難民支援協会と、日本の難民の10年

シーズ=市民活動を支える制度をつくる会 副代表理事・松原明さんのお話

NPOの王道を歩む難民支援協会

 難民支援協会(JAR)の立上げにあたって、NPO法のことや事務所の場所について初代事務局長となった筒井さんが相談にきたことを思い出します。難民分野で団体を立ち上げるということは、「熱い思い」だけでは続けられないこと、アドボカシー団体として運営していくのは「とても大変だよ」とアドバイスしたことを覚えています。

 JARは、難民の生活支援を行うという「現場」を持っています。そして、その現場から政府に提案をする活動を同時に行うことでNPOの役割を果たしています。そういった面でいうと、NPOの王道を歩んでいると言えます。

 JARは、「離陸期」が終って「成長期」にあると思います。まだリスクはありますが、今後も成長させたい団体です。人材が必要な活動なので、人を増やしていくことは必要ですが、今後どうやって手当てを増やしていくか、伸びている今、10年後をどれだけはっきりと描けるかが大切です。


なぜNPOが必要か

 政府は大きな資金を動かしますが、細分化した資金を配分する役割としては向いていません。NPOはその逆です。また、生活支援などの具体的な社会サービスは政府にはできません。社会サービスの現場を担って、スクラップ・アンド・ビルトをし、その現場からの提案を政府に届けていくのが民間の役割です。

 どのようなセーフティネットが必要か、そのためにはどういう仕組みが作れるか。政府の役割はどこまでか。かかる資金はいくらかということを現場である民間から提案していく必要があります。これは、官がやっていたことを民間が担うことでコストをどれだけカットするかという話とは違うものです。

 政府は今、負いきれない責任でアップアップしています。ある程度の公共ファイナンスを民間でやっていかないと、日本国がもたないのが現実です。自分たちの生活は自分たちで守らないといけない状況になっているのです。

 また、社会の変化に対応した市民活動が必要です。例えば人権保障の最大の担い手は、過去は国家でしたが現在は違います。国家によるものだけでなく、市民による人権侵害が頻繁に起こっています。市民社会の中で人権保障の制度をつくっていく必要がでてきました。
 アドボカシー活動がメインだった以前の社会運動と現在の市民活動は異なるのです。


「公設民営」の難民支援について

 日本政府は難民条約を批准しており、難民保護を約束しています。政府も責任を果たすべきであり、私たちが政策や予算を要望していくことは必要ですが、公的資金に期待しすぎるのはよくありません。

 国、自治体に対する市民からの要望は増えていきます。消費税を上げたとしても、歳出を支える歳入が足りません。新しい分野に支出できないか、できてもギリギリで、その支出が継続する保証はありません。

 日本政府、地方自治体は膨大な借金を抱えています。人員削減をしたくても、そのための退職金が出せないからリストラができない自治体もあるほどです。財政をどう圧縮していくかが課題なのです。そのことを前提に今後を考えていく必要があります。

 また、日本の行政はプランニング能力がありません。首長は選挙の度に新しいことを打ち出します。部下、官僚も新しい提案をしていかなくてはならない中で、作文のうまい人たちが現場を振り回しているとさえ言えます。
 例えば「難民支援センター」を全国につくるという政策が突風のように出るかもしれません。しかし、80年代にできた自治体の「国際交流協会」や90年代の「女性センター」、2000年代の「NPOセンター」はどれもリストラの対象になっているのをみても分かるように、10年もたないと考えるべきでしょう。

 特定分野がある時期熱くなることはあっても、長期的には政府の財源とサービスは低下します。公設民営の問題は、初年度が最高額となるということです。その後は監査が入るごとに減らされます。このようなことを加味して、財政負担が増えない形で設計図を描くことが必要となるでしょう。


組織基盤の強化とファンドレイズ

 JARは、助成団体や企業に対していいチャレンジをしていると思います。勢いがあるのはいいのですが、それだけでは今後もちません。助成金を獲得できているうちに、他の財源を確保することがポイントです。

 日本では、助成団体や企業等の民間の資金リソースは増えてはいますが、一方、それを必要とするNPOの数も増え、同時に資金を得るための能力向上の速度が早く、資金が追いついていない状態です。
 企業のCSR活動は発展しましたが、社会貢献活動そのものに振り分けられる割合は多くはありません。そのため、限られたリソースを多くのNPOで分け合うことになり、資金が小口化しています。

 また、助成団体の中では法人改革で公募が増えて、審査員が審査するタイプが増えており、分かりやすい活動が資金を取りやすくなる傾向にあるでしょう。短期的に見ると、JARは助成を受けやすいでしょうが、中・長期的にみたら頭打ちとなることを考えておく必要があります。

 どんな団体にも激動があり、右往左往する時期はあるものです。JARは今後「中期方針」を策定し公表していくということですが、活動の結果、何が達成できたのかを問われる時期にきているでしょう。支援する難民の数がミッションなのか、そして、政府に頼らない、または政府と協働したセーフティーネット作りをしていくのか、戦略が問われるでしょう。アドボカシー面の目標設定、達成点がどこなのかについても問いたいと思います。

 日本の難民の数は今後も増加していくと思いますが、どのように増加していくのかを国際情勢を織り込んで考え、そのための準備と政策提言をしていくべきです。
 その際は、行政の財源が枯渇することも想定し、難民の包括的支援策を財政負担が増えない形で設計していかなくてはならないでしょう。


難民を受け入れる社会

 私は日本が難民を受け入れる国になって欲しいと思っています。難民を受け入れることは、国の責任論や負担を分担するという考え方ではなく、魅力ある国・社会をつくっていくことだと思います。

 JARは、難民支援のオピニオンリーダーになるべきです。「やり方をこう変えてはどうか」「こういう仕組みを作れば、難民は社会の重荷にならず利益になる」という具体的提案をしていくべきでしょう。国益が大切だという人には、難民をきちんと扱わないことで国益が損ねられているということを論理的に打ち出していけばいい。

 人間に投資することで社会が発展し国際競争力がつくのであり、「こういう社会を選びませんか」という社会提案をJARだからこそできるはずです。JARが描く社会は多くの人に支持されることと思います。

(インタビュー:2010年5月)

NPO法人シーズ=市民活動を支える制度をつくる会
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