夜、ふと目を閉じると、あの日の光景がよみがえる。
故郷で受けた迫害。
日本へ逃れてきたファハドさん。
しかし、避難してきた日本でも、安心できる居場所を持てない状況が続いています。「アラブ地域出身 ファハドさん(仮名)のケース」

アラブ地域出身 ファハドさん(仮名)のケース


ファハドさんの母国では宗教的武装組織が権力を握り、異なる宗派や思想を持つ人々は迫害されていました。報道機関に働いていたファハドさんは、自身が取材した報道が組織について批判的だったとされ、組織の兵士に拘束されました。
命の危険を感じたファハドさんは、解放された後、国際会議が開催される日本に出張の機会を得て、難民申請を行いました。

やっと安全な国に逃れることができたと思ったのもつかの間、認定率の低さや申請の結果がわかるまで何年もかかると聞き、絶望的な気持ちになりました。母国でも夜になると拘束された日々がよみがえり、不眠に悩まされ続けていましたが、日本での不安定な状況がよりファハドさんの心の重荷となっていました。
知り合いも言葉も通じない日本で、頼れる人は誰もなく、所持金はあっという間に底をつき、数週間後にはホームレス状態に陥りました。

さらに、国民健康保険に入れないため、不眠が続いても病院に行くことを我慢し、体調を悪化させてしまいました。難民申請中の身では、いつ収容されるかわからない不安も、常に彼を苦しめました。

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写真はイメージです。

日本での「終わらない」不安

難民の多くは、ファハドさんのように、想像を絶する過酷な経験をしています。そのうえ、 日本では難民申請中に長期間、不安定な生活を余儀なくされます。

日本の難民認定率はわずか2.2%。欧米諸国に比べて極めて低く、結果が出るまで平均3年もかかります。難民認定の結果を待つ間、彼らは「どうやって生き延びるか」という厳しい現実に直面しています。

難民申請時に在留資格がある場合、一定の条件のもと、概ね8か月後に就労許可を得ることができますが、難民認定の結果が出るまで、就労許可を得られれば仕事を探して生活の自立を目指すことになります。

一方、来日直後などで就労許可も住まいもない場合、ホームレスに陥るほど難民申請者の困窮は深刻です。保証人を見つけるのが難しいため、住む場所が見つからず、支援団体が提供する一時シェルターや知人の家を転々とする方も少なくありません。 安定した住所がなければ、行政サービスを受けることも難しくなります。

医療や食事もままならない状況です。 健康保険に加入できず、十分な医療を受けられない方もいます。 また、就労制限により収入がないため、食べるものにも困窮し、支援団体からの食料配布に頼って生活しているのが現状です。

【難民認定数の各国比較(2024年)】カナダ:認定48,671人 (認定率 70.0%), ドイツ:41,107人 ( 15.6%), フランス:40,749人 (20.3%), 英国:37,021人 (42.4%), 米国:35,701人 (57.7%), イタリア:6,024人 (7.7%), 日本:190人 (2.2%)。なお、米国については2024年半ば時点の数字

計算方法は注記参照1

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ファハドさんへのJARの支援


JARでは、生活面での物資提供として、パンやコメなどの主食や、保存のきく豆やトマトの缶詰、油や塩・砂糖、野菜や果物などを継続的にお渡ししました。ムスリムの方が安心して召し上がっていただけるハラル認証の入った缶詰は、数に限りはありますが、可能な範囲で提供しています。

言語の壁や複雑な難民の母国の政治や宗教状況を理解することも必要なことから、適切な心療内科を探すことは簡単ではありませんが、ファハドさんの治療を引き受けてくれる心療内科が無事見つかりました。JARは毎回の受診に同行し、クリニック予約のサポートや通訳、医療費の支援などを行っています。

JARでは包括的な支援の中でメンタルヘルスも重要と考えており、積極的に受け入れてくださる医療機関の開拓を粘り強く行っています。

私たちJARは、このように個々の状況に応じた多岐にわたる支援を通じて、難民の方々が日本で安心して暮らし、未来に希望を持てるよう支援していきます。

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<難民認定・不認定とは>

難民として認定されると、定住者として安定して在留でき、社会保障制度に加入したり、将来を見据えて生活や仕事をしたりすることが可能になります。
難民認定手続きは、一次申請と審査請求(異議申し立て)の二段階となっています。審査請求でも不認定となり、再度の難民申請を行う方も少なくありません。2024年6月に施行された改正入管法では難民申請が3回目以降の人はに強制送還の対象となりましたが、そのような方の中にも、訴訟により難民として認定された方がいます。

