Refugee Talk 特別版開催レポート-失われた指紋?!

自分が「じぶん」であることを、あなたはどう証明しますか?
自分の存在を証明できない。
難民にとって、逃れた先で自身を証明することは簡単ではありません。命からがら逃れてくる中で失ったパスポートや故郷とのつながりを示す書類。たくさんの証拠書類の提出が求められ、平均3年の審査期間がかかる日本の認定制度により、多くの人が「難民」として認められずにいます。
6月20日に開催した「Refugee Talk-世界難民の日特別版」では、難民の方によるゲストトークに加え、そんな難民の存在を伝える「THE MISSING FINGERPRINT」のお披露目も行いました。

自分を証明するものがない

満員御礼の50人が参加。前半はビルマ出身のチョウチョウソーさんをゲストに迎えて、難民となるまでの経緯や、日本での暮らしについてお話しいただきました。
母国の民主化運動に携わり軍事政権に狙われるようになったチョウさんは、最初にビザが下りた日本へ逃れることを決意します。来日した1991年当時、難民をサポートする団体はほとんど無く、難民申請に関する情報にアクセスできなかったといいます。数年後にようやく知り得た難民申請ですが、一筋縄にはいきませんでした。パスポートと鞄一つで逃れてきた彼が直面したのは、自分を証明するものがない、という現実。帰国すれば迫害されてしまうことも、そもそも自分がビルマ出身だという証明もできない―

書類の作成だけで4ヶ月かかりました。出自を証明するIDカードは、当局の目を避けるため、ビルマの親戚がタイに渡った上で日本に郵送してくれたといいます。自分を証明することはこんなにも難しいものなのか。その間の生活も困難を極めましたが、どんなに厳しい状況でも、母国で苦しむ仲間より自分は恵まれている。国に残っている人たちのほうがずっと大変だ、という思いがチョウさんの原動力でした。

日本で暮らすすべての人が「財産」だと思える社会へ

20年以上暮らしている日本について、難民や外国人を「日本の財産」と思ってほしい。外国人だからといってマイナスにとらえるのではなく、教育や、挑戦の機会を与えられればその恩恵は社会に還ってくる、と力強く話してくださいました。彼自身、現在はNHKビルマ語放送のキャスターとして勤務する傍ら、高田馬場でビルマ料理レストラン「Ruby」を経営。さらに、祖国の民主化運動も諦めることなく続けています。難民の方々は自由や平和といった、日本社会で当たり前に享受されているものの価値を再認識させてくれる、まさしく財産のような存在なのではないでしょうか。
和やかな雰囲気に包まれた後半の懇親会も、チョウチョウソーさんの締めの挨拶でお開きに...、と見せかけて、実はここから、イベント第二部に突入です。

THE MISSING FINGERPRINT 消されたIDを、見えるIDに。

参加者が帰ろうとすると、あちこちから、「あれ?」「開かない!」という声が聞こえてきました。来場時に靴を預けた指紋認証ロッカーが、開かないのです。確かに自分の指紋でロックしたはずなのにどうして...。ほかにあける方法はないのか? 焦りや不安、あるいは苛立ちを感じた方も少なくなかったかもしれません。

実はこれも企画の一部。題して「THE MISSING FINGERPRINT(失われた指紋)」。来日した難民が直面する、自分を証明する術がないときの心情を少しでも体感・共感していただく機会になればと思い、企画しました。参加者50人の中でひとりだけロッカーが開き、IDを失わなかった方がいました。昨年の難民申請者数は5,000人、認定されたのはわずか11人。桁数こそ違うものの、難民として認定される確率の低さや難しさも体感していただこうという意図からです。

自分が「じぶん」であることの証明を求められたとき、どうすればいいのでしょう。パスポートや免許証を提示する、知り合いや家族に頼む、など簡単なことのように思えます。ではそれらを持たず、異国にひとりで逃れてきたら?自分を証明できるのは、究極的には自らの身体。なかでもIDとして象徴的なものが、指紋です。

ロッカーが開かない種明かしをし、参加者が振り返ると5枚のポスターが並んでいました。よく見ると、ポスターには伝統的な和柄にかき消された指紋が...。エチオピア、シリア、ビルマ、ロヒンギャ、カメルーンの5人の難民の指紋です。ポスターをスマホで読み取ると、指紋の持ち主のインタビュー動画が流れる仕掛けをしました。ポスターやインタビュー動画を食い入るように見る皆さんの姿が印象的でした。

「指紋」が想起させるネガティブなイメージを逆手にとって、日本で暮らす難民の存在を伝えるこのキャンペーン「THE MISSING FINGERPRINT」は、ここからがスタートです。今回のイベントの様子や、インタビュー映像を含めた動画を作成し、発信していきます。動画は7月末に完成予定。乞うご期待!

執筆者:​櫻田 千織(難民支援協会(JAR)
広報部インターン)

大学で行われたJARスタッフの講演がきっかけで日本の難民問題に関心をもつ。フィリピン、インド、ベトナムへボランティアとして赴き、8月からは米・テネシー州で女性の人権について学ぶ。