなかった。公共放送ARDによる約700の自治体への調査(2016年2月)では、373の自治体から回答があったが、負担が大きいと回答した自治体は6%で、負担になってはいるが、うまくいっていると回答した自治体が50%を占め、もっと受け入れる余裕があると答えた自治体も16%にのぼった(※3)。このような前向きな現状を報道せずに、「反難民政党」と表現するAfDの支持率の上昇や、難民・移民が関与したといわれる事件ばかりを取り上げることで、日本社会に「難民=脅威」という誤解が広がるのではないか。

ドイツは1945年から1950年代にかけ、戦時中に労働力として連行され故国に帰らなかった元捕虜や元強制労働者など戦争難民(displaced persons)、東欧諸国から追放されたドイツ系植民の子孫(被追放民)など少なくとも約1,650万人の難民を受け入れ、社会への統合を行ってきた歴史的背景がある。現在は、人口減少、労働人口不足解消のために、移民・難民を積極的に受け入れ、共生の道を探っている。ドイツ総選挙を、「自国第一主義」対「難民受け入れ」という短絡的構造にあてはめ、難民受け入れへの漠然とした不安を募らせるのではなく、ドイツの移民・難民受け入れの背景や実態を知り、日本ではどのような受け入れ方や共生が望ましいのか考えられる機会としたい。

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注釈
※1 "難民受け入れ規制、見送り ドイツ与党、公約発表". 朝日新聞(2017/7/4)
※2 "(社説)分断される世界 民主社会の価値観守ろう". 朝日新聞(2017/1/4)
  難民申請者が受給できる生活費は、日本の生活保護にあたる社会扶助を下回る額に抑えられ、現物給付が多く、医療へのアクセスも制限されている。失業中のドイツ人より手厚く遇されているということはない。
※3 "ドイツにおける難民の社会統合". 難民研究ジャーナル第6号

(2017年9月20日掲載)

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