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活動レポート

トランプ氏の大統領令はなぜ「問題」なのか? 

©Lorie Shaull

トランプ米大統領は1月27日、テロの抑止等を名目に、難民・移民の新たな入国を制限する以下の内容の大統領令に署名しました。

1.シリア難民受け入れの無期限停止
2.難民受け入れプログラムを少なくとも120日間停止
3.第三国定住による難民受け入れにおいて昨年、今年度の上限として確定していた11万人の受け入れを国籍にかかわらず5万人へ下方修正
4.少なくとも90日間は、イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの国民が米国へ入国することの禁止

空港に到着した難民等が米国への入国を許されず拘禁され、米国へ向けて出発しようとした難民が飛行機への搭乗を拒否され、家族再会がかなわないなど世界中で多くの混乱が生じています。国務省によると、ビザを取り消された人は6万人に上ります。2月3日のシアトルの連邦地裁の決定により、主要な部分の一時差し止めが命じられ、取り消された6万人分のビザも復活していますが、トランプ政権は法的に争うことを示唆しており、今後の見通しは流動的です。

すでに、日本を除く各国の首脳、経済界、カトリック教皇や多様な関係者が深刻な懸念を示し動いています。また、スターバックス社が1万人の難民の雇用を世界中で実現すべく発信するなど民間での取り組みも加速しています。
難民支援協会(JAR)も、世界の難民保護をリードしてきた米国の難民受け入れが機能不全に陥ることは、難民の命に係わる深刻な事態と考えています。これにより「難民を保護しなくてよい」「受け入れるべきでない」という排外的な考えが米国社会だけでなく、各国において勢いづくことを懸念しています。

難民が「市民」となり「くにづくり」に参加してきた米国

これまで、米国の難民受け入れは、州政府、基礎自治体、雇用主、地域コミュニティ、NGOを含む、彼らを受け入れる市民社会に支えられ、さらに受け入れられた難民による貢献もあり、発展してきました。
例えば、ニューヨーク州にあるユティカという町は人口6万人のうち1万人以上が難民です。難民を受け入れることにより人口減を食い止め、80年ぶりに人口減を解消、多様な背景を持つことが積極的に評価され「多様な人材が集まり、グローバル企業からも注目を集めている」とユティカを含むオネイダ郡のアンソニー・ピセンテ郡長は語ります*1。難民自身が起業しアメリカ人を雇用することも珍しいことではありません。難民の背景を持つ著名人は多く存在し、ノーベル物理学賞を受賞したアインシュタイン、クリントン政権時代のオルブライト国務長官、経済界でもグーグルの共同創設者であるセルゲイ・ブリン等多岐にわたります。大統領令は、この何十年にもわたり積み上げられてきた努力や貢献を否定するものにつながりかねません。

米国は、近代的な難民保護の仕組みができる前から、多くの難民を受け入れてきました。その価値は、人道主義に基づく寛容の意思が示されたということにとどまりません。世界中から集まった難民が「くにづくり」に参加し、政治的にも経済的にも国全体の発展に貢献する形で、受け入れを行ってきました。それは歴史が示す通りであり、歴代政権が共和党であれ、民主党であれ、その根幹を守ってきたことが、第三国定住難民全体の過半数を毎年受け入れてきたことを含め、世界の難民支援をリードしてきた原動力ともいえるでしょう。

その「伝統」の中で、民族、宗教の別を問わず、当たり前のように市民として暮らしている多くの難民やその子孫の生活がいま脅かされようとしています。全米各地で、暴力や嫌がらせが頻発してきています。これは単なる排外主義を超えて、かつてない大きな亀裂が国内で生じています。なにをもって「米国市民」なのかという考え方が揺らぎ、狭い了見の中で語られる「自分たち」と「それ以外の異質のもの」に分断されようとしています。

これに対して、多くの人々が「米国の伝統」を取り戻すべく、闘いを始めているのがいまの米国の姿のように映ります。とりわけ、イスラム圏や今回一時的にせよ入国を拒否されている国々の出身者は、母国での迫害を逃れて、歓迎まではされなくても、人としての尊厳が守られると信じてやってきた米国で、一転、白い目で見られるような立場に陥りつつあることに、どれだけの絶望感を抱いていることでしょうか。

なお、第三国定住難民は、米国へ入国する外国人の中でも、平均2年間という最も厳しい審査を経てきている人々であり、彼らの入国を避けることで国家安全保障の脅威へ対抗するというのは目的に対する手段として適切ではないといえます。

