解説記事・声明等

韓国・米国とともに取り組む難民受け入れ

    日本福音ルーテル社団(JELA)の発行するJELAニュースに、社会統合に焦点を当てた日本、韓国、米国の3か国の交流事業に関する難民支援協会(JAR)の報告が掲載されました。9月に各国の主要な関係者を招いて開催された円卓会議の模様を報告しています(下記転載)。

    はじめに

    去る9月6日に、JELAミッション・センターにて「難民をどのように受け入れていくか(難民の社会統合)」をテーマに円卓会議を開催しました。この会議は、お互いの難民受け入れ実践から学びあうことを目的に、難民支援協会(JAR)が、韓国ならびに米国の難民支援団体と協力して行っているプロジェクトの一環で、国際交流基金日米センターより助成を受けています。今回は、そのプロジェクトにおける最初の大きなイベントであり、各国の難民支援の現場で活躍する方々を、韓国から6名、米国から2名お迎えしました。日本からは、当事者である難民の方、国会議員(武見敬三参議院議員、中川正春衆議院議員、山内康一衆議院議員)や政府関係者、UNHCR、研究者、難民の雇用主の方々、さらには在日米国大使館の方、難民支援NGOも参加し、総勢約40名の参加者で活発な意見交換が行われました。まずは、韓国と米国の難民受け入れの取り組みについて以下で簡単にご紹介し、円卓会議の様子を報告させていただきます。

    韓国における難民保護

    1992年に難民条約に加入した韓国は、1993年に出入国管理法(以下、入管法)を改正し、難民認定制度を導入しました。日本の制度を模して制定された韓国の難民認定制度は、日本と同様に入管法の中に規定されており、難民保護とは相反する「外国人の出入国管理」という視点に基づく法律の中に位置づけられたことによって、審査機関の独立性の欠如や適正手続の不十分な保障、重すぎる立証責任など、多くの課題を抱えていました。このような状況を打開するため、韓国の難民支援NGOや弁護士、国会議員が協力し、2011年12月29日には、アジア地域で初となる独立した難民保護法が議員立法によって国会で可決されました。この法律は、弁護士や通訳人を付ける権利や家族統合の権利、申請中の生活保障、第三国定住による難民の受け入れなど、日本の法律では規定されていない条文が多く含まれており画期的なものです。近年では、難民の認定率も、11%と日本の10倍以上で、難民保護の分野で進化を遂げています。日本と韓国の難民支援NGOは、約6年前から交流を続け、良好な協力関係を構築してきました。

    米国における難民の受け入れ

    米国は、長年にわたる難民受け入れの歴史があり、毎年5万人以上の難民を第三国定住として国内に迎え入れてきました。政府と難民支援NGOの連携は深く、受け入れる難民の選定から入国前後の研修、定住支援にいたるまで、多様な協働の取り組みやプログラムが実施されています。それ以外に、個別に認定される難民は2万人以上、認定率は50%を超えています(ちなみに、日本では、2012年に難民認定された人数は18名、難民認定率は、一次申請・異議申し立てを合わせて0.56%と過去最低を記録しました)。これまでも、JARは、国際救援委員会(the International Rescue Committee (IRC))をはじめ米国の難民支援団体とは長年に渡り様々な形で協力関係を築いてきましたが、今回は韓国も入った3カ国の学び合い・連携によって、よりよい難民受け入れの在り方を追求したいということで、本プロジェクトに加わっていただくことになりました。

    円卓会議の様子

    conference.jpg円卓会議では、日本、韓国、米国のそれぞれの取り組みが各国代表から紹介された後に、難民の社会統合を考える上で大きなテーマである雇用と教育を中心に、積極的な意見交換が行われました。雇用については、米国から、国内の経済状況悪化の影響で、難民の雇用先を見つけるのに時間がかかるようになってきている一方、難民は食肉業界やホテル産業で定着率が非常に高いことや、母国での資格(博士号、弁護士、医師等)が米国で活かせない現状を踏まえて、海外の資格再認定の簡易化を働きかけている現状が紹介されました。そして、連邦ならびに州政府、地域コミュニティ、ボランティアといった様々な関係者との協働が優れた実践には欠かせないことが繰り返し言及されました。教育については、大人に対する就労前研修から、子どもへの教育、語学教育など多岐にわたる議論が展開され、日本からは、日本語の習得が遅れがちな子どもに対する「取り出し授業」の取り組みや、外国にルーツを持つ子どもたちを対象にした夜間の学習支援活動などが紹介されました。その後、話題は、よりよい難民支援制度に向けた提言や働きかけの方法に発展しました。韓国からは、難民保護法制定の例を挙げながら、国内のみならず、国境を越えたネットワークと協力関係の重要性が強調されました。いずれの参加者からも、民間同士や官民といった多様なステークホルダー間の継続的な対話や連携が、よりよい政策と制度設計、そしてプログラム運営の鍵となることが確認され、会議は終了しました。

    おわりに

    円卓会議後は、韓国と米国のゲストを中心に、新宿区の学習支援プログラム、夜間中学校、難民コミュニティの訪問などを行い、日本の取り組みに直接触れていただく機会を設けました。そして、最後に日米韓の支援団体で会合を持ち、今回の東京訪問の振り返りを行うとともに、次に予定されている韓国と米国への訪問や、今後のプロジェクト運営の方向性について話し合いました。11月には、韓国のソウルを訪問し、韓国での取り組みの視察や政府機関を含む韓国の関係者との会合を持つ予定です。東京で開催された円卓会議は、日本、韓国、米国の3か国が、難民受け入れについて連携する貴重な契機となりました。会場を快くご提供いただいた日本福音ルーテル社団と、開会挨拶を引き受けてくださった同事務局長の森川博己さんに心より感謝申し上げます。
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