日本の難民認定プロセスにはさまざまな問題があり、不認定となった方の中にも本来難民として保護されるべき方が多くいるのではないか、とJARでは考えています。さらに、認定・不認定の結果が出るまで長期間かかり、その間のセーフティネットも脆弱です。

厳しい冬を前に、一人ひとりへの支援も進めています

日本に逃れた難民の方々にとって、過酷な冬が近づいています。来日後ホームレスになって野宿になっている方、保護費を得られず待ち続けている方、体調を崩された方など、日々相談に応え、医/衣食住の提供を行なっています。
母国から遠く離れた日本で、難民の方々は不安の中におかれています。私たちの支援で、すぐに安定した生活とすることはできません。しかし、少しでも安心をできるよう、日々相談に応えながら、食料や住居の提供や医療へのアクセス、就労の支援などに取り組んでいます。

日本に逃れてきた難民をこれからも支えるため、どうか力を貸してください。

ご寄付は、難民の方々への直接支援や、難民を受け入れる社会を目指した政策提言・広報活動に大切に活用します。

ご寄付で、たとえば以下の活動資金を支えることができます:

医・食・住の生活支援

日本で頼る先がない難民に、個別で相談に応じています。一人ひとりの力を引き出すことを考え、来日後の厳しい状況から自立への道のりを支えます。緊急性に鑑み、シェルターを提供したり、国民健康保険に入れないなか適切な医療を受けられるようサポートしたりすることも、支援活動の一つです。

難民認定を法的に支援

申請手続きは、非常に複雑で難しいものであるばかりでなく、多くの資料の提出が必要です。保護されるべき人が難民認定を得られるよう、手続きのアドバイスや証拠資料の収集・作成をサポートしています。

経済的な自立をサポート

自立した生活を行うためには、働いて収入を得ることが必要です。就労を希望する難民に対して、日本での仕事探しの方法を伝えるとともに、それぞれの難民に適した企業との橋渡しを行い、雇用を実現しています。

社会への働きかけ

自治体、学校、病院など、地域社会をつくる人びとと難民を橋渡しし、難民が社会の一員として、地域のなかでつながりを持ち生きていけるよう支援しています。 さらに、難民を取り巻く問題の背景には制度的な課題が多く、また難民の存在が多くの方に知られていないこともあります。そのため、政策提言や広報活動にも力を入れています。

もしあなたにご支援いただければ…

ご支援によって、日々の難民への直接支援や社会への働きかけを含む、難民支援の活動全般を続けることができます。

ここ日本で困難な状況に置かれている難民の方々を支えていくため、お力添えをいただけましたら幸いです。ご理解とご協力に心よりお礼申し上げます。

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難民支援協会へのご寄付は、税控除の対象になります。

当会は「認定NPO法人」(東京都の認定)であり、確定申告により、寄付金額の最大約40%(東京都にお住まいの方は、最大約50%)が税金から控除されます。
※ 個人の場合。法人からのご寄付への優遇もあります。

詳しくは、こちらをご覧ください。

Q&A

Q1: 日本にいる難民は「不法滞在2」なのですか?

2024年に難民申請をした人のうち94%3が在留資格を持っています。しかし、在留資格がない状態の方もいます。緊急時ゆえに正規のビザ等なしに逃れて来ざるを得なかった、情報を知らず難民申請が遅れてしまった、また、日本の厳しい難民認定基準により一旦、難民不認定となり、2回目以降の難民申請時に在留資格がない状態となったなど、さまざまな理由があります。

複数回の難民申請をする人も、日本の難民認定制度上の課題ゆえに認定されず、なおかつ迫害の危険のある母国に帰ることもできないため、非正規滞在になることを受け入れやむを得ず再申請を行っているという実態があります。支援現場での経験から、かれらは意図的に非正規に滞在しようとしているわけではないと言えます。

Q2: 難民が増えると治安が悪化するのでしょうか?

SNSや一部報道で難民問題と治安悪化を結びつける意見が見受けられますが、それらを関連付ける統計なしに言説が広がっているのが実態です。統計によると、外国籍者の犯罪率は日本国籍者とほぼ同じか少なくなっています4

背景の異なる難民の受け入れにおいて、社会との摩擦や衝突はつきものですが、試行錯誤を重ねながら多様な人々との共生を図っている地域社会の事例もまた多々あります。難民の方の多くは日本社会で安心して暮らしたいと強く願っています。一部の情報がことさら強調して描かれる対立に振り回されず、そういった地域の努力や難民の方のリアルな思いをしっかり受け止めたいと考えており、JARでは自立に向けた支援や地域との連携などにも取り組んでいます。

Q3: なぜ難民は日本に助けを求めてくるのですか?母国に帰ることはできないのでしょうか?