第三国定住という枠組みへの影響も懸念

国際的な難民保護の観点からは、トランプ氏が掲げている政策が実行されることで、第三国定住という枠組み自体が危機に瀕することを懸念します。国際協調の下、一時庇護国(主に周辺国)で保護される見込みがない難民を、第三国が受け入れるというこの制度は、現在世界の37か国ほどで実施されており、現在の避難先で不安定な状況にあり将来が開けない難民にとって最後の希望の手段です。この制度を利用できる難民は全難民のごく一部ですが、米国は全世界で行われている第三国定住の6割~8割を引き受けてきました。5万人という上限の設定は、2001年の米国同時多発テロ直後よりも少ない数です。全世界の6割にあたる第三国定住が止まる、減るということは、まず一義的にもっとも保護ニーズが高いと考えらえる多くの難民にとっては、深刻な事態です。また、影響は米国が受け入れを表明してきた難民の拒絶にとどまらず、政治的な火種を国内に抱えている多くの政権が、難民の受け入れに消極的な方向に政策の舵を切り、世界的に難民保護が収縮してしまうというリスクを抱えています。第三国定住でのみ救われる難民が数多くいる現状で、この決定は何十万人ともいえる難民の命に影響を与えかねません。

日本の課題-自力で逃れてきた難民への厳しい審査と待遇

日本でも、トランプ氏の大統領令が大きく報道され、懸念を示す声が紹介されています。しかし、翻って日本の難民受け入れはどうでしょうか。
アメリカが5万人に削減すると表明した第三国定住による難民受け入れですが、日本ではまだ第三国定住の枠は少なく、年間多くても約30人です。一方、自力で日本にたどり着き保護を求める人(難民申請者)は、2016年に1万人を超えました。しかし、一昨年の認定者数27人に続き、2016年も変わらず少ない人数に留まると予想しています。年間約700人・70か国からの来訪があるJARとしては、長期間結果を待つ難民申請者の中には、本来難民として認められるべき人々がおり、現在の認定審査は厳格すぎると考えています。
また、報道では米国の空港で収容された人々が取り上げられていましたが、日本でも空港で入国を拒絶され、収容されるケースは頻繁に発生しています。例えば、昨年9月時点で成田空港の収容施設から長期の収容施設へ移送された人は88人います*2。日本で退去強制令書の発布後の収容は無期限で、アメリカのように即日裁判所が身柄を放免することは皆無です。
難民審査に時間がかかる(平均で約3年間)と同時に、その間の最低限の生活保障もわずかで、ホームレスに陥ってしまう難民も存在しています。本来、たとえ数か月であっても難民申請に時間がかかるのであれば、その間の生活を保障し、少しでも早く自立できるよう日本語等の教育を提供することが、難民と受け入れ社会双方にとって有益ですが、現状はそのような仕組みがありません。

すでに共にある2万人の暮らし

制度の課題はある一方、インドシナ難民の受け入れから数え、日本にはすでに約2万人*3の難民が生活をしているという実態があり、共生へ向けた取り組みがなされています。例えば、日本語が十分にわからない難民に地域住民が病院や役所に通訳として付き添ったり、難民の故郷の味を学ぶ料理教室で難民と地域住民が集ったりという事例があります。企業からは多様な経験や能力を持つ難民の力を通じて会社に活力を与えたいとして難民の雇用を求める問い合わせが増えています。2万人の中には難民申請者として結果を待つ人たちもいます。申請者が増え、審査期間が長期化する中で、約1万人の人たちが審査の結果を待ち、先が見えない不安で孤独な状況にいます。しかし、だからこそ、地域の人と自らつながり、支え合える関係を作って、希望を失わないよう日々を生き抜いている人も少なくありません。つまり、2万人の難民の生活には、家主、学校の先生、PTA、病院、自治会、雇用主など多くの人が関わり、トラブルや衝突はあっても、それぞれ暮らしが成り立っているのが実態です。難民は、すでに社会の一員として共に暮らしている存在といえるでしょう。

難民への不寛容な姿勢が何をもたらすのか、この1週間足らずに私たちは多くの現象を目の当たりにしてきました。難民の命の危機であり、家族の分断であり、経済的な混乱と機会の損失など枚挙にいとまがありません。米国の現象は、私たち自身に、難民とどう向き合うのか、問うているのではないでしょうか。

日本での難民受け入れは、道半ばです。今後、多くの困難も想定されることでしょうが、難民支援協会(JAR)は、関係者の方々とともに、難民を受け入れられる社会を目指し、引き続き活動してまいります。

出典

*1 『朝日新聞』 2015年11月25日「難民で再生する町 支援30年 米ニューヨーク州ユティカ」
*2 東日本入国管理センターとの質疑応答 
*3 JARウェブサイト「難民を知る」

(2017年2月6日掲載)

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