日本をあえて選ぶというよりは、逃げる先を探すなかで、最初に日本のビザが下りたからといった理由が多いです。

難民は、母国に帰れば命の危険がある、あるいは人権の侵害のおそれがある人々です。日本は国際社会の一員として、難民条約に基づき、迫害から逃れてきた人々を保護する責任があります。

日本で受け入れられた難民の方が第二の人生をはじめる姿を、支援活動を通じて多く見てきました。JARでは、認定されるべき難民が認定され、傷ついた尊厳や失った権利を回復できるよう、活動をしています。

Q4: 働くことが目的で難民申請する人もいるのですか?

まったく難民の背景がない人が就労目的で難民申請をすることは、本来の制度の趣旨ではありませんが、現状の制度では、就労目的で難民申請を行う人が多いとは考えにくいです。

たとえ就労を望むとしても、就労許可を得るまでには時間がかかり、再申請者には原則として就労許可がおりないためです。一方で、「難民であること」と「逃れた先で働き、自立したいと願うこと」は決して矛盾するものではありません。仕事を通じて人や地域とのかかわりを持ったり、日本での生活習慣を知ることにもつながります。

また、就労のみを目的とした難民申請5者に対しては、適切な手続きにのっとり難民不認定とする一方で、難民認定制度の枠内でのみ対処するのではなく、労働力を必要とする日本社会の現状に対応した移民政策の整備も進める必要があります。

Q5:「本当」の難民かどうか、どう見極めるのですか?

出身国の状況や難民申請者の主張をもとに、難民条約の定義にあてはまるかどうかを確認し、判断します。

迫害のおそれの物的な証拠を示すことは難しく、安全に出国するために、あえて証拠書類を持参しなかったという人も少なくありません。そのため、難民認定では、申請者本人が語る内容の一貫性や具体性が重要な判断材料となります。

ただし、人の記憶は本来あいまいであるうえ、過去の体験によるトラウマの影響で記憶が断片的になることや、時系列が前後することもあります。難民かどうかを判断する

作業は、単なる事実確認にとどまらず、心理的・社会的背景への理解を含む、高い専門性と人権意識が求められる仕事です。

なお、国連は、証拠を提示することが難しい難民の状況を考慮し、「疑わしきは申請者の利益に(灰色の利益)」すること、難民を迫害の危険がある国へ送還してはならないこと(ノン・ルフールマン原則)を、難民認定における重要な考え方として示しています。

難民支援協会(JAR)概要

私たち難民支援協会は、1999年に日本で設立。
日本に逃れた難民への支援を専門に、累計8,000人以上の方々をサポートしてきました。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のパートナー団体です。

個人(約4,700人)や企業からの寄付、助成金等、さまざまな資金で活動しています。
第20回東京弁護士会人権賞(東京弁護士会)、第8回沖縄平和賞(沖縄県)等受賞。

団体名認定NPO法人 難民支援協会
設立1999年7月
代表理事石川えり
所在地東京都千代田区西神田2-5-2 TASビル4階

スタッフから

JARでは毎日、20名前後の方が来訪され、相談に応えています。どのように生き延びられるか強い不安に置かれる中でJARに感情をぶつけて来られる方もいますが、その背景をできるだけ理解するよう努め、面談を通じて訴えを受け止めています。

難民の方々への支援は、一人ひとりに対しても、また制度に対しても、長い時間が必要になると覚悟しています。ぜひこれからも、私たちを支えてくださるよう、お願いいたします。

  1. 難民認定率= 同年の認定数 ÷ (同年の認定数+不認定数)。日本の場合、190÷(認定190人+不認定8269人)=2.2%[]
  2. 国連や諸外国では、特定の状況にある人への不信感や差別意識を助長しないよう、「不法」という言葉を避け、「非正規滞在」「無登録滞在」といった表現を用いることが適切と呼びかけられています。[]
  3. 出典: 出入局在留監理監理庁 令和6年における難民認定者数等について[]
  4. 出典: 國崎万智「取材から見えた、日本のレイシャルプロファイリング現在地」宮下萌(編)『レイシャル・プロファイリング 警察による人種差別を問う』 2023年・大月書店[]